世界設定資料集 1.1 創世神話
はじめに炎があった。
炎の中にすべてがあった。
炎は瞬く間に闇を走り抜け、覆い尽くした。
真空の鏡の両側に対の粒子が生まれ、惹かれ合い、触れ合うと同時に消滅していった。
ある粒子は対消滅の前に偶然の傷を受け、鏡像と完全に重なる形を失った。対の粒子のわずかな差異が、彼らの合一を不可能にした。
対の粒子は戸惑い嘆いたが、一度生まれた違いを埋めることはできなかった。真空の向こう側の粒子は悲しみのうちに姿をくらました。取り残された孤独な粒子達は、互いに寄り添い、螺旋を描いて喰らい合い、激しく燃える星となった。
一際大きな星の周りを小さな星々が、その周りをもっと小さな星が巡る、円環の理が生まれた。粒子達は互いに孤独でありながら一つとなった。
大きな星を太陽と、小さな星の一つを地球と、地球の周りのもっと小さな星を月と呼ぶ。
その頃の地球は沸騰する一滴の岩石だった。その熱は伴侶との絆を引き裂かれた粒子達の怒りであった。
やがて冷めゆく怒りの蒸気は手を取り合って涙となった。
最初の雨は千年の間降り続き、深く青い海となった。
自ら炎を放つことをやめた地球は太陽の光に気付き、太陽に顔を向けた時が昼に、顔を背けた時が夜になった。少しひねくれた地球の傾きが、昼の長い夏と、夜の長い冬を作った。
地球を慰めるように回る月が海を空へ引き上げる。満ち足りた諦めの静寂の中、海に落ちた雷が奇跡を起こし、風が海をかき混ぜてその種を育てる。
種は増え、繋がり、広がり、海から顔を出した岩の大地を埋め尽くした。
無数の誕生と死を繰り返しながら力の及ぶ限りあらゆる形を試した末裔たちの一つが我々である。
鏡の向こう側の宇宙がどうなったのかは誰も知らない。
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