未発売映画劇場「宇宙船02」

他のことを調べている最中に、変なモノに行き当たることってありますよね。

はい、「宇宙船02」という映画については、ついさっきまでまったく知りませんでした。1969年製作、月面に入植した人類の争いを描いたSF映画です。

まあこんな感じの映画は山ほどあるわけですが。

私がここにたどり着いたのは、まったく別の方向からです。

ちょっと必要があったので、ミステリ作家のギャビン・ライアルについて調べていたから。

ギャビン・ライアル、ご存じですか? 

ミステリ小説の巨匠で、その代表作である『深夜プラス1』は、ミステリ・オールタイム・ベストテンで、常に最上位に位置する不朽の名作。海外ミステリを好きな人ならば、まず間違いなく読んでいるはずの傑作です。他にもスパイ小説の巨匠として、多くの名作をものしています。

で、彼の著作の映画化について調べていたところ、この「宇宙船02」が目についたのです。

ライアルにしては、変なタイトルの映画だな。なんだろう? あれ、原作者じゃなくて映画の原案を担当してるぞ?

そもそも、ギャビン・ライアルが、自ら映画製作に関わっていたとは、不覚にもまったく知りませんでした。

まあ、かのエラリイ・クイーンやレイモンド・チャンドラーといったミステリ小説の巨匠たちも、けっこう映画とは関わりを持っていたのですから、そう不思議でもないんですがね。

それにしても、ミステリの巨匠ライアルが関わった唯一の映画(他には『影の護衛』というスパイ小説がテレビドラマ化されているだけ)が、よりによって宇宙を舞台にしたSF映画というのも、なんとも不思議な感じです。

前記した『深夜プラス1』は1965年の作品で、この映画の原案を書いていただろう時期には、英国推理作家協会の会長をつとめているし、ミステリの賞も受賞している。すでにそこそこ以上の名声を得ていたはずのギャビン・ライアルが、なんでまたこんな映画に?

そうなれば見てみたくなるのですが、ここで重大な問題にぶつかりました。

この映画、日本で見ることができたのか?

「宇宙船02」という邦題があるくらいなので、当然公開されたものと思ったら、どうもそのへんが怪しいのです。

資料では「1970年公開」となっているものもあるようですが、どうも土壇場で公開されなかったみたい。映画雑誌などには「宇宙船02」で予告されていたらしいのですが、何月何日にどこそこで公開といった情報は、まったくなし。なのでネット上でも「けっきょくは公開されなかった」としているものが多数派の模様。

1970年ごろから日本の洋画興行は不振に陥って、公開本数も減少し、また大手のMGMが日本支社を閉鎖したりした影響もあって、おクラ入りになった映画がたくさんありました。いまに続く映画館数の減少にいっそうの拍車がかかった時期でもあります。

なので、公開が予定されながらも、中止された、というのはありそうなことですね。

ただ、「公開された」という証拠は、見つけさえすればOKなんですが、「公開されていない」ことを完璧に証明するのはむずかしいですね。俗に「悪魔の証明」というやつ。

この「宇宙船02」も、ひょっとしたらどこか地方の場末の映画館に、ひっそりかかった可能性は捨てきれません。どなたかご存知でしょうか?

肝心の映画ですが、原題は「MOON ZERO TWO」で、ホラーの名門、英国のハマー・プロの作品。向こうでの公開時の宣伝は「月世界ウェスタン」だそうで、開拓されつつある月面を舞台にした、西部劇ふうのアクションものだとか。ちょうどアポロ11号の月着陸が成功した時期だけに、タイムリーな映画だったのでしょう。なかなかいい目のつけどころじゃないですか。おお、ちょっと見たいぞ。

と思ったのですが、どうも日本では、劇場で公開されなかっただけでなく、その後テレビでも放送されず、ビデオでもLDでもついぞソフト化もされなかったようです。アメリカでは、ヴァル・ゲスト監督の「恐竜時代」(こちらはちゃんと日本でも1971年に公開)とのカップリングで、DVDリリースされているのに。

何か権利的な問題でもあるのかも知れませんが、日本ではまったくの未公開だったこの作品、ひょっとして超掘り出し物なのかもしれません。ぜひともどこか、日本版を発売してください。

いや、面白いかどうか、売れるかどうかは、知りませんよ(笑)

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