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コペルニクスとあなたの大学

こんにちは、“鳩(はと)”といいます。
予備校で「世界史」を教えています。
みなさんは予備校ってご存知ですか?
大学に行きたい生徒がかよう学校のことです。
合格するための知識や学習のコツを生徒に伝えています。
それがぼくの仕事です。

いま小学生のみなさんは卒業すると中学校に入り、中学を卒業すれば高校へ進学します。
日本ではほとんどの生徒が高校に入学します。

さらに学び続けたい人は大学へすすみます。
多くの大学では入学試験があるのです。
この試験の準備をするのが予備校ですね。
現在の日本では大学進学率が58.1%(2019年)であり、6割弱の人々が大学で学ぶことを選んでいます。

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「大学」の歴史はとても古くて、今から1000年ほど前のヨーロッパがそのおおもとです。
おそろしく昔の話で、ちょっと想像ができませんね。
ぼくはいま35才ですが、これを30回ほどくり返せば1000年になります。
うーん、そう考えるとそんなに昔でもないのか。

当時のヨーロッパでは社会のしくみが少しずつできあがっていて、みんなの生活を守るために、ルールを決める必要がありました。
「法律」です。
そのころはきちんとした法律がなかったのです。

じつのところ、この時代からさらに1000年前のヨーロッパ、ローマ帝国(ていこく)のひとびとはそれはていねいに法律を作っていました。
今からさかのぼること2000年も昔の話です
ローマ帝国はひろい領土でしっかり政治を行えるように、たくさんのルールを定めました。
「ローマ法体系」といいます。
日本の法律にもローマ法の考え方が取り入れられているのですよ。

年号1

歴史には調子に“うきしずみ”があります。
ローマ帝国がほろんでしまうと、ヨーロッパの調子はいまひとつになり、ひとびとはローマの法律をほとんど忘れてしまいました
法律をなくした中世ヨーロッパでは、つよいものが勝手に自分のルールをふりかざして、暴力で民衆を支配します。
ひとびとが安全に暮らしていけない時代であったのです。

1000年頃には気候があたたかくなり、穀物や野菜がいっぱい採れるようになりました。
あまった農作物が市場で売られると、商業が発達します。
ひとの活動はひろがり、人口は増え、国家のかたちが定まってゆきました。
国の役人がきちんと税金を集め、それを運用して政治を行うには、どうしてもルールが必要になります。
法律を学びたいと考える人が増えるのも当然のなりゆきですね。

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遠い昔に作られたローマの法律は、ヨーロッパの東方、イスラーム世界できちんと保存されていました。
とても幸運なことでした。
商業活動のひろがりで東方とのかかわりが多くなると、さまざまな知識がヨーロッパにもたらされます。
もちろんローマ法の知識もやってきました。

イタリアには、古代ローマの法律を研究する学者が何人もおりました。
「学者の弟子になって法律を教えてもらおう」と各地から学生が集まりはじめます。
そうしてヨーロッパ最古の大学が、ボローニャという街に設立されました。
1088年のこととされています。
大学は、学びを欲する学生たちによってはじめられたのです。

イタリアとボローニャ

そうやって成立した大学であったから、ボローニャ大学は教室や講堂を持ちませんでした。
学校の建物がないのです。
ぼくらの感覚では、とっても不思議な話ですよね。
生徒たちは学者の家に集まり、講義を受けました。
教師は生徒から直接授業料を受け取ります。
そして、教師の授業がつまらなければ、生徒たちはその人をクビにして新しい教師を探しました。
現代の日本ではおよそ考えられないシステムです。

みなさんは学校の先生に受講料をはらったことはありますか。
先生をやめさせたことはありますか。
そんなことありえないですよね。

でも考えてみると、「学びたい」と願う気持ちが大学を作らせたのですから、それだけの教師にきちんと見合うお金(対価)をはらうのはむしろ健全な考えではないでしょうか。
学生が主体となって大学を形づくったのです。

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ボローニャ大学は中世ヨーロッパの最高学府となりました。
法学だけでなく医学や天文学でも上質な授業を受けることができました。
すぐれた学生がヨーロッパ各地から集まったことは言うまでもありません。
ボローニャで学業を修めた学生の中にはコペルニクスがいました。

“地動説”を唱えた人物です。

コペルニクスは1500年代前半に活やくした学者ですが、この頃はまだ“天動説”が信じられていました。
天動説は「太陽や星たちは、地球のまわりを回っている」と考えます。
みなさんは「太陽の周りを地球が回っていて(公転)、昼と夜があるのは地球が自分でくるくる回っている(自転)からだ」と習いましたね。
これが地動説です。
けれど、当時はキリスト教が信こうの中心です。
キリスト教会が「天動説は正しい」と決めたので、みな天動説がたしかな理論だと考えていたワケですね。

天動説と地動説

コペルニクスはポーランドのトルンという街で生まれました。
父をはやくに亡くしたのだけれど、親がわりのおじさんがコペルニクスを聖職者にすべく、きちんと学問を修めさせてくれました。
かれはポーランドのクラクフ大学で基本的な教養(リベラルアーツといいます)を身につけました。

コペルニクスは聖職者に必要な“法学”を修得するため、ボローニャ大学へ留学を決意します。
天文学ではなく法学を習ったのです。
法学から論理的な思考法を学びました。
このルールにしたがうとこうなる、でもこういう場合はどうなのかな、こっちのルールで納得がいくのかな。
ものを考える道筋は、法学でも天文学でもあまり変わりません
また、かれは法学を修めるかたわら、天文学や数学なども先生について学びました。
いろいろなものの見方を習ったのです。
学生がみずからすすんで学ぶボローニャ大学の自由なふんいきは、かれの好奇心をかりたてたことでしょう。

ボローニャ大学を卒業すると、今度はパドヴァ大学で医学を修めます。
イタリアでの留学を終えたコペルニクスはポーランドに帰国し、聖職者・医者として仕えました。

イタリアとポーランド

故郷で仕事にはげむコペルニクスは、ヒマを見つけては星の動きを観察しました。
何年か観測を続けると、あることに気がつきます。
それまで信じられていた天動説では、星の動きが説明できないのです。

なぜ、正しいとされる理論があわないのだろう。

そこでコペルニクスはさらに研究をすすめ、ついに「地球の自転」にたどりつきました。
これは大変です。
なぜなら、当時はまだキリスト教会が支配する社会であったため、地動説が正しいとなったらみんな混乱してしまうに違いないからです。
教会の人たちだってきっと困るでしょう。
コペルニクスに腹を立てる人だっているかもしれない。

「コペルニクスが勇ましくも地動説を発表し、地球観の変容につながった!」
よく語られるこの話、事実と少しずれています。

コペルニクスは地動説の発表に反対でした。

第一に、社会が混乱するであろうこと。
天動説が当然であると考える世界で、地球観をゆるがすややこしい説を提唱すればどうなるか、かれは百も承知でした。
第二に、コペルニクスは新説の論文に納得がいかなかったこと。
かれは自分の論説にけっこう穴があると感じていて、ここの表現はまずいな、ここの裏付けが足りないな、と論文にずっと手を加えつづけていたのです。

コペルニクスは決してひとりよがりにならず、全体をみてモノゴトを考えながら、研究には常にきびしい態度でのぞみました。

その後、ただひとりの弟子レティクスが地動説を必ず世に出すべきだと、発表に向けて動いたため、ついにかれの論文が出版に至ります。
コペルニクスは序文に以下の文を付して、出版を許可しました。

私の論考を世に出すべきかどうか長らく迷っておりました。

この一文に、かれの生き方が表れているのでしょう。
”大学”での学問を通していろんな角度からモノゴトを判断するチカラ、そしてひたむきな研究姿勢をみがいたのです。

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みなさん、いかがですか。
大学で学びたくなりましたか。
これまでお話ししてきたように、大学は学びたいひとびとが集まってできたものです。
ですから、今ここで”あなたの大学”を作ってみたらいかがでしょうか。
あなただけの大学です。
そんな学校、あったらステキではないですか。

友達を何人か連れてきてもいいでしょう。
家族をまきこむの面白い。
なんなら、あなた一人でも全然かまいません。
「学びたい」が原動力の大学です。

大学に名前をつけてみましょう。

ぼくなら”鳩大学”です。
自分の名前を使ってみたらどうですか。

まず、身のまわりの「なぜ?」をできるだけたくさん探してください。
それが出発点です。
コペルニクスの地動説も「なぜ?」からはじまりました。
「なぜ?」を見つけたらすぐにメモしておいてください。
たくさんの「なぜ?」が集まったら、一番気になるものを1つ選んでみましょう。

次は調べる番です。
知識を集めます。
図書館に行って本を探しましょう。
図書館の人に調べたい本があるか聞いてみましょう。
たくさん本を読んでください。
また、「なぜ?」とかかわる場所、工場や動物園など何でもいいですが、そこに問い合わせて、できれば足を運んでみてください。
幸い“あなたの大学”はどこへだって移動できるのです。

知識をまとめてみましょう。
「なぜ?」の内容をもとに、学んだことを順番に並べてみてください。
全体を見て「ここは書こう、ここはもっと説明しよう、ここは要らないな」とおおよその目安を立てます。
難しければ、まわりの人に相談してみてくださいね。

そして、成果を発表しましょう。
夏休みや冬休みの課題にだすとか、コンテストに参加するとか、またはネット上で公開するのもよいですね。
ぜひ、noteにアップしてみてください。
かならず読みます。

“あなたの大学”、楽しみにしています。

コペルニクス


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