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長編小説『凸凹バラ「ストロングリリーフ」ミシェルとランプ』30

ルドネは、盟王に頭を下げた後で、
じろりと自分の娘を見る。

「こら、パンナ。わがままを言うから、
盟王はんにいらぬ気遣いをさせたやないか!」

「そやかて、一度、この目で早く
見定めておきたいやんか。
トムヤム君民国で学んでいた時も、
大事なことは
自分の目で見るに限る、と言われたで!
現に、盟王陛下も自らの足で
ここまで出向いていらっしゃった。
じかに会ってこそ、わかることもあるんや」

「まあまあ…」

父と娘の口論をなだめて、
盟王はパンナに問いかけた。

「あなたは、トムヤム君主国に
留学をなさっておられたんですな。
この私も、若い頃には海を渡って、
腕試しをしたことがありますぞ。
もっとも、留学という感じではなかった。
口うるさい監督とともに、
野球の武者修行、というところでしたが…」

「盟王陛下もですか!
さぞ、その頃とは
風景も変わっておりますでしょう。

トムヤム君民国、あの国は凄い!

一日一日、どこかで何かが
新しく発明され、常に発展している。
我が国や御国とは速度が違う。
早めに取り組まないと、
差は開くばかりかと思います」

「…全く同感だ。姫は、何を中心に
学んでこられたんですか?」

「国の運営に関わる様々なことを学びましたが、
特に、人事を中心に学んで参りました。
ただ、一通り色んな師範について学んだ後は、
ずっと自習をしていたのです。

そもそもカプサ学校は、
自分が好きなことを好きなだけ学ぶ、
これが方針ですので。
各地の学校を回りつつ、
ジンジャー・ティールという
『人事師範』の本を読んでおりました」

「…ジンジャー・ティール?」

その名を聞いた盟王は、
ちょっと考え込む素振りを見せた。

「と言っても、残念ながら
ご本人にはお会いできませんでしたが…。

かの国にはその昔、ジンジャー・エイルと
ジンジャー・ポック、
それにジンジャー・リリアという、
三世代にわたる『人事の達人』がいたそうです。
おそらくその一族の末裔の方なのでしょう」

「…意外やな。
お前は、美味しいお菓子屋や
食べ物屋巡りばかりをしとると思うたが」

「いややわ、お客様の前で、
そんなん言わんといて!
まるで、うちが食いしん坊みたいやないの。
美人のお尻を追いかけまくっとる
兄上とは違うんやから!」

「こら、お前かて、
人聞きの悪いこと言うなや。
わいは追いかけまくってなどおらんで。
美人のほうが、
わいを追いかけまくっとるんや。
ああ、人気者は辛いで」

賑やかに言い合う王子と姫を見ながら、
盟王は、大公に声を掛ける。

「ルドネ殿。王子も姫も、
立派に育っておられるようですな。
これも、小さい頃から留学させて、
外の世界を経験させた、
あなたの先見性によるものです。
素晴らしいことだ!」

「…買いかぶり過ぎですぞ。
そういうあなたも、四人のお子を育て上げて、
国内をしっかりと
まとめ上げておられるではないか。

第二王子のクランべ殿をアルバボンへ、
長女のマオチャ姫をガリカシスへ送り、
今度、次女のココロン姫を
リーブルと結婚させる。

それだけでなく、裏舞台で
手足となって働く切れ者の姉弟も
いらっしゃるとか。心強い限り!」

「…足りないんやないの、一人?」

指折り数えたパンナが、ぼそっとつぶやく。
その頭を、音高くリーブルがはたく。

「い、いったあ! 何すんのん、兄上!」

「様々な事情がおありなんや、陛下にはな。
すんまへん、無神経な妹で。ご容赦を」

ひらひらと手を振って、イッケハマルは答えた。

「なあに、お気になさらず。
そう、子どもはもう一人いる。
第一王子のセイン。
だが彼は、いささか身体が弱いもので…。
宮殿の一室で、無理をせずに暮らしておる」

パンナはそれを聞くと、慌てて
深々と頭を下げ、盟王に謝罪した。

「知らぬこととは申せ、失礼いたしました!
どうぞ、ご寛恕のほどを…」

顔を上げると、彼女はにっこりと笑顔を見せる。

「いずれ、このパンナが
最新の薬や医学を御国にもたらして、
セイン王子のみならず、
病気に悩むすべての者たちを
救ってごらんにいれましょう!
カプサ学校には、
優れた『医薬師範』がおりました。
国の中で解決できないことは、
外から解決するに限る」

姫の言葉を聞いて、盟王は深くうなずいた。

「誠に姫の言う通りだ。
我が国は、いささか中だけを向いて
物事を考える者が多い。
ぜひ、王子や姫を見習って、
人材を外に出し、
広い世界を見させたいものだ。

このイッケハマル、
御国と手を取り合って、
両国の発展に力を尽くして参りますぞ。
今後ともよしなに」

盟王自らの直接の要請に、
大公一家も力強くうなずいた。

…「人たらし」として有名な
盟王の単独行。
彼に会う者は皆、とりこになるのである。

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『凸凹バラ「ストロングリリーフ」
ミシェルとランプ』
作:ヒストジオいなお
絵:中林まどか

◇この物語は、フィクションです。
◇noteにも転載していきます。
◇リアクションやコメントをぜひ!
◇前作『凸凹バラ姉弟
ミシェルとランプ』の続編です。
(全6章のうち、5章まで公開)
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