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奇禍を奇貨にする:「地域活性化起業人」制度

人口が減少する地方は、人材が見つかりにくい…!
いったいどこにいるんだ、人材は!
そう、叫びたくなる地方の方も
多いのではないでしょうか?

かと言って「地域おこし協力隊」の制度では
市町村が「雇う」(任用する)形になる。
地方に行く当事者としても、
ハードルが高い面があり、二の足を踏む。
市町村側も、国の財政上の補助はあるが、
どうしてもミスマッチなどのリスクはある…↓

どうにかして
「企業に雇われている人に、雇われたままで、
地域活性化のために働いてもらう」

そんな形は取れないのだろうか?

というようなニーズに応える制度が、
実はあるんですよ。
本記事は、この「地域活性化起業人」制度
ついて書いてみます。

「地域活性化起業人」制度の概要は以下の通り。

◆「三大都市圏にある民間企業」が
◆受け入れ自治体の要望に応じて
◆「社員を一定期間派遣」し、
◆自社のノウハウや知見を活かして、
◆「自治体と協力し、地域の活性化に
つながる業務に従事」する制度
◆期間は6か月~3年

はい、まず注目すべきは、
「民間企業が自治体に派遣する」
「企業との雇用関係を保ちつつ、
地域活性化の業務を行う」

という点ですね。

これならば、派遣される当人は
「民間企業を辞めず」期間限定で行ける。
受け入れ自治体側も、
「自分たちが雇用(丸抱え)するわけではない」
と、ある程度、心理的負担が減るでしょう。

財政的な負担も、減ります。
国、つまり総務省が、

『派遣元企業に対する負担金など
起業人の受入に要する経費を
上限額 年間560万円/人』


などを支援してくれるんです↓

つまり派遣元の民間企業にとっては、
「560万までの人件費の負担」が無くなる。
受け入れ側の団体にとっても、
「人件費を払わずにノウハウの移転」が可能。

絵に描いたような、ウインウイン!

ということでこの制度によって
近年「地域活性化起業人」として
着任している人が、増えてきています。

平成26年度(2014年)には22人
(受け入れ自治体は17)。これが
令和3年度(2021年)には395人に
(受け入れ自治体は258)増加!


ちなみに制度が開始した時は、
『地域おこし企業人』という名称でした。
これが令和3年度から
『地域活性化起業人』という名称に変わった。

◎「地域おこし」→「地域活性化」
◎「企業人」→「起業人」

この名称変更に、
「地域おこし協力隊」とはまた違った
制度なんですよ、と周知する意思を感じます。

企業から派遣されるのに、あえて
「起業人」とつけているところに、

「主体となって『起こして』ください!」
「あなたが『主人公』ですよ!」

というメッセージ性を込めたように、
私は感じるのです。

…ただ、ですね。

22人から395人、とだけ書いたのは、
これは、数字のマジック。
この制度、新設以来、うまくいってきたのか、
というと、必ずしもそうではなさそうです。

平成26年度から令和元年度までの
活用人数の推移を見てみます。
22→28→37→57→70→95(人)
となっています。
…そう、実は、国の予算で6年間もやって、
100人にも到達してなかったんです。

何が良くなかったのか?

実際に、2021年5月から、
三重県の玉城町に「起業人」として着任した
面白法人カヤックに所属する
名取良樹さんのインタビュー記事から引用します↓

(ここから引用)

『「実は、玉城町と
あともうひとつの自治体から
地域活性化起業人にならないかと
お声がけいただいていました。

ただ、地域活性化起業人という制度自体、
あまりうまくいっていないんです。

企業の看板を背負ってその地域に入っても、
企業の利益になる活動は
利益相反になってしまうのでできませんし、

それほど企業に
メリットがあるとは言えません。

実質的には、企業の人員整理や
肩たたきシステムのように
使われている面もあった
のではないでしょうか。

ですからお声がけいただいたものの、
一度はどちらもお断りしたんです。』

(引用終わり)

最初は「お断り」されていたんですね。
…うーん、人員整理、肩たたきシステム。

率直な表現ですが、そういう側面も
確かに考えられます。
三大都市圏に住み、勤務している人から見れば
「地方」へと向かうのは、
「左遷」のような捉え方もされるかもしれない。


しかし、この潮目が変わったのだ!と
名取さんは続けます。

(ここから引用)

『その後、新型コロナウイルスが流行して、
人の往来が難しくなったことから、
“みんなの移住フェス”という
オンラインイベントを行ったところ、

行政の反応や問い合わせの数が
すごく増えたんですね。

自分でも潮目が変わったのを感じて、
SMOUTが事業としてうまくいく
という実感が持てました。


一方で、自分が責任者をしていたSuMiKaは、
自分たち以上にこの事業を
伸ばしてくれる企業に
譲渡をすることが決まって。

玉城町から二度目のオファーが来たのは、
そういう整理がついたタイミングだったので、
この機会に玉城町に
かかわることを決めました。」』

(引用終わり)

※引用記事中のSMOUT(スマウト)とは
名取さんが所属する面白法人カヤックが運営する
「移住スカウトサービス」のことです↓

そう、2020年~現在2022年まで
ずっと続いている「コロナ禍」。

これにより、潮目がガラリと変わった。
「必ずしも都会で働くことに
固執することはないのではないか…?」
「都会で働くメリットとデメリットは…?」

そう考える人が増えてきたんです。

もちろん、制度の名称等を変えた影響も
あるかもしれませんが、

令和元年度(2019年度)から
令和3年度(2021年度)の
活用人数は、急激に伸びています。

◆95→148→395(人)

何と、6年で100人にも満たなかった人数が、
半分の3年で400人近く、約四倍になっている!

「都会→地方への潮の流れ」ができつつある。

そういうことを、この制度の人数の
推移の変化からも感じることができるのです。

最後に、まとめましょう。

地方でこそ輝ける人材、
地方でこそ開拓できるビジネス、
そういうものがある、と思います。

コロナ禍という「奇禍」、
「思いがけない災難」
「奇貨」すなわち
「思いがけない利益」へと変えていく。

都会に集中していた人材が、
その培ってきたスキルや開拓精神を
地方のために活かし始めている…。

しかも「会社を捨てる」
「都会を捨てる」のではなく、期間限定。
二拠点生活、いいところどりのように
どちらの良さも活かしながら
好循環で回していく…。

そういうことを行うために、
この『地域活性化起業人』制度には
企業側も自治体側も
検討すべき要素が多々あるように思います。

この流れに「気づいた」人が
増えている昨今、
今後もおそらく「地域活性化起業人」の数は
増えていく
のではないでしょうか?

※「スポーツクラブ ルネサンス」の事例はこちら↓

読者の皆様の町では、いかがですか?
もし読者の皆様自身が、
「起業人」として地方に行ってくれ、
と言われたら、どうしますか?

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