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#13. 桜が泣いて見えたから


桜が満開を迎えている。草木が芽吹いていくのを見れば、だれでも気分が高揚する。春という季節がやってきた。喜ばしいことこの上ない。

何週間か前に、海外の友人から日本に来ると連絡があったので、東京の桜を見てもらおうと、こんな記事をながめていた:

東京で桜が見られる名所を 26 箇所紹介している。外国人向けに書かれたものだが、日本人でも知らないところも多く、たいへん勉強になった。

しかし、個人的にとても面白く感じたのは、駒込の六義園(Rikugien Garden)について紹介している以下の部分である:

Rikugien Garden is almost four centuries old, and home to a vast and beautiful weeping cherry blossom that is illuminated at night during the sakura season.

ここを読んでいてふと、"a vast and beautiful weeping cherry blossom" という部分に目が留まった。さて、"a weeping cherry blossom" とは一体なんのことだろうか。

六義園について知っている人ならすぐにわかることだが、これはもちろん「シダレ桜」のことである。

英語名にある weeping というのは、「泣く」を意味する動詞 weep の現在分詞。つまり、日本で言うところのしだれ桜は、英語では(文字通りに読めば)「泣いている桜」という風に呼ばれていることになる。

さらに、同じ「泣く」という行為を表す動詞でも、cry が(どちらかと言うと)「大声でわぁわぁわめき泣く」ようなニュアンスをともなうのと違い、weep はむしろ「静かにしくしくすすり泣く」ような泣き方を連想させる。

漢字の「枝垂桜」からもわかる通り、日本語の名前は「枝が垂れ下がっている」という事実しか述べていないのだが、

英語の weeping cherry はそこからもう一歩踏み込んで、「その様子がまるで、木がしくしくとすすり泣いているかのようだ」という解釈を加えているのがとても面白い。

こうして植物の英語名を知ることによって、次に同じ草木を見ても、また違う視点で見ることができる。

「きれいな枝垂桜だね」と言って花を愛でる人のかたわらで、「たしかに、きれいな『泣き桜』だね」と weeping cherry を直訳したような言葉を使って同じ桜を表現してみるのも、また趣があっていいかもしれない。


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