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「毛皮」が国を広げた、というお話。

毛皮って、冬に着ると温かいあれです。
もふもふして、ふさふさして、
まあ、ぬくぬくとしますよね。

人間は体毛が進化の過程で
少なくなってしまったので
「服を着る生き物」になりましたが、

その「服」の素材として
他の生き物の毛皮を使うことは、
太古の昔からやっていました。
原始人などのイメージ画像では
よく「毛皮の服」を着ていますよね。
「狩猟」をして、肉をゲットした後、
食べられない部分を利活用するのは
理にかなっているところではあります。

時代が進み、服の素材が増えてきても、
依然として「毛皮」は服に使われました。
現在でも「最高級の毛皮の服」は
高値で取引されますよね。


…なぜか?

一言で言えば「なかなか採れないから」。
「毛織物」「絹」などとは少し違う。
羊の毛を刈った「羊毛」や
蚕の繭から取る「絹糸」とは異なる。
もちろん、植物由来の
「麻」や「綿織物」とも違います。

「毛皮」ですから、毛と「皮」です。
一頭に対して、一頭分しか採れない。
羊毛のように、同じ一頭から
繰り返し採れるわけではない。
特に珍しい動物の毛皮は
希少価値が高い。高く売れる。
だからこそ皆、獲ったんです。

特に昔は、需要の求めるままに
「乱獲」したという歴史があります。
その結果、数が少なくなり
「絶滅の危険性のある動物」にもなった。
今では、こういう
希少な動物を毛皮を取るために
捕まえることは禁止されたりしています。

動物愛護の観点からも、問題がある。
今ではナイロンなどの素材もある。
…ですが、動物愛護の精神もナイロンも
発達していなかった近世、近代には、
「毛皮」が歴史を動かしていたんです。

すみません、前置きが長くなりました。
本記事は「毛皮が動かした歴史」について。

世界地図を思い浮かべて下さい。
「広い国」と言えばどこでしょう?
ロシア? カナダ? 中国? アメリカ?

…ロシアやカナダのような
寒い地域で活動するためには、
「温かい服」が必要ですよね?
他の生き物だって、そうです。
寒い地域の生き物は、凍えないために
もふもふの毛を持っていることが多い。
要は、毛皮は、寒い地域でよく採れる。

例えば、テン(貂)という生き物がいます。

イタチ科の生き物です。この毛皮がいい。
最高級品として、高く売れます。
「テン獲りは二人で行くな」という
ことわざが猟師の間にあるくらいです。
高値がつくために、仲間割れをして、
一方が一方を亡き者にしてでも
独り占めしたくなる、という意味。

12世紀、日本で言えば平安時代末期の頃、
「ノヴゴロド公国」という国が
現在のロシアの西のあたりにできます。

この国は、シベリアに住む民族たちと交易、
動物の毛皮をたくさん得て、
それを西欧に売りつけて栄えていました。
…シベリア、寒いですからね。
野生動物の毛皮がよく採れる。
その中でも特に「黒テン」の毛皮は
最高級品として高く売れていた。


16~18世紀、日本で言えば
戦国時代から江戸時代になると、
この地方では
「ロシア帝国」が強くなっていきます。
どんどん東のシベリア方面に進んで
領土を拡大していく。
先頭に立ったのはコサックと呼ばれる
勇猛な冒険者兼兵士たち。

…黒テンをはじめ、北極キツネ、
大ヤマネコ、ラッコ、オットセイ!
人の手が入っていなかったシベリアは
「野生動物の宝庫」だったんです。
彼らは東に突き進み、カムチャッカ、千島列島、
果てはアラスカにまで到達していきます。

有名な「ベーリング海峡」
ベーリングも、この頃の探検家。
1728年、海峡を通過して名前がつけられた。

1800年頃には「露米会社」という会社が
アラスカのあたりに作られます。
主に、毛皮貿易を行う会社です。
作ったのは「レザノフ」という人。
ただ、寒い地域ですから、食糧が少ない。
レザノフは近くの国と貿易をして
会社を維持しようとします。

日本です。

しかし当時の日本は、いわゆる「鎖国」中。
レザノフは長崎に行きましたが
すげなくあしらわれ、不調に終わる。
今度は南東、カルフォルニアを支配していた
スペインに交渉しに行きましたが、
途中で死亡してしまいました。

そんなこんながあって、
この「露米会社」はうまくいきません。
折りしも、東のほうから
新しい勢力が台頭してきた。

アメリカ合衆国です。

1776年に独立したこの国は、
フロンティアを開拓するべく
どんどん西に進んできていた。
(1890年には西海岸に到達)

「…ロシアの首都から離れているし、
毛皮貿易は難しくなってきたし、
イギリスが攻めてきたら守れないし、
アメリカも強くなってきているし、
アラスカ、いらないんじゃね?

こう考えたロシアによってアラスカは、
1867年にアメリカに「売却」されます。
「巨大な保冷庫(のような使えない土地)を
税金で購入した! 無駄遣いでは?」と、当時の
アメリカの国務長官が批判されたりしています。

一方、北アメリカの地ではロシアと同様、
16~18世紀にかけて
「ビーバー」の毛皮を採ることが
さかんに行われていました。

ビーバーの毛皮は肌触りがよく耐久性がいい。
耐水性もある。川を泳ぐ動物ですから。

そう、帽子の素材に使われたんです。
「大英帝国」として栄えていく
イギリスの紳士がかぶる帽子。
ご存知、シルクハット。
絹(シルク)が使われる以前は
ビーバーの毛皮が使われており
「ビーバーハット」とも呼ばれていました。

カナダの前身、フランス植民地である
「ヌーベルフランス」や、
イギリスの植民地となった「カナダ」
ビーバーの毛皮はこの地域に
莫大な富をもたらす看板商品だったのです。
(現在のカナダのケベック州の
大都市、モントリオールが
「北米のパリ」と言われて栄えたのも、
この毛皮貿易によります)

商人たちは、ビーバーを捕獲できる
先住民たちから毛皮を買い付けるために、
川をさかのぼって内陸へと進んでいく…。
次々に、川沿いに交易所を設けていく。
こうしてできた交易所の多くが、
現在のカナダの都市になっています。

「毛皮貿易」がもたらす富がなければ、
ロシアもカナダも、現在のような
広大な国土は持っていなかったでしょう。


最後に、まとめます。

本記事では「毛皮」を求めて
ロシアやカナダが拡大していった…
という話を書いてみました。

ただし毛皮のための「乱獲」により、
多くの動物が絶滅の危機に瀕してしまった、
ということも忘れてはいけない。

20世紀に入ると、
自然保護、動物愛護の運動が盛んになります。
カナダの5セント硬貨には、
「国獣」のビーバーが描かれている。

カナダのファッションブランドの一つ、
「カナダグース」も、2022年内に毛皮製品の
製造をやめることを発表しています。

いま、ファッション業界で進んでいる
「ファーフリー(脱毛皮)」の動き…。

その背景には「毛皮」によって
突き動かされてきた世界史があるのです。

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