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焼き物の里「益子」に行った時のことです。
私は駅近くの細い小路を入って、
あるお店に向かっていました。

某有名北関東芸人さんが、
ここのラーメン屋さんを
お勧めしていたのを目にしていたから。

そのお店の名前は「大功」(だいこう)
本記事では、このお店での出来事を
書いてみましょう。

「芸人さんがお勧めするからには
さぞや行列もできる人気店に
違いなかろう。小さな店と聞く。
正午近くのランチタイムど真ん中では
いつ食べられるのか、分からない。
よし、ここはあえての時間ずらしで
14時くらいに…」

私の作戦は、功を奏しました。
行列は、見えなかった。

「よし、では早速、入店を…。
って、こ、このお店、なの?!」

ええ、そこには、何と言いましょうか、
良く言えば「趣のある建物」
言葉を変えれば古めかしい建物が
建っていたのです。

たぶん、事前情報を得ていなければ
スルーしてしまうようなお店。
ここで、美味しいラーメンが…?

しかしせっかく来たのです。
意を決して、入ってみます。

非常に、小ぢんまりとしたお店でした。
四人がけのテーブルが、三卓。
あとはカウンター席が、少し。

私は「肉みそラーメン」が美味しい
という情報を得ていましたので、
それを頼もうとした。
何となく炒飯も
食べたかった気分でしたので、
「炒飯セット」を頼みました、しかし、

「…炒飯セットで、いいですか?
醤油なんですけど

お店のおじさんが穏やかに
確認をしてきてくれたのです。

よくよく見るとその張り紙の隣に
「肉みそセット」の張り紙もあった。
これは、肉みそラーメンと、炒飯。
なるほど、肉みそアンド炒飯も
食べたい人は、これを頼むんだな。
初訪問のお店らしいしくじり…。

「では、肉みそセットでお願いします」

おじさんは一つうなずくと、
中華鍋へと向き合いました。
私は注文を無事に終えてほっと一息、
あたりを見渡してみます。

某有名北関東芸人さんの
メッセージが、レジのあたりに
さりげなく貼ってある。
「みんな、このお店の
『肉みそ』を食べて下さい」
的な
そんな言葉が書いてありました。

料理を待つ間、私はぼんやりと考える。

「…おそらく、おじさんは
『この人、見かけない顔だ。
常連ではないな。初見?
たぶん、肉みそを食べたいんだろうけど
炒飯セットだと醤油ラーメンに
なってしまうんだよな…。いいのかな…。
よし、確認してみようか』と
思って、声掛けしてくれたんだろう」

…何気ないやり取りの中に、
おじさんの素朴で自然な気配り
あったように感じたのです。

食券制では、こうはいかない、ですよね。

基本、出てきた券のオーダーを
お店はそのまま通すだけです。
特に、お客さんをとにかく回転させる
大規模店であれば、
流れを止めないことが多い。
そのまま「炒飯セットですね!」と言って
醤油ラーメンを出すことでしょう。

声掛けと、やり取り。

決して、Tシャツを統一しているような
イケイケな今風ラーメン屋的に、
「ラッシャイマセー!」
「アラッシター!」

あたかも威嚇するような感じで
とにかく大声で
お客さんに声をかければいい、
というものではないのです。

声掛けは、マニュアルではない。
コミュニケーション、なのですから。


私は、ラーメンを食べる前から少し
心が温かくなった気がした。
…このお店は、温かかった。

ほどなく、おばさんが登場して
私の肉みそセットを
運んできてくれました。

「ほう、これが、肉みそ…?」

心の中でつぶやきます。
いわゆるチャーシューではありません。
小さめのお肉がスープの上、
そこかしこに浮かんでいました。

半炒飯は、小皿に、ぱらぱら。
サラダ皿もついているのが嬉しい。

そのサラダにはバナナの切り身が
ちょこんと乗っていました。

うん、わかっているな、と思いました。

…ラーメン、炒飯、とくれば
どうしても舌が塩っ辛くなるものです。
一口でもいい、甘みが欲しいんです。
そこにさりげなく、バナナ。
サラダに紛らわして、一切れ。
いい。このバランス…!

肉みそラーメンの味は、予想に反して、
見た目よりあっさりとしていました。
ガツンと行きたい人には
「辛味」「にんにく」も追加できるそうです。
ゆえに、デフォルト、初期設定のベースは
少しあっさりめにされているのでしょう。

そこが良かった。もたれない。
飽きない。普段使いにできる味…!


レンゲが二つついていたのも、
ポイントが高かった。
最初、なんでだろう、と思ったんですが、
一つはふつうのレンゲで、
もう一つは「穴の開いた」レンゲでした。
そう、スープに浮かんだお肉を余さず、
スープを入れずにすくう用のレンゲ!

「お客さんのことをしっかりと考えないと
バナナ、二つのレンゲ、こういうところに
思い至らないよな…」

私は食べながら、そう思った。
さりげない気遣いが、このお店にはある。

14時過ぎ、ピークは越えた時間でした。
しかし、お客さんはうまく時間差で、
順次、からりと戸を開けて入ってきます。

子ども連れとおぼしきお客さんは、
お店のおばさんに、何かを
プレゼントしていました。
「あら、嬉しい。ありがとう。
冷蔵庫に貼っちゃうわね!」

どうやら子どもが自分で作った紙のお札。

彼女連れの若い男の人には、すかさず、
「あら、彼女さん、できたの?
いいわね~。よろしくね!」

と、おばさんがご挨拶していました。

テーブルが空くのを待っていた
お客さんは、おばさんに声を掛けていた。
「片づけるのを、お手伝いしましょうか?」

この狭い店内で、
ほんの少しだけの滞在時間の間で、
私は肉みそだけでなく
様々な気遣いとコミュニケーションの
空気も味わうことができた
のです。

お店とお客さん双方が、
大事にしている空間。
気が付くと店の外には
次のお客さんが待っていた。
お腹も心も温かく、
私はお店を後にしました。

益子のソウルフードの一つ、大功。肉みそ。

もし皆様も益子に行くことがあれば、
寄ってみてはいかがでしょう?
(通し営業のようですので、お昼の
ピークの時間は外すと良い、と思います)

※北関東の芸人さんの「大功」紹介動画

合わせてぜひどうぞ!

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