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【IT】SAP? Oracle? ERPとは何かを説明してみた

企業にお勤めでERPとは何かを「聞いたことはあるけど何か分からない」とか、就職活動を控えている学生の方で「総合/IT系のコンサルファームでERP部門があるが、ERPって何だろう・・」という方でも参考になるようにと思い書いている記事です。

また、ERPのことは知っていて、実際に使っていたり、導入を検討されている企業の方や、ERPコンサル・エンジニアが読む読み物としては、基礎的なところに終始はしますが、プロでも整理できていないところもあると思いますので、共通理解を作る上も参考にしていただければと思います。

ERPの歴史

ERPとはEnterprise Resource Planningの略で、用語としては1990年代にガートナーのレポートで使用されたのが最初と言われています。

その源流は1960年代まで遡ることができ、MRP(Material Requirement Planning)といわれるソリューションとして、製造、購買及び出荷配送プロセスを統合管理する機能が備わってるシステムが存在しました。

初期のMRPソリューションが洗練され、機能拡張されていき、1990年代には製造、在庫管理プロセスを超えて、経理、財務、販売管理など他部門のプロセスを統合し、今日、私たちが知るERPソリューションとなりました。

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(Quora.comより引用)

ただし、すべてのERPソリューションがMRPに端を発しているわけではなく、現在ERPマーケットでトップシェアのSAPのように、財務会計システムから拡張していったものもあります。

SAPではR/1といわれる初期の財務会計システムが1973年に開発され、1979年にリリースされたR/2といわれる製品で在庫管理、生産計画まで拡張されました。そして1990年代にSAP R/3として、メインフレームといわれる大型汎用機を利用したモデルから、クライアントサーバへ移行し、現在企業にお勤めの方の多くが利用されているSAP ERP製品のベースができました。

システム基盤の大きな流れとしては、初期のMRPやSAP R/1がメインフレームをベースにしたソリューションであったのに対して、ERPという言葉が一般的に利用され始めた1990年代頃には、クライアントサーバ型に移行しはじめており、現在ではさらにクラウドを利用したソリューションへの移行が進んでいます。

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ERPとは何か

ERPは日本語にすると企業資源計画ですが、文字通り企業における資源、すなわち"人"・"モノ"・"カネ"を活用し、企業活動を行うためのコアとなるプロセスを統合管理する概念及びソリューションのことを言います。

コアプロセスとは一般的に、需給計画、調達、製造、在庫管理、販売、保守サービス、人事、財務会計、管理会計、資金調達・・など、一連の企業活動において「これがないと成り立たない」と考えられるプロセス群になります。

統合管理ということがポイントで、ERPでは全てのコアプロセスを統合し、単一のシステムで管理することが基本機能となります。

他方で業務プロセスを管理するERPではないソリューションは、例えば会計システム、販売管理システム、人事システム・・など個別のソリューションが別々に存在し、それを組み合わせて利用しているようなイメージになるかと思います。

パッケージ標準機能とベストプラクティス

コアプロセスをどこまでと捉えるかは業種、業態によっての違いはありますが、その業種、業態を同一とする企業においては、基本的な部分では重なるところが多いと考えられます。

企業として成り立つためには、どの企業も等しく会計基準や税務に基づいた財務会計を行う必要があり、許される範囲での解釈や運用に企業ごとの差異があっても、基本的なプロセスが異なることはありません。

そして、例えば製造業であれば、原材料を調達し、モノを作り、拠点まで配送し、在庫として管理し、販売し出荷し請求・回収するという一連の流れは、これも多くの企業で基本的なプロセスを同じくするものと思います。このモノの流れの裏には、調達や製造、配送、在庫管理、販売など一連の活動を行うためのコストと、販売の際の売上が紐づきます。

モノの流れ(サービス業であればサービス)と、金の流れを別々に管理するのではなく、統合管理するのがERPということになります。こうした基本的な流れ(コアプロセス)は、国や地域及び個別企業ごとの違いはありますが、多くの部分で同一になることは、ご理解いただけるのではないかと思います。

そのため、ほとんどのERPソリューションではベストプラクティスとして、ソリューションプロバイダが最も効率的と考える解釈がビジネスプロセスに反映されています。

このベストプラクティス利用は、IFRSなど会計基準への準拠であったり、SOX法対応などレギュレーションへの対応、また業界別ソリューションであれば、業界標準への対応を容易にします。中堅、ベテランのビジネスマンであれば、2000年問題、J-SOX対応、IFRS対応などとタイミングを同じくして、ERPの導入、切替えを経験された方もいらっしゃるのではないかと思います。

そして、基本的な考え方としてコアプロセスにあたる部分では、できるだけERPソリューションの標準プロセス、機能を利用するということがERPの特性を活かすうえでも重要と言われています。

パッケージ導入の際のFit & Gap

ほとんどのERPソリューションにおいて、Fit to Standardとして標準機能に業務を合わせていくことが推奨されていますが、複数の国、地域へ展開する場合には、ローカルでの法対応や商習慣への対応において、ベストプラクティスが対応しきれない場合があります。

また、企業独自のプロセスや機能が競争優位の源泉となっている場合などには、標準機能に対するGapとして拡張を検討することが必要なこともあります。

パッケージソリューションを用いたときに、その標準機能が導入時に想定する業務のどの範囲で対応でき、一方、どこをどういった形で拡張する必要があるのかを明らかにするアクティビティをFit & Gapといいます。

Gapとして拡張する部分は、実装と保守に追加のリソース、コストを払うことになり、またやり方によっては将来のアップデートを見据えた拡張性を制限することにもなります。そのため、法対応やレギュレーションへの対応で、企業活動を行う上でどうしても拡張が必要なものを除いて、競争優位を保つための拡張については、ビジネスケースとしてベネフィットを算出するなど、ROI(投資対効果)に対しての分析が必須です。

この拡張は日本ではアドオン、海外ではエンハンスメントやカスタマイズと呼ばれるものですが、以前はパッケージソリューション本体での実装が主なものでした。一方、現在はコアパッケージは標準のまま残し、拡張ソリューションは外だしすることが多くなってきています。(詳細は「ポストモダンERP」で後述します)

なお、以前はグローバルで導入するERPソリューションでは、国や地域ごとの法要件、規制対応は拡張に頼らざるを得ませんでしたが、そうした各国要件も代表的なものはERPのソリューションプロバイダによって提供されるようになってきています。さらに、パッケージソリューション自体も、業界・業種別のテンプレートがきめ細かく用意されるようになってきました。

そのため、以前より拡張がどうしても必要なGapの総数は抑えられるようになってきています。

Fit & GapでGapがでることを前提に、そのGapへの対応はアドオンを行うというやりかたが変わってきていることは、今後ERP導入に携わる可能性がある方は頭に入れておいた方が良いかと思います。

ERP導入に掛かるコストとベネフィットの考え方

ERPは元々は大企業向けのソリューションと考えられてきましたが、今日では中小事業向けのソリューションも多く存在します。そのため、当然ですが適用されるソリューションについて、企業の規模や業務プロセスの複雑性によって必要となる投資の大きさも変わってきます。

手元に資料があるわけではありませんが、代表的なERPソリューションを導入しようとした場合、中小であれば数か月で数百万円~数千万円の導入コスト、ある程度の規模(売上数百億円ぐらいを想定)の上場企業では導入期間が1年前後で数億円~、またグローバルで展開する大企業では数年がかりで数十億円~数百億円というところが感覚値としてはあります。

これは企業にとっては経済的に大きな負担になるものですが、ERPへの投資は目に見える直接的なリターンがあるわけではありません。製造業で工場への設備投資などと同じようなイメージでとらえればよいかと思いますが、大きな規模のビジネスをしようと考えたときに、それに対応できる規模のファンダメンタルなプロセスやシステムを備える必要があるということです。

ERPの導入プロジェクトはFit & Gapを伴うことから、業務改革と同時に行われることがほとんどですが、ERP導入自体で売上があがったり、コストが下がって生産性が向上するようなことはほとんどありません。

ERP導入をすることによって規模拡大(すなわち売上拡大)に向けた施策や、無駄を省き生産性を向上するような施策を行うことが出来るファンダメンタルが整うということが正しい理解です。

ファンダメンタルというのは具体的に言えば、データとプロセスの標準化と、一元管理によるデータの整合性・信頼性向上などがそれにあたります。このファンダメンタルをもとに、経営指標をグループ全体で統一して、リアルタイムにパフォーマンスを可視化することが可能になります。

売上や生産性向上はそこから先の話です。例えば、製品コードの標準化・一元管理を行う統合プラットフォームを持つことで、新設工場や販売拠点拡大時に、品質を保ったうえで早期のオペレーション立上げが可能になります。また生産性の話であれば、間接業務を標準化すればグローバルでシェアード化促進につなげられるでしょうし、グローバル調達を行うことで材料費の抑制や安定調達を実現できるようになります。

つまりERP導入による効果は、そのファンダメンタルを用いて何をするのかによって変わってきます。

検討の順番としては、企業の将来像を明らかにしたうえで、そのために必要なビジネス基盤としてのERPはどういうものなのか、またそこで実施していく改革施策はどのようなものなのかを明らかにしていくことが必要です。

製品マーケット動向

続いて製品マーケット動向ですが、マーケットシェアが一番大きいのはやはりSAP S/4 HANAを中核とした、SAP社のソリューション群になります。そして特に北米市場で強みをもつOracleが続きます。

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以下、2018年のGartnerのバブルチャートではWorkday、Sage、Inforがつづきます。WorkdayはPeople softがOracleに買収された後に、People softのチーフストラテジストなどが中心となって立ち上げられた、人事系に特に強みを持つ比較的新しい企業です。Sageは中小規模の事業体に強みをもつイギリスの企業で、Inforはニッチ産業向けに強みをもつアメリカの企業です。

少し前まではMicrosoft Dynamicsを擁するMicrosoftもこの中に入っていましたが、少なくともERPマーケットでの競争からは遅れをとりつつあるようです。

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国内のマーケットでは富士通やオービック、ワークスアプリケーションズなどが国産ERPベンダーとして入って来ます。

国内中心にビジネスを行っている企業であれば国産ERPも含めて選択肢は多くあるかと思いますが、大企業でグローバル展開をしている企業では実質的にはSAPかOracleの二択になります。

ポストモダンERP

この記事の中でも念頭に置きながら話をした箇所もありますが、最後に現在のERPソリューションの新しい潮流となりつつあるポストモダンERPについて紹介いたします。

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(Gartnerより)

ポストモダンERPは、これも比較的最近になってガートナーにより提唱された概念で、簡単にいえば企業の全てのプロセスを同一のデータベース・システムで統合管理するモダンなERPに対して、中核にコアを残しながら複数のシステムを疎結合にしたものです。

ガートナーは従来型のERPをモノリシック、つまりソフトウェア的な観点で言うと、全体が一つのモジュールとして分割されていない状態と表現しています。一方でクラウドアプリケーションを含めて「ゆるく結合された分散」された状態がポストモダンERPのあるべき姿だというわけです。

背景には、クラウドベースのソフトウェアが台頭してきことや、デジタルテクノロジーとの結合、そしてモダンなERPが企業の基幹システムとして保守性、柔軟性へ課題があることにあります。そこにコンポーネントの変更、交換が柔軟にでき、また結果として企業が必要なものを正確に利用できることで、システム機能群からオーバーヘッドを削減できる可能性があります。

また、ポストモダンERPについては、以前ご紹介したリーンスタートアップをはじめとした、アジャイル手法とも親和性があります。

こうした流れに呼応して、例えばSAPでは従来型のIn-App拡張に対して、Side by Side拡張という拡張方式を提示し始めています。

今後は、ポストモダンERPがアプローチの主軸になっていくものと思いますが、そこの成功のカギはコアの部分をシンプルに標準化し、フロント業務では変化する環境に対して柔軟に対応できるようにすることと考えます。

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