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【SCM】ロジスティクスの基本概念を理解する

ロジスティクスは元々、軍事用語から派生してビジネスに用いられるようになった言葉ですが、軍事用語としてのロジスティクスは武器、兵器、糧食などの調達、供給を管理する兵站(へいたん)術とその運営を指します。

この技術をビジネスに応用し、物資の流れをマネジメントする仕組みを、我々はビジネスのシーンでロジスティクスと呼んでいます。

私自身はロジスティクスの専門家ではなく、20代の若手の頃に営業支援や顧客情報管理といったCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)の仕事をし、次に販売物流プロセスを中心にSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)を担当するセクターに移り、さらにプロジェクトマネジメントを中心に保守サービス、経営管理、製造業のデジタライゼーションといったテーマを見るようになっていきました。

プロセスカットで見ると総花的なキャリアではありますが、人・モノ・サービスと、その裏側にあるお金の流れを全体俯瞰して見られるようになりました。

コンサルティングファームで幹部になり、そこで成果を出していくためには、ソリューションが何であれ、企業の経営層、CxOにビジネスの変革を語ることが必要になります。そしてビジネス変革を考えるうえで、この全体俯瞰ということは非常に重要です。

この記事ではあまり細かい話には入りませんが、全体俯瞰の目を手に入れるための教養として、ビジネスマンが知っておくべきロジスティクスの基本的な考え方を紹介しようと思います。

ロジスティクスとは何か

まず、混同されがちではありますが、物流(ディストリビューション)とロジスティクスは別々の概念です。企業活動において物流も含めた、調達、生産、在庫、販売、出荷という一連のプロセスを、マネジメントにより最適化することをロジスティクスと言います。言い換えると、マーケットの需要に応じた量を生産し、必要な量だけをマーケットに供給し、売れた分を必要な量だけ補充する、という仕組みです。

つまりロジスティクスは物流の上位概念ということになるわけですが、その目的をシンプルにして考えると、機会損失につながる「欠品」を防ぐことと、また同時にロスや無駄につながる「過剰在庫」を防ぐことと言えます。この二つを前提にすると、ロジスティクスにおけるコアは、在庫のマネジメントと考えています。

欠品と過剰在庫を防ぐためには、調達、生産、販売、物流と部門横断での取り組みが必要になり、またそれに併せたKPI(Key Performance Indicator: 評価指標)が必要になります。読めば至極当然のことを言っているように聞こえるかもしれませんが、実際には部門間で縦割りの組織であればあるほど、難しくなります。

販売部門のKPIで出荷先へのリードタイム短縮があったとすると、欠品を防ぐために在庫を積むよう指示するでしょうし、一方で在庫管理をする部門では在庫をなるべく少なくすることがKPIだとすると、その指示に対して抵抗するということが起こるかもしれません。

ロジスティクスを企業横断的な取り組みとして進めるためには、部門ごとの都合や、それに対応した指標は邪魔になります。

ロジスティクスと会計の繋がり

私の手元には「ほんとうにわかる管理会計&戦略会計」という本があり、その第1章が「一般に公正妥当と認められた"粉飾"決算」です。600ページを超えるハードカバーの厚い本ですが、内容は分かりやすいので興味がある方は手に取ってみてください。

ここでは損益計算書で赤字着地見込みになりそうな企業が、在庫を意図的に積み増して売上原価を下げることで利益がでているように見せている会計トリックについて書かれています。

どんなトリック化を説明するにあたり、以下、以前の記事で説明をした損益計算書の構造です。

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売上高から売上原価を引いたものが売上総利益になっています。では、売上原価とは何かというと、以下の計算式で求められます。

売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 - 期末商品棚卸高

簡単に説明すると、決められた期間の開始時における在庫の評価金額と、期間内の仕入れ金額を足したものから、最後に期末時点での在庫の評価金額で引いています。これは在庫はいつかは売れるという考えに基づいています。

そして最後の引き算で期末時点での在庫を増やしておけば、当該会計期間での売上原価は下がり、利益率が向上するというわけです。

しかし、この場合では意図的に過剰在庫を生んでおり、そうであるために在庫がいつまでたっても売れない状況も考えられます。そうなると、実態としては仕入れや製造コストでお金は出て行っている一方で、販売代金としての回収が出来ないということになります。

損益計算書上では在庫が増えることは問題として見えませんが、実態としてはキャッシュがショートする資金繰りに対するリスクが増している状況です。つまりロジスティクスの効果をみるのに、損益計算書だけ見るのはふさわしくないということです。

実際にロジスティクスによる効果を会計上で見ようとする場合には、キャッシュフローと貸借対照表での分析が必要です。

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こちらは貸借対照表のイメージですが、ここから企業経営に必要となるキャッシュの負担、つまり運転資本を見ることができます。

運転資本 = 流動資産 - 流動負債

流動資産は売上債権(現金化できていない売上)や在庫などで、流動負債は買掛金(支払いが済んでいない仕入)などになります。運転資本が増えれば新たな資金調達が必要になり、運転資本が減れば資金需要が減ったということになります。

つまり運転資本は入金と出金のズレを補うためのモノなので、運転資本が減少すれば、それだけ自由に使えるキャッシュが増えている状態になっているはずです。

運転資本を減らすためには、売上債権を回収するサイクルを早くし、在庫をなるべく減らし、仕入れや調達ではなるべく支払いのサイクルを長くして現金で決済せずに買掛金を厚くするようなイメージになります。ただし、売上債権や買掛金は、取引先、仕入先と相手があってのことなので、いつでも自社にとって有利な取引をさせてもらえるわけではありません。

そのため、運転資本を減らすための主体的なアクションとしては、現実的には在庫を減らすというアクションが一番現実的で、効果が高い施策となるわけです。

在庫を減らし、運転資本を減らすことでキャッシュフローを改善することが可能になり、それが企業価値の向上につなが入ります。そのため、ロジスティクスの有効性を会計観点から見たときの評価指標は、キャッシュフローになります。

企業の部門とロジスティクスの結びつき

ロジスティクスは先に述べたように、企業活動を横断して取組むことで初めて効果がでます。それぞれ企業の部門と、ロジスティクスがどのように結びつくのか見ていきます。

まずR&D(Research & Development: 製品開発)部門ですが、ロジスティクスからのフィードバックで、製品ごとの在庫の動きを見ることにより、マーケットの動向を踏まえた製品開発を行うことができるようになります。

つぎに製造部門ですが、一般的に部門個別の評価指標としては、製造原価の低減や生産予算の達成などがあります。それはそれで重要な取り組みではありますが、ロジスティクス観点では適正在庫維持が上位概念になります。売れる見込みがないものは原価が低くても作りすぎない、逆にマーケットの動向をみて、今後のポテンシャルが高い新製品は初期のロット数が少なく製造原価が高くても売れるだけ生産する、というような柔軟性が必要になります。

そして販売部門は先に述べた例にあるように、欠品を恐れて在庫を多く持つ傾向がありますが、ロジスティクスにより全体最適が図られれば、在庫を気にすることなく営業活動に専念することが出来るでしょう。

このように、どの部門にも共通することですが、ロジスティクスを機能させるためには各部門最適ではなく、全体最適の観点から企業横断で評価指標を見直すことが重要です。また、全体最適をはかるための組織設計として、在庫を中心に全体を統制するような組織を持つことが有効と考えられます。

司令塔としてのロジスティクス組織

ロジスティクスを重視する企業では、在庫に責任をもつロジスティクス組織があることが多いです。製造、調達、販売などの部門が個別に、それぞれの評価指標に従って仕事をすると、欠品や過剰在庫に繋がります。そこで需要に見合った適正な在庫を維持するマネジメントを行う組織が、設置されるようになってきたというわけです。

適正な在庫のコントロールは、適正な量を調達し製造する「在庫ボリューム」のコントロールと、それをマーケットの動きに合わせて必要な場所に必要な量をオンタイムで配置する「物流」のコントロールに分解されます。ロジスティクス組織ではモノの流れを全体俯瞰し、この2つをコントロールすることでマネジメントを行います。

ロジスティクスによる効果と今後

私たちが買い物に行くと、例えばアウトレットモールなどでは原価割れをしているのではないかという値引き率の商品が、大量に陳列されていたりします。往々にして、安いからと言って手に取ることがないような商品であったりもするわけですが、こういった価格の引き下げ要因には需要に対して作りすぎたということがあります。

ロジスティクスの推進により、在庫が適正化されていれば、こうした価格の引き下げには繋がらないと考えられます。

こうしたロジスティクスを機能させるためには、システムによる管理は不可欠ですが、さらにオートメーションやデジタル化が進んでいる領域でもあります。

今回は詳細に入りすぎることなく、全体の流れ、考え方を中心にご紹介しましたが、また個別の業務革新や、そこでのデジタル化についても紹介させていただければと思います。

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