「名言との対話」12月3日。福田幸弘「『寅さんシリーズ』には落語の洗練された味が隠されている」
「名言との対話」12月2日。福田幸弘「『寅さんシリーズ』には落語の洗練された味が隠されている」
福田 幸弘(ふくだ ゆきひろ、1924年12月3日-1988年12月23日)は、日本の政治家。大蔵官僚。参議院議員。
熊本県人吉市生まれ。旧制明善校卒業。1944年 海軍経理学校卒業。レイテ沖海戦に参加。1953年東大卒後、大蔵省に入省。1981年 主税局長、1982年 国税庁長官。1986年 参議院議員選挙に自由民主党から出馬し当選。
1984年発刊の福田幸弘『一大蔵官僚の眼』(東洋経済新報社)を読んだ。
第1部は10年間にわたって時事通信社『金融財政版』に匿名で月1本書いた時評から選んだものだ。
「税」と直接関係するものは、専門分野であり、主張がよくわかる構成になっている。累進課税の意味。社会保険医の課税問題。租税特別措置を排す。減税と公共事業。減税と賃金。税と教育。減税闘争。税の俗諺。税制の国際的動向。無税国家論。レーガンの税制改正。剰余金減税問題。地方税と行革問題。相続税のクロヨン。減税と賃上げ。
「荒廃」シリーズでは厳しい主張が満載だ。「医療」では医薬分業を第一に提案。「国会」ではその非効率を非難。「教育」では国際的に通用する文科系の学者が少ないと論じている。「経営」では財界の解体を提言。「新聞」では見習いを第一線におくから記事が幼稚になる。「TV」では機械は世界一だが内容は劣弱。、、、
その他、「ハンコの功罪」では、日本は現金主義であるとしサインを基礎にせよ。「官僚主義」では、官僚中の官僚である大蔵省の幹部であることを棚に上げ、傲慢、尊大、形式主義、年功序列、無責任主義を断罪している。「国債の重圧」では、歳出削減を主張。この時点での国債残高は71兆円でしかなかった。
第2部の最後に加えた「雑感3編」がある。
「レイテ海戦の戦訓」は、1981年に刊行した『連合艦隊ーサイパン・レイテ海戦記』の要点と結論を書いている。この1945年のフィリピン沖の世界海戦史上最大の海戦は、艦船231隻、飛行機2000機が参加した日米の最終決戦で、日本は敗戦に追い込まれた。フィリピン防衛を意図する日本海軍と、再上陸を目指す米軍を主力とする海軍の戦である。双方とも失敗があった。米側は「指揮権の分割」が失敗であり、日本側は「通信連絡の欠落」が失敗だった。福田は日本について旧弊固陋な伝統的思考、命令系統の不統一と目的の不明確が今日に通じる教訓であるとしている。20歳の青年時代に自身が参加したレイテ沖海戦を生涯追い続け、37年後の57歳で本にしたのである。福田にとって、書かなければならない総括であり、本業とは別のライワークであっただろう。
「映画の効用」は、余技としての映画批評に関するエッセイだ。映画は社会が直面している問題を理解するのにいい、官僚の仕事に役立つという。福田によれば老人問題は『恍惚の人』、DV問題は『絞殺』、非行問題は『父よ母よ!』、、。『E・T』『スター・ウォーズ』『評決』『ソフィーの選択』『時をかける少女』『南極物語』、、そして『寅さんシリーズ』も薦めている。こういうエッセイで、一気に人間くさく感じることになるから、趣味の力は偉大なものがある。
今年亡くなった母がやはり「寅さん」のファンであり、私も毎週土曜日の再放送を見ることになって、ファンになった。福田は落語の洗練された味が隠されているという。笑いとペーソス、そして昭和の日本各地の風景と人情と庶民の幸福が描きだされている傑作だと思う。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?