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#23. 英語の擬音を「キラ見」する


ひとつひとつの言語には、それぞれ違った美しさがあるが、(英語をやっていて気づく)日本語の美点の一つには、オノマトペの充実、すなわち「擬声語や擬態語の豊富さ」が挙げられる。

「雨がザアザア降っている」とか「最近ダラダラしている」というのは、日本人なら大人でも使う表現だが、自分に起きた感覚を、そのまま音で表現できる、優れものだといつも思う。

しかしながらこのオノマトペ、あまりに便利すぎるので、日ごろから多用していると、英語を話すときとても苦労する。

というのも、英語には日本語ほど多くの擬音表現がないからだ。

上に挙げた二つの文はまさしくその例で、「ザアザア」と「ダラダラ」に当たる擬音語は英語にはないため、"It's zah-zah raining" とか "I've been dalah-dalah lately" などと言っても、(とくに後者は)わかってもらえないだろう。

「雨がザアザア降っている」というのは、「雨が激しく降っている」ということなので、"It's raining hard" などと言う必要があるし、「ダラダラしている」ということはつまり「怠けている」ということなので、"I've been lazy lately" と言うなど、毎度代わりの表現を頭の中で見つけなければならない。

より深刻なのは、日本語で、言葉が見つからなければ擬音に逃げるあのムーブ(「あれからほら......なんかもう......ズシーンって感じで」)。英語は、あの緊急離脱を許さない。

「ズシーンって感じ」とはつまりどういうことなのか、擬音語の乏しい英語は、しっかりその状態を表す動詞なり形容詞なり、副詞を使うよう常に要求してくるのだ。

英語にも擬音がないことはないが、日本語のそれほど豊かでもなければ自由に使えるわけでもない。英語で話をしているときに、頭にオノマトペが浮かび、それが英語にできなかったあのなんとも言えない苦しみは、英語を話す多くの日本人が経験したことのあるものだろう。

さて、「英語にも擬音がないことはない」と書いたが、英語における擬音語は、それそのものとして独立しており目立つもの(tick-tack, ding-dong, atchoo)と、単語の中にコッソリ組み込まれていて目立たないものとがある。

後者の例としてよく出くわすのが、「輝き」を表す gl- という要素である。日本語で言うところの「キラキラ」や「ピカピカ」に相当するのだろうか。「白熱光;蛍光」という意味の glow や「金色」でおなじみの gold に含まれている。

ほかにも、同じ gl- を含んだまぶしい単語はまだまだある:

glare:ギラギラする光
gleam:かすかな光
glimmer:チラチラする光
glint:輝き,閃光
glisten:きらめく,輝く
glitter:輝き,きらめき
glitzy:きらびやかな,ギンギラの

このあたりは非常にわかりやすい例で、どれもキラキラと光っている様を表す単語である。

さらに見ていくと:

glass:ガラス,グラス
glaze:艶,光沢
gloss:光沢,艶;グロス

これらもやはり、物理的に光を放つものである分、gl- を含むのもうなずける。

一方、比喩的な「輝き」ということで言えば:

glad:うれしく思う
glee:歓喜
gloat:満悦

なども類例である。うれしいとき、喜んだとき、そして満足したときに、人間の顔はキラキラとした笑みを浮かべる。マンガで清々しい表情の横に「✨」のようなマークがあるのも、「人の笑顔はきらめいている」という感覚があるからだろう。

そのほか、個人的に面白いと思ったのが:

glance:チラッと見る
glimpse:チラッと見ること

ここには、日本人との感覚の違いが表れているように思われる。

つまり、人が何かに軽く目を向けるとき、それを日本語では「チラッ」という擬音で表現するわけだが、英語の glance, glimpse に例の gl- が含まれているということは、日本語で言うところの「チラッと見る」行為は、英語的に言えば「キラッと見る」ような行為、なのかもしれない。

何かに一瞥をくれるとき、一体どこに光が生じるのかは少し疑問だが、日本語でも熱い視線のことは「ギラギラ」と表現したりするので、それに近い感覚だろうか。

しかし、日本語で「チラッと見る」と言うべきところで「キラッと見る」などと言ったとしても、ほとんど理解されずに結局「ギロッと睨まれる」のがオチであろう。

...... そういえば gl- はこんな単語にも実は含まれている:

glib:ペラペラよくしゃべる

今回の記事では、思いもかけず、英語で輝きを表す擬音である gl- についてペラペラと語ってしまった。

しかしそういった一見やさしい話の中にも、なにか光るものをいつも織り交ぜることで、「あの人はキラキラと話している」と言われるくらいに、いつも楽しげに話したい。


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