外出自粛映画野郎「恐怖の獣人」
映画に興味のある人ならば、まさかロジャー・コーマン師の名前を知らない人はいらっしゃらないでしょうね。
ハリウッドで100本以上の映画を作って10セントの損もしなかったコーマン師の、これは代表作のひとつ。なにしろ、製作と監督を兼ねています。
数多い(ホントに多い)コーマン師の作品中でも、わりと知名度のあるほうの映画でしょうか。といっても、知名度のある、だれでも知っているような名作やヒット作が、そもそも少ないコーマン映画ですが。そのほとんどは、ドライブインシアターなんかで上映され、何も考えていないような若者たちがデートや飲み会がわりに観にくるようなヤスモノ映画なんですね。
それにしても、すごい邦題ですねぇ。「恐怖の獣人」 どこをどう考えたら、こんなタイトルを考えつくんでしょうか。
もっとも原題もけっこう凄いですよ。「TEENAGE CAVEMAN」
「十代の穴居人」ですか? 意味不明すぎますね。
この映画が公開された1958年ごろに、若者がこれまでの社会に反発するという「非行少年もの」が流行っていたからですね。ジェームズ・ディーンあたりの映画を思い出してください。あ、知らないか。
もちろん、タイトルに「ティーンエイジ」を冠する映画のほとんどは、ウケそうだからとそうしたタイトルをつけただけのものです。映画屋さんが、そんなに真剣に若者のことを考えるわけがないでしょ。
この「十代の穴居人」も、要するにドライブインシアターに観にくる連中はティーンエイジャーがほとんどだからといった理由で、こう名付けられたってことでしょう。
とはいえ、いちおう親の世代からの言い伝えに反発した若者が、禁断とされている地に赴くといった内容なので、あながち見当違いばかりではありません。こじつけっぽいけど。
ということで、ご覧のような映画になっているのですが、当然のようにツッコミどころ満載なわけです。公開当時の若者たちは単純にキャーキャーいいながら観ていたんでしょうが、その後の世代の若者たち(映画オタク)は、こうしたツッコミどころをツッコミながら楽しんでいるのです。
たとえば……
原始人が英語しゃべるのかよ!
人類と恐竜が共存したわけがないだろ!
なんで女性だけ、きっちり胸(おっぱい)を隠すんだ!
襲ってくるクマがどう見ても着ぐるみ(それも四つん這い)だ!
襲ってくる野犬の群れ、ペットのワンちゃんにしか見えんぞ!
若い原始人(ロバート・ヴォーンだぞ)の髪型がリーゼントだ!
いやいや、たくさんたくさんありますね。まあその時点でコーマン師の術中にハマっているんですが。
それはともかく、どう考えても生物史学的にあり得ない、原始人たちの面前でくりひろげられる恐竜デスマッチが見せ場のひとつなんですが、これがまたどう見てもトカゲとワニの組み打ちにしか見えません。ワニくんは気の毒に背中にヒレみたいなのを貼りつけられています。ここも大事なツッコミどころであります。
ただし、この目を覆うような動物虐待シーン、じつはコーマン師は無罪だったりします。
けっこう有名なシーンですが、もともとは「紀元前百万年(ONE MILLION B.C.)」という1940年の映画のために作られたものです。こちらはもっとちゃんとした映画なんですが(1966年に「恐竜100万年」としてリメイクされてます)、あまりに見事な(?)できばえゆえ、じつはけっこうたくさんの映画で流用されているのです。
私は、かのサイテイ映画「ロボット・モンスター」の人類瞬殺シーンで観ましたっけ。あんな映画で(笑)
ちなみに、穴居人たちが住んでいる洞窟も、「ロボット・モンスター」に出てくるアソコです。ハリウッドから至近距離にあるブロンソン渓谷の洞窟というところで、数多くの映画で使われている有名ロケ地だそうです。
たしかコーマン師の自伝で、この洞窟でこれを撮りあげたあとだったかに、あまりにスピーディに終えてしまったので時間と機材のレンタル期間が余り、急遽速攻でもう一本予定外の映画を作ったとかいう自慢話が出ていたっけ。
まあ、そんな程度の映画ですね(笑)
で、このツッコミどころしかないような映画が、いったいなんでカルト映画になったかというと、ラストが非常に有名になったからですね。
そのラストについては、ここで触れることすらネタバレになるんですが……まあDVDの解説にも「ラストの大どんでん返しが有名な」とか堂々と書かれちゃってますからね。
今回いっしょに観ていた息子(初見、予備知識ほぼなし)は、なんだこれがどんでん返しかよと不満げでしたが、まあ現在の目で観れば、そうした感想になるのも無理はないでしょう。
というのも、その後にこのどんでん返しの仕掛けはドカドカ真似されているからです。なかでも、非常に有名でリメイクまでされた某SF大作映画でコピーされたのは決定的でした。だから今では「誰もが知っているオチ」で、バレバレになっているわけですね。
でも、この映画がこの結末の最初の例だとしたら、それは相当すごいことでしょう。さすがはロジャー・コーマン師、といいたいところですが、ホントにそうなんですかね。
私もずっとそう思っていたんですが、じつはこの着想は、脚本を執筆したR・ライト・キャンベルのものかもしれません。この名前の「R」はロバートの略で、別名義のロバート・キャンベルと訊けば、ああと思いいたる方もいらっしゃるかと。
脚本家としては1954年から1974年まで22本の映画でクレジットのある人ですが、その後に作家に転じ、1975年にデビュー。1986年の『ごみ溜めの犬』でMWA(アメリカ探偵作家クラブ)の権威あるエドガー賞を獲得していますから、作家としても大きな成功を収めているわけですね。日本でも1980年代を中心に合計9冊ほどの翻訳が出ています。
という作家としての腕前を考えると、ひょっとしてこの脚本のアイデアそのものも、彼のものだったんじゃないかと思った次第です。もしそうならば、タイヘンな業績を残したお方だったということになりますね。
2000年に死去していますが、そのへんちゃんと評価されているんでしょうか。
『ごみ溜めの犬』The Junkyard Dog(1986年)ロバート・キャンベル著/東江一紀訳/二見文庫/1988年4月刊
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