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メメントモリ ~古代のローマからジョブズ~

ゲームのタイトルにも使われていますが
元はラテン語から来ています。

◆memento mori

メメン・トモリじゃなくて
メメント・モリ

「memento」とは「記憶する」の命令形。
「mori」とは「死すべき運命」の意味。
『死すべき運命を記憶せよ』すなわち
「自分がいつか死ぬことを忘れてはいけない」
超訳するならば
「リメンバー・デス」といったところ、です。

不吉というかドキッとする意味…。
本記事ではこの「メメントモリ」について
書いてみたい、と思います。

そもそもの起源は、古代ローマ時代。
凱旋将軍が大歓声の中でパレードを行う。
その際にあえて使用人に

「メメントモリ」

と言わせていたそうなんです。

増長するな、驕ってはいけない!
今日は勝てたけれども、明日は
一敗地にまみれ命を落とすかもしれない…。
「勝って兜の緒を締めよ」的な
自戒として言わせていました。


ただ、古代ローマにおいては
このしかつめらしい教訓だけでなく、
次の言葉とセットで使われることが多い。

◆carpe diem

カルペディエム、です。
「その日を摘め」という意味。
英語で言えば「seize the day」。
これは紀元前1世紀、古代ローマの詩人
ホラティウスの『歌集』に出てくる言葉。

「明日のことは信用せずに、
その日の花を摘みましょう」


メメントモリ&カルペディエム。
人はいずれ死ぬ、
だからこそ、この日を充実させましょう!
そんな明るい雰囲気で使われていた。

…しかし、ですね。

古代ローマのような強い時代、
偉大な時代にはそれで良かったのですが
徐々にヨーロッパに暗い影が落ちてきます。

特に14世紀の中頃。
ペスト(黒死病)という伝染病が流行り、
推計で5,000万人もの人が亡くなる。
老若男女、富める人も貧しい人でも
みな突然、あっけなく死んでいく。
いつ命を落とすか分からない時代…。

このペストの大流行に合わせて、
「メメントモリ」の考えが大流行します。
「死ぬことを忘れるな!」
そのような警句が実感とともに共有される。

美術でも盛んに取り上げられ、
『死の舞踏』『死の勝利』など
骸骨で擬人化された「死」が
人間を支配する様子が描かれました。

これは後の時代にも影響しています。
ヨーロッパの静物画のジャンルの一つに
『ヴァニタス』というものがある。
「人生の虚しさ」を描きます。
16世紀から17世紀によく描かれた。

ここではよく「頭蓋骨」が描かれました。
まさに「メメントモリ」!
他にも果物(熟す=加齢や衰退を示す)、
時計(人生の短さを示す)、
楽器(人生の刹那的で簡潔なさまを示す)
などがモチーフとして描かれています。

…どうしても日本から見れば
「ヨーロッパ=列強」というイメージが
強いのですけれども、それは
明治維新以降のイメージの話。

『産業革命』が起こる前の
14世紀のペストの大流行や
17世紀の三十年戦争などの時代、
ヨーロッパはかなり「暗い」んです。
死の影が強く広く世の中を覆っていた、
と言ってもいい。

その中で「カルペディエム」という
明るい楽天的な一面は力を落としていき、
「メメントモリ」=死を忘れるな、という
側面がクローズアップされてくる…。

さて、このメメントモリの精神ですが、
実は日本においてもいくつか
似たような事例を挙げることができます。
いま、ぱっと思いついたことを
独断と偏見でピックアップしましょう。

まず「とんち」で有名な一休さんです。
一休宗純。1394年~1481年の15世紀の人。
1467年「ヒトノヨムナしい」
応仁の乱の頃の生きた人ですから、
かなり動乱の時代に生きていた。

『元旦は 冥土の旅の一里塚
めでたくもあり めでたくもなし』

こんなことを唱えながら
髑髏の杖を持った杖を持って
街の中を練り歩いたそうですね。
とんでもない人だ。
お正月だと言って浮かれるな、
人はいつ死ぬかわからない…。
まさに、メメントモリに通じるところです。

次に、新選組で有名な沖田総司。
1842(1844)~1868年。
「幕末の最強剣士」の一人として
かなり有名な人ですよね!
よく漫画やドラマにもなる。

若くして病死しています。
かつ新選組というデッドオアアライブ、
常に生と死のはざまで生きてきた人。

作家の司馬遼太郎さんはこの沖田を題材に
『菊一文字』という
短編小説を書いています。
(『新選組血風録』という本に収録)

ネタバレは野暮なので避けますが、
「菊一文字」という、鎌倉期から
ずっと幕末まで「生き残って」きた古刀と、
病魔に侵されつつある沖田とを
対比させて描いた名作中の名作。
そう私は思っています。

合わせて『もののけ姫』もぜひ。
言わずと知れた宮崎駿監督の名作!

この映画のキャッチコピーは?
「生きろ。」ですよね。
コピーをつくったのは
糸井重里さんですけれども、
プロデューサーの鈴木敏夫さんと
実に50案近くもの案をやり取りしている。

コピーづくりはどんどん迷走する…。
果てしない紆余曲折の末に生まれたのが
「生きろ。」というシンプルな言葉でした。
あの頑固な宮崎監督も、ついに承諾した。

序盤で、腕に呪いをかけられたアシタカに、
老いた巫女ヒィ様は言葉を贈ります。

『誰にも運命(さだめ)は変えられない。
だが、ただ待つか自ら赴くかは決められる』

この映画にはメメントモリっぽい要素が
多分に含まれているように、
私には思われるのです。

最後に、まとめます。

本記事では「メメントモリ」という
言葉について書いてみました。

2011年に亡くなったアメリカの起業家、
スティーブ・ジョブズさんの言葉で締めます。
2005年、米スタンフォード大学の
卒業式で行ったスピーチより、部分引用。

(ここから引用)

『誰も死にたくない。
天国に行きたいと思っている人間でさえ、
死んでそこに
たどり着きたいとは思わないでしょう。

死は我々全員の行き先です。

死から逃れた人間は一人もいない。
それは、あるべき姿なのです。
死はたぶん、生命の最高の発明です。
それは生物を進化させる担い手。
古いものを取り去り新しいものを生み出す。

今、あなた方は新しい存在ですが、
いずれは年老いて、消えゆくのです。
深刻な話で申し訳ないですが真実です。

あなた方の時間は限られています。

だから、本意でない人生を生きて
時間を無駄にしないでください。
ドグマにとらわれてはいけない。
それは他人の考えに従って
生きることと同じです。
他人の考えに溺れるあまり、
あなた方の内なる声がかき消されないように。

そして何より大事なのは、
自分の心と直感に従う勇気を持つことです。

あなた方の心や直感は、自分が本当は
何をしたいのかもう知っているはず。

ほかのことは二の次で構わないのです』

(引用終わり)

さあ、あなたは今日、どんな花を摘みますか?

※「メメントモリ」について
さらに詳しい記事はこちらを↓

※とんち小僧でない一休さんのお話は
坂口尚さんの漫画
『あっかんべェ一休』でぜひ↓

※『新選組血風録』に収録されている
短編小説「菊一文字」もぜひ↓

※『もののけ姫』のコピーが
決まるまでの紆余曲折については
こちらの記事を参考にしました↓

合わせてぜひどうぞ!

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