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【戦略】今日的な戦略と、破壊的なイノベーションへのアプローチ

戦略とはなんでしょうか?

あまり言葉遊びをしても仕方がないのですが、実は戦略という言葉の定義は、そこまでしっかりとは固まっていません。個人的には、それだけ、いろいろな含意があるからだとも理解しています。

元々は、「戦争に勝つために、戦場において巨視的な視点で、自軍の資源(兵、武器、糧食など)をどう配し、また作戦計画をたて、遂行していくかという方策」であったのではないかと理解しています。

私も含めてビジネスマンであれば、我々はビジネス上の経営戦略を単に戦略と呼び、その構成要素として各領域での戦略を例えばIT戦略、人事戦略などと使ったりします。

では、普段我々がビジネスで使っている戦略がどういう裏付けにより語られてきたかというと、20世紀から21世紀初頭ぐらいまででいえば、ほぼ競争戦略だったのではないかと思います。マイケル・ポーターを代表として体系化された理論で、どう競合と差別化し、それにより勝っていくのかという視点です。

それが20世紀後半にWindows95が登場して以降、競争戦略が適用できる範囲はどんどん狭まってきています。その要因は破壊的イノベーションの相次ぐ勃興によるものです。破壊的イノベーションは、漸進的な持続的イノベーションを前提とした企業の競争戦略を無力化します。

そこで、現在から未来において、より重視されるようになってきているのが、イノベーションを生むための戦略です。

競争戦略にしろイノベーションを生むための戦略にしろ、ビジネスにおいて戦争における戦略と大きく違うところは、競合(敵軍)に加えて、その勝敗を決める要素として顧客がいるということです。つまり、どれだけ質の高い顧客を多く取りこむことができるかが、一義的な企業の勝ちにつながるわけです。

一義的といったのは、企業の目的はビジネスにおいて利益を一時的にあげることだけではないからです。その話は、また別途します。

これらの理解をもとに、我々が使っている戦略という言葉については、「企業が質の高い顧客をより多く取り込むために、巨視的(マーケット大)な視点で自社の資源(人、モノ・サービス、金など)をどう配置し、また遂行における方針をどう立てるかの中長期的な計画」とここでは定義させていただきます。

提供価値をイノベーションによってどう創出するのか

戦略を定義したところで、質の高い顧客をより多く取り込むために必要な企業側からのアプローチとして、最重要なものは商品・サービスの提供価値向上です。

その提供価値を生むのは自社の資源ですが、これは今まで「人、モノ、金」と言われてきました。しかし、これからはそれらの要素だけではなく、「デジタルテクノロジー」そして「インサイト(データ)」が企業にとっての重要な資源となります。

こちらを、私は以下の図のようなイメージでとらえています。

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将来にわたっての提供価値は、人とデジタルテクノロジーとインサイトの掛け算から創出される現代型のイノベーションと、既存価値の和によって決まるのではないかと考えています。

ここでは持続的なイノベーションも想定し、既存価値との和としましたが、破壊的なイノベーションであれば、既存価値はゼロなんだろうと思います。また、このイノベーションは破壊的なイノベーションだった場合には、別の提供価値を破壊することがあります。

破壊的イノベーションとイノベーションのジレンマ

ここで破壊的イノベーションについて説明をしておこうと思います。破壊的イノベーション(Disruptive Innovation)とは、発明や技術革新によるブレークスルーのことではありません。

1995年にクレイトン・クリステンセン(1952 - 2020)によって紹介された概念で、初期においては製品の性能で既存製品より劣っていることが多いものの、新しい価値基準のもとで優れた特徴を持つ製品を生み出すイノベーションのことです。

この性質を説明するために、「イノベーションのジレンマ(1997)」という著書から、今まで数えきれないくらい紹介されてきた以下の図を参照します。

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(図1 - 「イノベーションのジレンマ」より)

例えばメインフレームからオフィスコンピュータ(オフコン)、パーソナルコンピュータ(パソコン)、ラップトップ、そしてタブレット、スマートフォンという一連の変遷があります。

メインフレームはマーケット規模を縮小しながら比較的最近まで生き残りましたが、オフコンはパソコンの性能向上により駆逐され、タブレット、スマートフォンが伸張するとパソコンのマーケットも大きく縮小しました。

それぞれ先行プロダクトはより高価で、限られたマーケットで受け入れられていたものです。一方後続のプロダクトはより安価で、当初は限られた顧客にのみ受け入れらるところから始まりますが、潜在マーケットとしてはより裾野の広い顧客層をターゲットにしています。

イノベーションのジレンマとは、以前の市場で勝ってきたパイオニアといわれる企業が、より高い収益を期待できる製品を優良顧客に対して売っているときに、多くの場合より利幅の薄い破壊的なイノベーションの台頭に直面したときに陥るジレンマです。

図1で先行プロダクトを扱うパイオニア企業は、ハイエンドの顧客の声を聴き、その性能を向上させていきます。そして、あるタイミングで、その性能はハイエンドの顧客のニーズすら追い越します。

そこに破壊的なイノベーションによる後続のプロダクトが、最初は限られたマーケットでのみ受け入れられていたところから、あるタイミングでローエンドの顧客のニーズを追い越し、ほとんどの人が「これだけの機能があれば十分」と感じるタイミングで、ハイエンドの顧客のニーズに対応してきた先行プロダクトにとって代わります。

そして先行のパイオニア企業は破壊的なイノベーションに多くの場合は対応できません。その理由としては以下の通りです。

・従来マーケットの優良顧客の声を聴いても、新たな顧客需要はつかめない
・破壊的イノベーションによるプロダクトは、当初は収益性が低いため、投資を正当化することが難しい
・組織や人材が、既存事業のために最適化されており、それが新しい事業を行う際の足かせとなる

組織の面から、イノベーションのジレンマに対するアプローチ

前回のnoteでイノベーションのジレンマに対して、一定の解決策を示しているものが両利きの経営で、それを実践するためには企業のダイナミック・ケイパビリティという適応し続ける能力が必要で、そのキーになるのが戦略人事だと書きました。

両利きの経営は、既存の中核事業でオペレーションやプロセスなどを磨き上げる「知の深化」と、イノベーションを生み新たな事業を生み、育てるための「知の探索」を、あたかも両利きのように同時に行うという経営理論です。

前回は人からアプローチをしましたが、組織から考えたときに、「イノベーションのジレンマ」においてクリステンセン氏は、新規事業を既存のコア事業からスピンオフさせることを勧めていました。一方で、両利きの経営では、同じ企業の中で企業リソースを共有しながら、「知の探索」と「知の深化」両方を行うことを求めています。

「両利きの経営」では少し前のIBMの組織を例に挙げていましたが、イメージとしては以下図2のような形かと思います。

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(図2)

ここでポイントは大きく二つで、一つは探索組織も同じ企業内に残すことで、コア事業が生んできた企業リソースへのアクセスを可能にすること。もう一つは探索組織を既存の事業本部配下に置かずに、CEO直轄として分離することです。(IBMの例では探索組織がある程度のビジネスに成長したところで、コア事業と並列にしていた)

探索組織が成熟事業による既存の資産と組織能力を有効活用することが、探索組織を同じ企業内に残す理由として書かれています。

ただし、同時に探索組織は実験的に事業を取り組む側面も強いため、既存事業よりは確実性が低く、同じようなKPIで図ることは難しいということがあります。例えば利益率のような財務指標は初期の段階では、新規顧客数や顧客維持の追跡などの指標ほど役には立ちません。

また、既存の事業本部に探索組織を置いた場合、例えば図2でいう事業本部長は自身のP/Lを優先するため、探索組織よりは高収益な既存コア事業を優先することでしょう。

そのため、企業内で組織を分けて、探索組織をCEO直下に置くのです。

破壊的イノベーションの発生頻度、サイクルが短くなっている

前段で破壊的イノベーションの発生頻度、サイクルが短くなっていることを述べましたが、それは社会の変化のペースが速くなっているためです。

Windows95の登場で多くの人がパソコンからインターネットにアクセスできるようになって以降、あっという間に携帯電話、スマートフォン、そしてAIの実用化と、いままでの全世代の技術変革よりも早く進行しているといわれています。

数年前までメディアで脚光を浴びていた優良企業が、今では存続の危機に立たされているというような話は、今日では珍しくなくなりました。言い換えれば経営者にとって、新しい世界に適応するために手を打つための判断の猶予期間は、多くの場合はほんの数年しかありません。それも数年で生まれ変わることに成功しても、また新たな破壊の波がやってきます。

繰り返す破壊の波に対応するために、戦略策定と実行を一体化する

戦略策定と対になるのは実行で、リーダーシップは戦略策定とそれに伴う変革を扱い、マネジメントがその実行に責任を持ちます

クリステンセン氏がイノベーションのジレンマで薦めていた、新規事業をスピンオフさせることと、両利きの経営での企業内に同居させることの違いを考えました。なお、クリステンセン氏も後に自説を修正し、両利きの経営のアプローチに同意していたことは有名な話です。

私は「既存の資産と組織能力を、新規事業でも有効活用する」ということ以上に、「戦略と実行の一体化」こそが両利きの経営による最大のメリットなのではないかと考えるようになりました。

「戦略と実行の一体化」により何が起こるかというと、組織が実験する組織になります。また実行部隊が戦略を理解することで自発性を持つようになり、スピードと柔軟性を推進する文化に企業が変わっていくということです。

また、その組織の中で、優れた経営者は優れたリーダーであると同時に、優れたマネージャでもあるべきということなのだと理解しています。

破壊的なイノベーションを乗り越えるカギは、探索と深化を同時に行うときに生じる葛藤を、企業の進むべき方向性を示すことと、それを組織内のメンバーにストーリーとして語り納得につなげるリーダーシップのように思います。

また、そのリーダーシップは、破壊的変化を追求し続ける勇気であり、永続的な企業の存続のために、もしかしたら自分の退任後に花開く取り組みに対して、根気強く向き合い続ける根気でもあるのかもしれません。

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