見出し画像

長編小説『凸凹バラ「ストロングリリーフ」ミシェルとランプ』29

7、大公一家の団欒

ピノグリア大公国の首都ロマコンティは、
その国土の中央に位置している。

東部の海沿いには、港のあるボジョンヌ。
西部のマオチャ山脈の近くには、
オアシスロードへの入り口のカベルーネ。
キュシェ川沿いの南部には、
新興都市ピノワール。
いずれも大都市だが、
首都ロマコンティの繁栄にはかなわない。

ローズシティ連盟では
首都と五大都市との差が
そこまでないのに対して、
北のこの国は一極集中、
「首都ロマコンティとその他」
という構図なのである。

というのも、この国では
最高権力者である「大公」に
権力が集中しているからだ。
その勢威は、その昔には
ローズシティ連盟の南端にある
ダマクワスまで及んでいた、と言われている。

しかし現在では、キュシェ川を境にして、
北と南とに国が分立している。
…国土が狭くなった分、より一層、
大公の権力が集中されて
濃くなっている、というわけである。

駱駝姫ことシャー・パンナは、
ピノローズ橋を渡ってピノワールの街に入ると、
まっすぐ北へと馬を走らせた。
じきに首都、ロマコンティに着く。
城門を越えて、宮殿へと戻る。

「パンナ姫! お早いお帰りでんな。
南の奴らは、どないでしたか?」

「まあ、顔はええけど、
片手でちょちょいとひねれそうや。
大したことあらへんで」

出迎えてくれた執事に、軽口を叩いた。

この国では、言葉がなまっている。
対外的にはなまりが出ないように
注意して話しているが、故国に戻れば
自然となまりが出るのである。
外に出てもこの国のなまりのまま、
ずっと通す者もいる。

「みんなは?」

「客間にいてはります」

旅装を解いて素早く着替えると、
客間に向かう。
そこには、父親のシャー・ルドネ大公と、
兄のシャー・リーブル王子が座っていた。

彼らの正面には、五十過ぎの黒髪の中年男性。

「おお、これはパンナ姫。お戻りかな」

「イッケハマル盟王陛下! ただ今、
御国のモダローズから戻りましてございます。
陛下のお子様方にも、
丁重にご挨拶をして参りましたわ。
陛下の許可があればこそ」

…そう、神出鬼没の行動力を持つ盟王が、
単身、首都ロマコンティまで
おしのびで訪れているのだった。
この行動の身軽さこそが、
盟王の最大の武器、とも言えよう。

「ココロンにも会えましたかな?
あの末娘とパンナ姫とは、年齢が同じだ。
リーブル王子と結婚したあかつきには、
あなたたちは義理の姉妹となる。
…仲良くやってもらいたい」

「それはもう、心得ております。
末永く、おつきあいしたく存じます」

ココロンと舌戦を交えたことなど
おくびにも出さず、
姫は礼儀正しく頭を下げた。

そこに、兄のリーブル王子が茶々を入れる。
この王子も駱駝色の髪、
大きな瞳は妹にそっくり。
姫よりも髪は短いが、日焼けして
活力にあふれたその顔は、
まず美男子、と言えた。

「盟王はん。
騙されてはあきませんで。
この不肖の妹は、きっとそちらはんに
迷惑をかけまくったはずや。
冷や汗が止まりまへん。
このリーブルに免じて、どうぞご堪忍を…」

「…なんや、兄上。えらい言いようやな。
せっかく兄上のために
『斥候』をしてきた、というのに、
そんないけずなことを言うのやったら、
もう行かへんで!」

「そんなん言うて、どうせ、また
勝手に行きたがるんやろ?
わいはお見通しや」

「へへ、ばれたか」

軽妙なやり取りを楽しそうに聞いていた盟王に、
大公が重々しく声をかける。

「イッケハマル殿。
我が娘の突然のわがままをお聞き入れ下さって、
ありがとうございました。
老いてからできた子どものせいか、
どうも甘やかしてしまったようで。
妻も先立ってしまって、
行き届かないところも多い。申し訳ござらぬ」

「何をおっしゃいますか、ルドネ殿!
私も同じでござる。特にココロンには、
末娘ということもあってか、
やりたいことをのびのびとやらせてしまいました。

王子とのご結婚が成りましたら、
ともに重責を担う身となる娘です。
どうぞ、長い目でお見守り下さいませ」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『凸凹バラ「ストロングリリーフ」
ミシェルとランプ』
作:ヒストジオいなお
絵:中林まどか

◇この物語は、フィクションです。
◇noteにも転載していきます。
◇リアクションやコメントをぜひ!
◇前作『凸凹バラ姉弟
ミシェルとランプ』の続編です。
(全6章のうち、5章まで公開)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

次回はこちら↓

前回はこちら↓

よろしければサポートいただけますと、とても嬉しいです。クリエイター活動のために使わせていただきます!