U字谷から上る ~新しい発想と実践のために~
1、U字谷とU理論
「U字谷(ゆーじこく・ゆーじだに)」という地形があります。
高校で地理を学んだ方や、登山が好きな方ならば、お聞きになったことがあるかもしれません。…「U字工事」ですか?と思うかもしれません。
U字谷については、これらのページをご参照ください↓。
一言で言えば、氷河によってできる地形です。細い谷川でできる地形がV字谷とすれば、太い氷河でできる地形はU字谷。水の流れなどで土や岩が削られて、谷になります。ちなみに、北欧で見られる「フィヨルド」などは、このU字谷に海水が入り込んでできた地形です↓。
ちなみにU字工事はこちら。栃木県出身のコンビ芸人↓。
私もてっきり「ゆうじさん」「こうじさん」がコンビ名の由来かと思っていたら、全然違いました。U字工事と名乗る前は、「牛タンナポリタン」「キャッチホン出る出る」などと名乗っていたそうです。しかし消防士の友人からU字工事と名付けられて、そのまま使い出したとのこと。本人たちもなんでU字工事なのか知らなかったそうですが、こちらがその由来↓。
「U字溝」が由来だそうです。断面がU字型の連結型の溝。
ともかく、U字は自然的にも人工的にも、懐が深く、水がたくさん流れる(流れた)形として、この世の中に存在します。
このU字の形を、「過去の延長線上にない変容やイノベーションを個人、ペア、チーム、組織やコミュニティ、そして社会で起こすための原理と実践手法を明示した理論」に援用して、提唱した人がいます。
一言で別の言葉で言い換えれば「新しい発想やひらめきはどうやったら生まれるのか? どう実践するのか?」ということを述べた理論ですね。人や組織にイノベーションをもたらす。かっこいいじゃないですか。
人呼んで「U理論」。
提唱したのは、マサチューセッツ工科大学上級講師、C・オットー・シャーマー博士です。
2、中土井僚さんの記事より
シャーマー博士のU理論。なかなか難解ですので、わかりやすく紹介してくれる本を探しましょう。Amazonで検索すると…これですかね↓。
現在は誠にありがたい時代で、マンガで難しい理論もやさしく理解することができます。
この本の著者、中土井僚さんは、日本におけるU理論の第一人者。彼のインタビュー記事はこちらから↓。
U理論を知るためには、この記事の全文を読むのが一番なのですが、このnote記事では一部を引用していきます(太字引用者)↓。
そもそもの始まりは、グローバルなコンサルティングファームであるマッキンゼー&カンパニー、ウィーン事務所の責任者だったマイケル・ユングが、オットー博士にある大きなプロジェクトに参画しないかと声をかけたのがきっかけです。
そのプロジェクトとは、リーダーシップと組織、戦略について、世界中のトップクラスの思想家にインタビューするというもので、学者、起業家、ビジネスパーソン、発明家、科学者、教育者、芸術家など約130名の革新的なリーダーに対して実施されました。その時の知見が原型となって生まれたのがU理論です。その後、オットー博士自身が、数々の組織変革や社会変革の現場にファシリテーターとして参画するなかで理論をフラッシュアップし、体系化していきました。
革新的なトップクラスの人たちに、インタビューをして、「どうやって優れた人たちは発想しているんだろう?」とまとめたのがU理論だそうです。実例から生まれた、理論のための理論ではない、実践的な理論。
最も特徴的なのは、優れたリーダーの「やり方」に着目するのではなく、ブラックボックスになっている彼らの「内面のあり方」、すなわち高度なパフォーマンスや変革か起こる際の「意識の変容」に着目している点です。
やり方ではなく、内面のあり方、意識の変容に着目…。私たちは、ついつい外に出ている行動や方法に目を奪われがちですが、そうではないと。優れた人たちがどんな風に考えているのか、どう発想するか、それを見ると。
私たちがこれまで慣れ親しんできたのは、計画を立て(Plan)、行動し(Do)、結果を振り返って評価し(Check)、改善措置を実行し(Acttion)、計画にフィードバックするというPDCAサイクルですが、オットー博士はこれを「過去からの学習」と位置づけています。この「過去からの学習」とはまったく異なる学習方法が「出現する未来からの学習」です。
ここで記事では図が出てきます。〇ではなくU。
「PDCAサイクル」などは、よく聞いたことがあるかと思います。プラン・ドゥ・チェック・アクション。計画・行動・評価・改善。これじゃない。サイクルじゃない。これは「過去からの学習」。
そのアンチテーゼと言ってもいいのが、このU理論。「出現する未来からの学習」とのこと。
…うーん、なんか胡散臭いなあ、と思いますか? だって、未来を見ることなんて誰にもできないじゃないですか。占い師か何か? ドラえもんのタイムマシンですか? とツッコミを入れたくなる気持ちを抑え、次を読む↓。
「過去からの学習」によって行動する時、私たちは行動を起こす前から「なぜ、その行動を行なうのか?」という理由や正当性を知っていることになります。オットー博士は、このようなアプローチでは、我々が直面している困難な問題の解決やイノベーションの実現には不十分であると指摘しています。なぜなら、頭で考えてひねり出し実現できるくらいの答えであれば、これまでの努力によって問題は解決していてもおかしくはなく、その答えは、イノベーションと称されるほどに「ありそうでなかった」「過去の延長線上にはなかった」ものではないはずだからです。
確かに。新しい発想、イノベーションなどは、過去の延長線上にはない。何か問題がある。どうすれば良いのだろう。その解決法を探る時、私たちは過去に答えを探しがちです。しかし、過去と言うのは問題が起こっている状況で、その問題がいまに続いているわけですから、必ずしも過去に答えはない。解決できてないということは、過去の延長線上には答えはない、と言ってもいい。…なるほど。
それに対して「出現する未来からの学習」は、まず直感として現れ、どこかに引き寄せられるような感覚、「なぜ」というより「何」という感覚を頼りにしていくものであるとオットー博士は述べています。
何かをすることに惹かれるけれども、なぜかははっきりとわからない。実際に自分の手足を動かし、心で感じ取りながら形を見出していくことで、やっと頭は「なぜ、それが必要だったのか。なぜ、それをすることになったのか」を理解し始めます。
要は、「ひらめき」みたいなものですかね? 先にひらめいて、それを形にしていく。先に形があるわけではない。
そうした感覚を頼りにした意思決定は、根拠のないものと見なされがちです。しかし、解決が困難な状況に至り、袋小路にはまり込んでいればいるほど「何かがおかしい」「なんとなく違う」という感覚、そして「なんとなく、これじゃないか」という、微かでしかも確かな感覚を頼りに前進することが必要です。直感を頼りに前進することにはリスクを伴いますが、だからこそ思いつきもしなかった、想像をはるかに超えた展開を迎えることができ、イノベーションが実現されていくのです。
こうした直感を頼りに意思決定をする方は創業経営者に多くみられますが、彼らは口をそろえて「ひらめきや直感に対して、後づけで理屈をつける」と言います。
これはよく聞く話ですね。ひらめきや直感に対して、後付けで理屈をつける。ただ問題は、どうやってひらめきや直感を行うのか。
3、7つのステップより
ここでもう1つ、記事を紹介しましょう。
http://mos-sakurada.com/blog_useful/%EF%BD%95理論%EF%BC%88オットー・シャーマー%EF%BC%89
「マネジメントオフィス桜田」さんの「お役立ち情報」の記事には、このU理論の図が引用されていました↓。
まず、3つの段階があると言います。
■Uを下る:自分の境界線の外側の世界とつながる
■Uの谷:自分の内側から現れる世界(源)とつながる
■Uを上る:新たなものを世界にもたらす
下る↓。谷底→。上る↑。だから「U理論」。わかりやすい。
しかしこれだけだと何が何やらの抽象的な話です。
具体的には、7つのステップがあると言います。記事にあった文言を、少し私なりに取捨選択・アレンジしてまとめてみました↓。
【下る↓】
①「再現する」ダウンローディング(Downloading)
・過去の経験によって培われた枠組みを再現する。
②「新鮮な眼で見る」スィーイング(Seeing)
・判断を保留し、現実を新鮮な眼で見る。
③「感じ取る」センシング(Sensing)
・感じ取る。「開かれた心」によって全体性から置かれた状況を見る。
【谷底→】
④プレゼンシング(Presensing) ※(PresenceとSensingの造語)
・「自身の最も深い源につながる能力」によって、未来はある部分的な関心からではなく、全体性から現れる。
【上る↑】
⑤「結晶化する」クリスタライジング(Crystalyzing)
・ビジョンや意図を明確化し、結晶化する。
⑥「具体化する」プロトタイピング(Prototyping)
・ビジョンを構築し、具体的なものを作る。
⑦「実践する」パフォーミング(Performing)
・現場の適切な人たちを巻き込んで、実践する。
この記述を踏まえて、あえて言い換え、こういうことかなと解釈しました。
■Uを下る:自分の境界線の外側の世界とつながる
→過去を新鮮な視点で見る
■Uの谷:自分の内側から現れる世界(源)とつながる
→内省して自分とつながり、ひらめく
■Uを上る:新たなものを世界にもたらす
→ひらめきを形にして実践する
ここで大事なのは、次の3つだと思います。
1、過去の評価や枠組みにとらわれない
2、ただあるがままに感じ取る
3、必ず実践する
U理論は、過去を学ばず、ただ未来から考えろ、というわけではない。まず過去です。ダウンロードです。①再現する、がスタートです。
その上で、過去の評価や枠組みにとらわれない。②新鮮に見る。「視座を転換する」「手放す」と図には書いてあります。過去の評価では「悪い」と思われていたことを、ただあるがままの状態として見る。もちろん、それが「良い」かどうかはわかりません。ただ見る。そこから③感じ取る。
そうして得た④プレゼンシンク・ひらめきを、必ず実践する。実践できないものは意味がない。⑤結晶化して、⑥具体化して、⑦実践する。
いったんU字の底に潜り、感じて、浮かび上がる。
このイメージから、私はある漫画を思い出しました。
4、藤井聡太さんと濱口秀司さん
柴田ヨクサルさんの将棋(バトル)漫画、「ハチワンダイバー」です↓。
ハチワンとは81、つまり将棋盤の9×9を差します。将棋を指す人、棋士たちは、この81の升目で次に何を差すかを考え抜きます。ハチワンダイバーでは、この将棋盤に「ダイブ」する描写が多い。文字通り「沈む」のです。沈んで、水底で最善の手を考える、というか「感じ取る」のです。それが正しい手なのかはわからない。しかし考える。あるいは感じ取る。そして、その手を「差す」。実践します。
よく将棋の名人は、何十手、何百手先まで読むと言います。まさに未来を考えています。その源は、過去の棋譜。どうやって差すかの事例。しかしそれだけでは勝てない。最善手を「ひらめいて」、今までにない新しい差し手を考え出した人が頂点に立つ。
藤井聡太七段。いまや誰もが知っている天才棋士。彼は石田五段のとの対局で、「AIを超えた」「神の一手」と呼ばれる凄まじい打ち方をしたそうです。私は将棋は素人なので、どこが神の一手なのかよくわからないのですが、凄い一手なのでしょう。この記事に詳しく書かれています↓。
過去の膨大なデータを解析するAIでも低い評価の一手。素人どころかプロでも考えつかない悪手。過去の評価では「ありえない」。しかし、藤井七段は実際にこの手を打って、勝利をつかみました。天才と呼ばれるゆえんです。過去の評価にとらわれず、潜り内省しひらめいて、そのひらめきを結晶化して実践する。この一手に、私はU理論に共通するものを感じます。
もう一人。濱口秀司さんの事例。これは先日のnote記事で書きました↓。
USBフラッシュメモリや、イオンドライヤーを世の中に出した方。人呼んで『伝説のイノベーター』です。
詳細はnote記事を読んで頂きたいのですが、彼の発想法を端的に示した言葉「3つの条件」だけ引用しましょう↓。
次の「3つの条件」が必要とのことです。
①先入観を壊すこと ②実行可能であること ③議論を生むこと
先入観を壊しても、実行できないファンタジーではダメ。実行できても、議論して練らないとダメ。厳しいが本質を突いていると思います。
私は、このnote記事を書いたときはU理論について知らなかったのですが、今、改めて読むと、共通する部分があるなと感じました。
もう一度、U理論の私の解釈のまとめを書きます。
1、過去の評価や枠組みにとらわれない
2、ただあるがままに感じ取る
3、必ず実践する
下る↓。谷底→。上る↑。だから「U理論」です。上らなければ意味がない。実践する。実行可能にする。議論を経てブラッシュアップする。その姿勢がないと、U字谷の底で沈んだまま、化石になるでしょう。
5、アーティスとシンクロ
いかがでしたでしょうか?
この記事では、U理論について考えてみました。
アイディアに悩んでいる方、過去から続くしがらみを打ち破れない方、発明家の方、このU理論を自分なりに解釈して援用してみては?
本当はこの記事、「沈んでから上昇する」というイメージから、シンクロナイズドスイミング、今の呼び方で言うと「アーティスティックスイミング」をテーマに書こうと思ったのですが、あまり詳しくないのでやめました↓。
ちなみにトプ画は「鯉群のゴカ」という、茨城県市町村擬人化×ゲームブック「イバーランドの県道」に出てくる、アーティス部のキャラのイラストです(宣伝)↓。
新しい発想のためには、自分の内面と「シンクロ」させることが大事かもしれませんね。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
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