見出し画像

500円映画劇場「サーズ・ウォー」

ひさしぶりに風邪を引きました。熱こそ出なかったものの、咳が長引き、けっこう苦しめられてます。じつをいうと、今もすっかり治っちゃいません。

という状況で見るには刺激が強すぎると思ったのが、「サーズ・ウォー」 そう、あのSARSをあつかった2003年の香港映画です。

SARS(重症急性呼吸器症候群)パニック、覚えてますか? 2003年に東南アジアで発生し、あっという間にアジア南部に拡大。多数の死者が出たことからパニック状態になりました。日本でも、感染者が出たとか出ないとかの騒動がありましたっけ。香港などでは、このせいで観光客が激減したそうです(その後の発生は、報告されていません)

さてこの映画、実際に香港で起きたSARS事件をドキュメンタリータッチであつかったものというふれこみ。おお、前に見た「パラダイスウィルス」みたいな細菌パニックものなのか?

舞台は香港の総合病院。ひとりの患者がSARSに感染していたことから、病室に、病棟に、やがて医師や看護師たちにまで感染が広がってしまいます。当局は病院全体の隔離を決定。それでも病院内に踏みとどまった医師たちは、必死に患者の救命に取り組みますが、やがて彼らの中にも感染者が……

香港映画のホラー系といえば、ドギツイ刺激に満ちた描写が売り物。大昔の残酷カラテ映画や、香港ファンタスティック、実録犯罪もの(奇案片)まで、成人指定だろうが、そうでなかろうが、そんなことにはおかまいなしに、血飛び肉弾けるさまが画面いっぱいに描かれるのが常道。独特の暗めの照明とあいまって、気の弱い人は直視できないものも多いです。

その香港製の細菌パニック映画とあれば、そりゃあ、期待(?)しますよね。ドキドキしながら見はじめました。が……

これ、基本的に大真面目映画なのです。考えてみたら、香港で実際にSARSパニックがあったのと同じ年の製作なんだから、そりゃあムチャはできないよなぁ……

いやいや、香港映画界、そもそもそんな遠慮や配慮はしませんって。

まあ、たとえばエボラ出血熱なんかにくらべれば、SARSは(見た目は)地味な病気です。基本的には「風邪」なんだから、発熱、咳、くしゃみ以外にさしたる劇的な症状は出ません。

なので患者が危篤に陥るシーン(何度もある)でも、呼吸困難→血中酸素低下→気道確保→人工呼吸→ガンバレ!の繰り返しだけ。

語弊はありますが、地味なんですよ、地味

目鼻から血が吹き出したり、肉体がぐずぐずに溶けたり、ゾンビと化した患者が看護師を食いちぎったり、胸を喰い破って巨大SARSウィルスが出現したりはしないわけです。ガッカリだぜ。

DVDジャケットのイラストや、中国語の原題「没有硝煙的戦争(硝煙なき戦争)」ほどの迫力は感じられません。実話ゆえの重みはあるけど。

じつは、この原題にも罠がありました。実際に画面にクレジットされるタイトルは「亞洲英雄之没有硝煙的戦争」英語題も「Asian Heroes」つまり「アジアの英雄たち」

そう、これは大規模な感染が起きて閉鎖された病院に、自分たちの意志で残って治療を続け、ついには犠牲者も出した勇敢な医師団を描いた映画なのです。ああ、そもそもジャンル違いなんだ。またやられたぜ。

さらに深堀りすれば、もともとこれは、全15話で放送されたテレビドラマの編集版なんですね。道理で、説明不足な部分があり、一方で同じような場面が繰り返されるわけです。

そして見逃せないのは、この作品を製作したのが、「影音使團/The Media Evangelism(TME)」だということ。香港の映画会社なんですが、じつはキリスト教団体の資金が基になった会社なんですね。YMCAなんかが出資したらしい。

それで合点がいったのが、途中でやたらとキリストさまにすがるシーンが多かったこと。

医師団は毎朝治療にかかる前にお祈りの会をするし、病に倒れた医師は生死すれすれの幻想の中で十字架を手にするイメージを得て生還するし……ヤスモノ映画ではおおむねいつも、やられ役かバカの象徴のように描かれるキリスト教が、ここではヒーロー役なんです。

つまりこの映画、ミもフタもなく言ってしまえば、宗教宣伝、いや布教のための映画なんでしょう。前に見た「カウントダウン/合衆国滅亡の時」と同じようなものといったら気の毒か。でも、非常に潤沢な予算があったことがうかがえるあたりも似ているぞ。

画像1

まあ、いろいろなものが紛れこんでいるのが、映画の墓場、500円映画ワゴンの魅力のひとつ。だから玉石混交なのは織り込み済み。圧倒的に石が多いんだけどね。

ということで、もともとの映画のココロザシはともかくとして、またしても「石」を引き当てたな(笑)ということで。

  500円映画劇場 目次

映画つれづれ 目次

【2020/2/28】 新型コロナウィルスによる肺炎のアウトブレイクで、この映画の価値も変化を……しないですね(笑) とはいえ、今回の騒動で、多少は当時の香港での恐怖をリアルに感じられるようにはなったようです。ちっとも、ありがたくはないけど。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?