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未発売映画劇場「5次元スパイ危機一発」

007の最新作が公開中ですが、その007シリーズがスタートした1960年代にたいへんな数が量産されたジャンルがあります。柳の下にドジョウは2匹といわんばかりに次々と登場した、亜流007のスパイ映画です。

有名どころでいえば、007と同じ原作者による「0011ナポレオン・ソロ」とか、「サイレンサー」ことマット・ヘルム・シリーズとか、私の偏愛する「電撃フリント」とか、現在も人気の「スパイ大作戦(ミッション・インポッシブル)」とか、コメディ仕立ての「それゆけスマート」とか。

こうしたメジャーどころ(メジャーなのか?)だけでなく、いやそれよりも本数が多かったのが、マイナーな低予算スパイの数々。007よりも11倍強い「077」とか、名前だけは響きが似ている「アッパーセブン」とか、ガンマニアには有名なハリー・パーマー・シリーズとか、「電撃スパイ作戦」とか。知ってる?

もちろんこうした映画たちは日本でも公開されたり放送されたりしてるんで、それなりに知っている人も多いんでしょうが、そうでないものもたくさんあります。

これまでここで紹介した、あのサントがスパイに扮した「サント対贋札偽造団」とか、香港映画と英国のヤスモノ王の合作「ドラゴン捜査網」とかがありましたが、ここでもう一本。

「Dimension 5」 1966年10月にアメリカで公開されていますが、日本ではまったくの未公開。

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そもそもは「007/ゴールドフィンガー」で怪物用心棒オッドジョブを演じたハロルド坂田のことを調べていて遭遇した映画であります。ご覧のとおり、ポスターでは主役よりも大きくオッドジョブことハロルド坂田氏がデザインされています。ほら、すでに007人気に頼ってるでしょ。

さてこの007亜流映画の世界では「いかにして007に似せるか」と「いかにして007と違いを見せるか」の一見相反するふたつのテーゼが必要となります。

この映画の場合、主人公のジャスティス・パワーが凄腕スパイで、女にモテモテで、秘密兵器をバンバン使い、悪の組織と対決する、なんてあたりが007に似せるポイントになってます。このへんは亜流007では常套手段だけど。

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一方で、007との違いを見せるのが、タイトルにもなっている「Dimension 5」つまり「5次元」ですね。

どういうことかというと、ジャスティス・パワーの使う最大の秘密兵器が「5次元世界を使ってタイムスリップできる装置」 すげえぞ、これは。

どういう理屈だかよくわからんが(説明不足なんだよ)時間だけでなく場所も自在に移動できるのだ。だから敵に撃たれても瞬間的にタイムスリップすれば当たらないし、ちょっと未来に行って現場を見てきてから暗殺を阻止したりと、さすがのジェイムズ・ボンド氏でもできないこと平気でやってのけるのであります。

あまりにも便利すぎるのもなんなので(と思ったのか)空間に関しては、自分が過去か未来に行ったことがある(存在したことがある)場所にしか行けません。ドラえもんよりはちょっと性能落ちとはいえ、便利。

ところが、この映画のキモともいえるその「5次元装置」が、この映画の命取りになっているんだから、映画ってのはムズカシイ。

その装置が仮面ライダーベルトのオモチャみたいなヤスモノだとか、そのシーンがショボい光学合成処理で撮影されているとかはいいんですよ、べつに。この手の映画ではフツーのことだから。

問題は、その必殺装置がストーリーに全然活かされていないことです。

ストーリーの大筋は、香港の秘密組織がロスアンジェルスに核爆弾を持ちこむのを阻止するというもの。ありがちなストーリーなのはいいんですが、そこに5次元装置がどう絡むかというと、ほとんど絡まない。

主人公のパワー氏と、情報を得たという中国情報部の女性スパイ(凄腕)が意外に地味な聞き込みで持ちこまれた核爆弾を見つけるんですが、その過程に5次元装置はほとんど使われない。本筋と関係ないところで使うばかりじゃ、ちっとも役に立っていないぞ。

SF風味を加えてやろうという意図はわかるけど、活かせていないのはなんとももったいない。根本のアイデアは脚本を書いたアーサー・C・ピアース「宇宙のデッドライン」の人ですね)のものなんだろうが、いかんせん低予算ゆえに活かしきれなかったようです。

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ちなみに香港の組織らしい悪の組織は東洋系のようで、ドラゴンと呼ばれています。ハロルド坂田が演じるボスの名前はビッグ・ブッダ

東洋系の悪の結社が出てくるのは亜流007にありがちな特徴なんですね。

いや亜流だけでなく本家の007でも、この時期の悪役に東洋系が多いのは興味深いですね。「ドクター・ノオ」はノオ博士がドイツと中国の混血、「ゴールドフィンガー」でもゴールドフィンガーの部下たちは朝鮮人、「サンダーボール作戦」のスペクター幹部にも中国の「党」出身がいるし、「007は二度死ぬ」も言わずもがな。

亜流007にこうしたフー・マンチューの末裔たちが多いのは英米スリラーの伝統なんでしょうか。

こうして、予算不足、アイデア不足のおかげで、批評も興行も散々だったそうで、「Dimension 5」は見事に不発映画となって、日本では陽の目を見ず、今日までテレビ放送すらされていないようです。

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この不発映画が、なぜアメリカでDVD化されているのでしょうか?

じつは、主人公のジャスティス・パワーを演じたジェフリー・ハンターは、あの「宇宙大作戦(スタートレック)」の最初のパイロット版で主役をつとめているのです。彼が降板したために、「宇宙大作戦」の主役がウイリアム・シャトナー演じるカーク船長に変更になったとか。つまり、まかり間違えばあの人気シリーズの主演スターになっていたはずで、なんとも惜しいことをしたものです。ただ彼は1969年に42歳で早逝したので、シリーズがカルト人気を得るところは体験できなかったでしょう。

そのほかにも、ヒロインの女性スパイを演じたフランス・ニューエンも、のちに「宇宙大作戦」に出演しているし、ほかにもこの「Dimension 5」に出ていた俳優たちの数人が、カルト人気の高いオリジナルシリーズに出ているので、どうやらあちらのマニアには有名らしいです。知らんけど

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