「着の身着のまま・ネクストステージ!」ヒスイの毎週ショートショートnote
おれは最新鋭ゲーム機だ。オンライン+オフラインで使える410種のゲームを搭載し、パワー源は太陽光発電。つまり電波の通じないアマゾン奥地でも遊べるんだ。
まさに最新鋭―――ただし『かつて』の。
いま、おれは体育館の道具部屋に放り込まれている。来週のバザーで投げ売りされるためだ。全身のゴールドコーティングははがれて、ぼろぼろ。みじめな凋落…。
いっそ、自分でメモリを壊してしまおうか…そう思った時、ダガガガーン! という轟音。
大地震だ、たいへんだ!!
その日から、体育館は避難民で大混雑。おれは道具部屋のすみで転がっていた。まあ、状況は変わらないか……。
数日後、ひとりの子どもが道具部屋に入ってきた。座り込む。
なき声がする…つらい。
だがおれに何ができる? 大昔の最新鋭ゲーム機に。
……ゲーム機。そうだ、おれはゲーム機だ!
見あげれば、太陽がゴールドコーティングににぶく反射していた。キラッ、キラキラッ。
気づけ少年、光れ、おれ!
少年が俺を見る。手に取る。
ブーンと俺は勝手に起動して見せた。着の身着のままの手が俺をつかむ。
どうじに、太陽光発電シートが働きだす。
ディスプレイに初期画面がでる。
『ようこそ、次の世界へ』
ゲームが始まる。軽やかな音と画面、シャープな動き。おれと少年は、次の世界へ駆け上がった。
やがてオフラインでも遊べる410種のゲームは体育館じゅうの子どもたちの手に渡った。
避難生活の2か月間、おれは一時も休まずに遊びつづけた。
そしていま。
おれは金色のコーティングがはがれたまま、静かに道具箱のすみで眠っている。
……声が聞こえる。
「お父さん、これ、なに?」
「ん? ゲーム機だよ。大昔のね」
「ふうーん」
子どもがつまらなさそうにつぶやく。
父親の笑いを含んだ声が聞こえた。なつかしい、懐かしい声だ。
「バカにするなよ、コイツは父さんの親友だぞ」
大昔の少年の手が、起動ボタンを押す。ブーンという低い音がして、太陽光が俺をゆっくりと充電しはじめる。
「ほら、大事に使えよ」
かつての最新鋭は、父のから息子の手へ運ばれる。
そして俺は、次の世界へ飛び上がっていった。
ぶうううーん。
【了】(約870字)
本日は、毎週ショートショートnoteに参加しているのですが
字数を大幅に超えちゃってます。
ですが、お話の性質上、削りたくなかったので
このまま出します。
いまも困難と闘っている、すべてのこどもに
無制限の楽しみがもどりますように。
ウクライナ、ガザ、ソマリア、コンゴ、エチオピア、シリア、サヘル地域、ハイチの空が晴れますように。
相方ヘイちゃんは、これです。
ウィットがきいてて、ヒスイはだいぶ好きですね!
なおなお、12月に入ったので、ヘイちゃんの毎週ショートショートnoteはお休みに入ります。
恒例のクリスマスショートショートの連載が始まってますよー!
ヒスイも12月は、毎週ショートショートnoteのお題で
少し長いものにチャレンジしていく予定デス。
字数制限をとっぱらってみますねー!
では。明日はシロクマ文芸部♡ またお会いしましょう。
ヘッダーはUnsplashのDottie Di Liddoが撮影
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