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500円映画劇場「ビヨンド・ザ・ボーダー」

トランプ大統領閣下が、国境に壁を作る予算を出せのなんのと駄々をこねているようです。ありゃ、まだ作る気でいたのか。この件に関しては以前にちょこっと書きましたが、そんなもん作ってもたぶん役には立たないと思いますよ、閣下。【参照:「壁を築けっ!」】

ただ、島国ニッポンにいると、この「国境」というやつはどうもピンときませんね。じっさいに米墨国境線がどういうことになっているのかは、考えてみりゃ知らないもんな。

今回のお題は、その国境線をテーマにした「ビヨンド・ザ・ボーダー

アリゾナとメキシコの国境地帯で、遊んでいたメキシコ系の少年が射殺される。銃撃したのはアメリカの国境警備隊員のスカーリで、自己防衛のために撃ったと主張。スキャンダラスな裁判で、スカーリの弁護に当たることになったのが、メキシコ移民出身のエドゥアルド。差別的言動を改めない依頼人を内心で嫌悪し、有罪を確信しながらも職務との板挟みに苦悩するエドゥアルドだったが、さらなる試練が。故郷のメキシコに残していた両親と妹が国境を不法に突破しようとする途中で行方不明になったのだ。家族を無事に入国させるには、国境地帯のヌシでもあるスカーリの影響力が必要。そこにつけこんだスカーリは、エドゥアルドにある取引を持ちかける……

国境をはさんでの壮絶なドンパチを期待したのだが、そもそもそんな映画じゃなかったね。基本的には、リーガルスリラーと呼ばれるミステリ映画の一ジャンルに属するものです。法廷を主舞台に、弁護士や検察官といった法曹関係者が活躍するものですね。

原題は「LA MIGRA」 移民のこと(英語タイトルは「MURDER ON THE BORDER」)

アメリカ映画とされているけど、スペイン語の原題が示すように、メンタル的にはメキシコ映画っぽい。主人公の出自もメキシコ、キャストの大半もメキシコ系俳優のようだし、監督のファン・J・フラウストもメキシコ人ですね。

なので、どうしても視点はメキシコ寄り。国境を越えようとする不法移民の悲劇を描く、みたいなノリが濃くなります。

にもかかわらず、映画そのものの基本は、少年を射殺した警備隊員は有罪か、無罪かというリーガルスリラー。

けっきょくのところ、この映画、そのどちらを主要なテーマにしようとしたかがハッキリしないのです。そして、そのことが全体の印象を弱めているんですね。それがこの映画の決定的な欠陥

典型的なのが、ラストシーン。

殺された少年の父親が(唐突に)登場してスカーリを襲うのですが、このシーンが語るのは、スカーリが有罪か無罪かなのか、それとも国境で起きてしまった悲劇の清算なのか、ここまでストーリーを見守ってきた観客にも「?」 まったく曖昧なまま映画は終わってしまいます。

ミステリ映画としてさほど上等とはいえないうえに、スッキリしない幕切れは、いただけませんね。

そのおかげで、けっこう生々しくリアルに描けていたんであろう不法移民の実態も、本当なのかフィクションなのか、曖昧になってしまいました。もしもこの映画に問題提起の意図があったとしたら、その点ではまったくの不発弾に終わってしまっているので、失格。

つまるところ、国境での殺人をめぐるミステリ映画なのか、不法移民の悲劇を描くシリアスなドラマなのか、その中途半端さが、映画の完成度を低くしてしまったのですね。

そもそもスペイン語タイトル(これがもともとのオリジナルなのか)が「移民」で、英語タイトル(たぶんアメリカ向け)が「国境の殺人事件」であることが、そのへんのッ事情を象徴している感じがしますね。

ココロザシはともかく、残念ながら完成度の低い映画には問題を提起するパワーも出ず、あわれ500円映画に成り下がってしまったということでしょうか。残念でした。

【画像のリンク先はすべてamazon.co.jp】

この映画の製作は2005年。もう14年も前の映画なのですが、トランプ閣下が今なおあんなことを言っているように、この問題は根が深く、いまだ改善されてはいないようです。それはそれで、この映画とは関係なく、考えさせられる問題ではあるんですけどね。

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