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「町中華」ではなく「町和食」でのお話。

私は住宅街にぽつんとある飲食店、
いわゆる「町◯◯」が好きでして、
よくランチに行くんですよ。
町中華、あるいは町和食。これは
町洋食でも、町カレーでもOKです。

…どうしても、和食の飲食店は、
そばや天ぷらや寿司に寄りがちですよね。
「売れ筋の商品」に寄り添う。
これは飲食店戦略としては間違っていない。

もちろん、町そばも町天も町寿司も、いい。
美味しいお店は、たくさんあります。

しかしながら、和食全般、なんでも作ります、
気分に応じてチョイスして食べられますよ!
という「良い塩梅の雰囲気の町和食」には、
なかなかお目にかかれないんです。

いや、ありますよ。探せば。いくらでも。
「食べログマップ」とか検索すれば。

しかしながら、ランチで千円以内に
収まるようなところで、
かつ、高級すぎず、庶民的過ぎず、
ざっかけなく食べられるのに
「和食、食べました!」と後で思えるような
お手頃のお店は、意外とないものなのです。

〇〇割烹、のような、
デフォルト二千円超えの
ちょっと高級なお店だったり、
和風ラーメン五百円、を置いているような
ちょっと大衆過ぎるお店だったり、
そんなお店は、けっこうあるんですけどね。

和食の料理人さんがどんと構えていて、
出汁をしっかりひくような、町和食!


こういうお店になるためには、
きちんとしたキャリア、ビジョンが
必要だと思われます。
ザ・町和食。それで生きる覚悟が。

一応、私基準としては、ですね、
「ラーメン、カレー、ハンバーグを
置いてないお店」
です。
…ニュアンスは伝わるでしょうか?
これらが置いてあるお店は、
町和食ではなくて「大衆食堂」だと
私は勝手に思っています。
(注:もちろん、大衆食堂も大好きです)

前置きが長くなりまして、すみません。
本記事は、とある町和食で出会った
素敵なメニューについて書きたいんです。

私は、そのお店の前にある
手書きの看板を見ました。
この町和食のお店は、季節限定で
意表をつくメニューが出てくるんですよ。

…ありましたよ、今回も。

『めかぶ丼』と書かれていた。

…め、めかぶ?!

あの、納豆とか子持ち昆布とか
スーパーでそのあたりのコーナーに
置いてある、海藻の、あれ?
それを、丼にするの?!
メニューとして、出しちゃうんだ?!

もう私の頭の中では、
めかぶがザパーン、と波打っていました。
食卓の脇役の中の脇役、「めかぶ」!
これを、いかにしてメインに据えるのか?
というか、据えられるのか?

気がつくと、その荒れ狂う疑問の波の中で、
私はめかぶ丼を注文していたのです。

ほどなく着丼しました。ふたを開ける。

丼のふたを開ける瞬間って、
どきどきしますよね。
天丼なら海老が、カツ丼なら豚肉が、
ほわっと衣をまとって
スポットライトを浴びるでしょう。

しかし、めかぶ、です。
どうなるんだ、いったい?
だ、大丈夫だろうか?


そんな私の勝手な心配は、
杞憂に終わりました。なぜならば。

めかぶには、相棒がいたのです。

さながらヴァージンロードを
エスコートするお父さんとして、
めかぶはつつましやかに
ご飯の上に、在りました。


その上に、純白の彼女がいたのです。
そう、とろろ姫が…!

「めかぶと、とろろ。そうか!
その手があったか…!」


じゃあ「めかぶとろろ丼」と書いてくれよ、
とチラッと思いましたが、
もしかしたらこれは店の計略かもしれない。

私は、黙っていました。
この純白の花嫁の如きとろろに、
心を奪われていた。
濃いめの緑のめかぶと、真っ白のとろろ。
このコントラスト!

呆然たる一瞬を経て
我に返った私は、木匙でおもむろに
とろろをすくった、その時です。

何と、白いとろろの
ウェディングドレスの中から、
鮮やかな黄色の温泉卵が
たゆん、と溢れ出てきたんですよ!

(画像でも隠れていて見えないと思います)

全くの奇襲。伏兵。…孔明の罠!
やられた、と私は思いました。

海からの刺客「めかぶ」。
山からの女豹「とろろ」。
そう、つつしまやかに歩いていたと
思っていたその二人が、突然、牙を向いた。

海の幸と山の幸との結婚式…?
心温まる丼に見せかけて、その実、
にわとりの山賊からの、予期せぬ一撃!

ガツンと、心を奪われました。
まさに、神算鬼謀の丼、と言っても良い。

「ただ、めかぶが乗っている丼だろ?」

そう侮っていた私は、
彼らの三連撃になすすべもなく、完敗。

もう木匙が止まりません。
何か美味しい和食っぽいタレが
かかっていて、醤油は不要。
ただただ、かっこむだけ。

脇に控える熱い味噌汁が、また嬉しい。
きちんと出汁がひいてある。
ポテサラはおなかの満足感を生み出し、
香の物は舌の刺激感を演出!
さながら、劇団四季か、ひまわりか…!

刻まれながらも歯ごたえを残す、めかぶ。
とろとろモチモチ食感の、とろろ。
目にも舌にも鮮やかな、温泉卵。
緑、白、黄色の対比、マリアージュ!

その巧みなコラボに酔いしれて
(お茶しか飲んでないのに)
私はもう『ごちそうさまでした』と
恐れ入るしかなかったのです。

お肉や魚などのメインの食材は
無かったはず。なのに、
「和食、食べました!」と思わせるような
この食後感、満足感たるや…。

町和食で偶然に出会えた「めかぶ丼」。

日頃、ヤンチャなランチに流れがちな
私の胃に、涼風が吹いていました。
なんだか、健康になった気がした。
あくまで、気がするだけですが。

私は、忘れた頃の再訪を誓って、
その店を後にしたのでした。

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