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「新春の影を踏み踏み、夫ゆく」ヒスイのシロクマ文芸部♡

「新しい服って好きじゃねえんだよなー。何か、体にフィットしないっつうかさ。古いもんの良さ、ってのがあるだろが」

新年、いちにちめ。
どしょっぱつから夫は機嫌が悪い。
私が新しい下着一式を用意したからだ。

もちろんこっちも、元気に言い返す。

「新年だから、下着くらい新しくするもんなの」
「メンドクセー」
「新品だよ。心がパリッとするでしょ」
「メンドクセー」
「元旦は箸も新品、おせちも新品。餅だって新品だよ」
「新品の餅ってなんだよ。あー、メンドクセー、餅やこう。おまえ、いくつ食う?」
「三つ」
「食いすぎだろ。俺は四つにしよう」

餅を食べ、おせちを食べてから、初もうでに出かけた。
私は新年の晴れやかな空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
すがすがしい。
元旦って、どうして日光や影まで清々しく見えるんだろう。

ごきげんな私の隣で、ヤツがぼやく。

「あー、歩きにくい。新しいもんって嫌いだ―!」

私はいっそ笑ってやる。

「おバカだねー。下着以外は全部新しくないじゃん。気にしすぎです」
「おバカはそっちだ。正月って言うだけで、何でもかんでも『新しいものがいい』とか言うなよ――みてろ、十年後を」
「はあ?」

立ち止まり、夫を見る。新品の下着の中で、大きすぎる体がぎくしゃくと動いていた。

「十年も経ちゃ、ぜんぶが新しくねえんだよ。俺も、おまえもな」
「うわ、ホントだ。でもそれも、悪くないね」
「だから言ったろ、新しくねえもんにこそ、価値があるって」

夫はニヤリと笑い、新春の影を踏み踏み、行ってしまった。
私は彼の影を追って、まだ誰も歩いていないみたいに見える新品の道を歩き出した。

新しいもの、古いもの。
どっちもだいじなもの。

初めてのお正月です。
おめでとう。


【了】(約700字)

本日は 小牧幸助さんの#シロクマ文芸部 に参加しています。

新しいって、すてき。
でも古いものも、それなりに味が出るよね(笑)


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ヘッダーは はそやḿさまよりお借りしております。

ヒスイは元気です。

ゆっくりと書く時間を増やしていきたいです。
みなさま、ご心配いただき、誠にありがとうございます💛


ちなみに、本日のタイトルは俳句にもなっております(笑)
「新春の影を踏み踏み、夫ゆく」ヒスイ

いつだって、一粒で二度おいしい作品を目指しておりますのよ(笑)!

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