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「名言との対話」9月18日。高橋健二「ゲーテは往々、矛盾したことを言っている。正反対のことが言えることを示している。それも意義深いことである」

高橋 健二(たかはし けんじ、1902年9月18日 - 1998年3月2日)は、日本ドイツ文学者

東京・京橋生まれ。一高を経て東京帝大ドイツ文学科を卒業。1931年、ドイツに留学。実際に会ったヘッセや、ケストナーゲーテ、グリム兄弟などのドイツ文学に関する著書や翻訳書を多数刊行した。

戦時中は大政翼賛会宣伝部長に就任し、ナチス文学の紹介も行っている。戦後は中央大学教授をつとめた。読売文学賞、産経自動出版文化賞、芸術選奨文部大臣賞、日本芸術院賞、など多数の賞を受賞した。第8代日本ペンクラブ会長。1985年、文化功労者

高橋健二訳『ゲーテ格言集』を読んでみた。ゲーテという詩人は知と愛の言葉の宝庫であり、短い言葉に深い含蓄を織り込むことを好んだ人であった。そして多くの格言や警句を残した。

高橋健二はドイツ人と日本人とでは感じ方が違うとして、日本人の琴線に触れる言葉を選んで翻訳している。宗教についての意識が違うからだろう。高橋が共感し、感銘を受けた言葉が多い。つまり、これらは高橋自身の言葉として受け取ってもよいのではないだろうか。その中から、私自身の琴線に触れや格言を拾い出したい。

  • 有為な人間は、すぐに外面から内面へ向かって自己を教養する。

  • 内的生活は外的生活によってのみ、刺激される。

  • 人は努めている間は迷うもの

  • 有能な人は、常に学ぶ人である。

  • 君の胸から出たものでなければ、人の胸を胸に引きつけることは決してできない。

  • 自分の一生の終りと初めと結びつけることのできる人間は最も幸福である。

  • 一つのことを正しく知り、且つ実行することは、百通りのことを半ばにやるより、高い教養を与えるものである。

  • この地方を説明せよというのか。まず自分で屋根に上りなさい。

  • 要は、大きな意欲を持ち、それを成就するだけの技能と根気を持つことだ。そのほかのことはどうでもいのだ。

「処世のおきて」では以下の如く示している。「気持ちよい生活を作ろうと思ったら、済んだことをくよくよせぬ、滅多なことに腹を立てぬこと、いつも現在を楽しむこと、とりわけ、人を憎まぬこと、未来を神にまかせること」。

ゲーテは、矛盾したこと、正反対の言葉を発していると高橋健二はみている。時と場合によって、胸に刺さる言葉は違うものだ。上昇中には戒めの言葉が有効であり、沈んでいるときには励ましのことばが効く。また、誰にとっても真実である言葉もあるが、その人の性格によって正反対の示唆が心をとらえることもある。それを高橋健二は、意義深いことだと総括している。

寺山修司は言葉の創造者であると同時に、言葉の収集家でもあった。ゲーテも同じだったのではないだろうか。この二人に共通するのは詩人であったことである。短い言葉に深い含蓄を込める名手だ。ゲーテの書いた書物が今なお読まれているのは、変わらない人間の本質にかかわる言葉が、散りばめられているからだろう。


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