日本より愛をこめて

先日、「こちら87分署」で、アメリカのミステリ作家エド・マクベインの警察小説「87分署シリーズ」を世界でいちばん数多く映像化したのは、わが日本であるという驚きの事実を発掘したわけですが。

では日本で映像化された海外の小説は他にどんなものがあるか、というのが今回のお題。

ここ最近でも、ダニエル・キイスのロングセラー小説『アルジャーノンに花束を』や、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』がテレビドラマ化されて話題になりましたが、そのほかにもけっこう豊富にあるものなんですよ。

ただ、すべてを網羅するのはムリそうなので、例によって映画記憶の棚をさらってみるだけですが。

マクべインの『キングの身代金』を「天国と地獄」に映画化した黒沢明監督は、ほかにも海外の小説を映画化しています。シェイクスピアの『マクベス』を翻案映画化した「蜘蛛巣城」(1957年)と、ロシアの文豪ゴーリキーの名作を原作とした「どん底」(1957年)です。さすがは世界のクロサワ

そういえば、エド・マクベインは日本の映画屋さんにとっては扱いやすい作家なのか、前にご紹介した「87分署シリーズ」のほかにも、ホープ弁護士シリーズがNHKで「他人の関係」という連続ドラマになっていましたっけ(1989年・柴田恭兵主演)

もう一人日本の映画屋さんにやけに人気があるのが、同じくアメリカのミステリ作家で「サスペンスの巨匠」と呼ばれるコーネル・ウールリッチ(別名ウィリアム・アイリッシュ) 『幻の女』『黒いカーテン』『消えた花嫁』などの長編小説や、ものすごく数多い短編小説で知られる人で、海外での映画化もたくさんありますが、日本での映像化もけっこうあります。

たぶんいちばん古いのは1960年、高橋治・監督で小山明子主演の「死者との結婚」でしょう(原作も同題)。見たことありませんが。

強烈な印象があるのが、短編「万年筆」をミュージカル仕立てのサスペンスに仕立てた、岡本喜八監督の「ああ爆弾」(1964年) これについてはまた別の機会に語らせてください。

その後も、若尾文子主演の「夜の罠」(1967年・原作は『黒い天使』)とか、久世光彦監督で森繁久彌、郷ひろみ主演の「夢一族 ザ・らいばる」(1979年・原作は短編「睡眠口座」)といった劇場映画のほか、1983年の「ひと夏の復讐」(原作は『黒衣の花嫁』/十朱幸代主演)をはじめとした、連続ドラマや2時間ドラマがたくさんあります。日本人のメンタルにむくんですかね。

フランスのサスペンス作家ボアロー&ナルスジャックのコンビの作品も日本では人気があって、劇場映画こそありませんが、テレビでは名作『悪魔のような女』をはじめ、何度もドラマ化されています。いちばん最近は2005年の「悪魔のような女 「私と一緒に夫を殺して!」 病弱な若妻と、愛人の女医との壮絶な闘い~池に沈めた夫の死体が…消えた!?」というよくわからないタイトルの2時間ドラマでしょうか(主演・菅野美穂&浅野ゆう子)

「ミステリの女王」アガサ・クリスティーの作品も、意外なくらい日本で映像化されています。といってもテレビドラマがほとんどで、劇場映画はたぶん松竹で野村芳太郎監督が、大竹しのぶら豪華な女優共演で『ホロー壮の殺人』を映画化した「危険な女たち」(1985年)くらい。

野村芳太郎はミステリ映画を得意としているせいか、エラリイ・クイーンの名作『災厄の町』を原作にした「配達されない三通の手紙」(1979年)も手がけています。

最近ではベストセラーになったミステリ小説『二流小説家』が東映で映画化されたのが記憶に新しいですね。

映画公開時に招待されて来日した原作者のデイヴィッド・ゴードンは、じつは日本映画マニアで、自作が「あの東映で映画化される!」といって狂喜したとか。映画のタイトルは「二流小説家 シリアリスト」(2013年)

まだまだたくさんありますが、それはまたの機会に先送りすることにして、私がむかしから「日本で映画化すればいいのに」と思っていた作品をちょっとばかりご紹介しましょう。

ひとつはハンス・オットー・マイスナーが書いた冒険小説の名作『アラスカ戦線』 第二次大戦中、アラスカに潜入した日本軍の特殊部隊と、地元のハンターを中心としたアメリカ軍の迎撃隊が、大自然のなかで繰り広げる壮絶な追跡ドラマ(猛烈に面白いので、ぜひ一度読んでみてください) 主人公の片方が日本軍の大尉で、日米双方がじつに公平に描かれている(著者はドイツ人)こともあり、爽快な後味もあるので、映画にピッタリだと思うんですが。

ずいぶん昔に、杉良太郎が自ら映画化に取り組むというスポーツ新聞の記事が出たこともありますが、けっきょく実現していません。けっこうな資金が必要かもしれませんが、アメリカ側の主人公にある程度の人気俳優を起用できれば、世界マーケットで売れると思うんですがね。

もう一本も冒険ものですが、先般「未発売映画劇場」で紹介した「宇宙船02」の脚本を担当したミステリ作家ギャビン・ライアルの代表作『深夜プラス1』 わけありの大富豪を乗せて、フランス西岸からスイスを経てリヒテンシュタインまで車で突っ走るというもので、警察や、敵方のガンマンとの戦いなど、サスペンスとアクションとスピード感に満ちた名作(これもぜひ読んでみてください

『深夜プラス1』は、かつてスティーヴ・マックイーンが映画化する予定だったのですが、残念ながら実現前にマックィーンが急逝してしまい「幻の映画」になってしまいました。これは、たとえば「ルパン三世」のような動きの速いアニメ映画にしたら、けっこう面白いと思いますよ。

まあこの2本とも、映画化権が取得できるかという問題があるんですが、そこを回避できる企画もご提供しましょう。関係各位、メモのご用意を(笑)

名探偵シャーロック・ホームズと、怪盗紳士アルセーヌ・ルパン

この誰でもが知っているミステリの2大ヒーローは、じつはどちらも日本では原作者の著作権が切れていて、映画化もフリーの状態なのです。つまり原作者の了承も、原作料もいらないんですよ。

どうです、魅力的でしょ?

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