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4ビートからヒップ・ホップへとシームレスに 〜 メラニー・チャールズ

(5 min read)

Melanie Charles / Y’all Don’t (Really) Care About Black Women

米NYCはブルックリンで生まれ育ったハイチ系黒人歌手&フルート奏者、メラニー・チャールズ。新作『Y’all Don’t (Really) Care About Black Women』(2021)がついこないだ出ましたが、これ、ぼくはどこでどうして知ったんだっけ?思い出せない…。

あ、そうそうそうだ、ジャズ・トランペッターのシオ・クローカー(Theo Croker)がInstagram投稿でこのアルバムのジャケットをシェアしていたんでした。ぼくはシオをフォローしていますからね。それでオッ、これはおもしろそうじゃない?と感じて、例によってパッとすぐSpotifyでさがして聴いてみたんでした。

すると、メラニーはどうやらジャズ歌手みたいですよね。それもジャズ100%っていうんじゃなく、ソウル/R&B/ヒップ・ホップともクロスするようなスタイルの持ち主。要は新世代シンガーということなんでしょう。

メラニーの今回の新作はリミックス集でもあって、題して「Verve Reimagined」シリーズ。その一環として制作・発売されたもの。上でリンクを貼ったアルバムのトラックリストを眺めてみてください、曲題の右に「Reimagined」と付記されている六曲がヴァーヴの従来音源を使ったリミックスで、メラニー自身が手がけています。

そうじゃない五曲が今作のためのいちからの新録ということで、ちょうど半々。しかし最初聴いたとき、あるいはいまでも、二種類が並列しているという感触はまったくありません。

このへんは、サンプリングとかループ、音響加工の活用、過去音源をリミックスして新録パートと混ぜるとかつなぐとか、その手の新時代の音楽制作手法がいまやあたりまえのものになってきていて、特にそうと銘打たないものにだって使われているからでしょうね。

実際、メラニーの今作でもリイマジンド・トラックはたんなる再用ではなく、メラニーが歌い演奏した追加新録パートがくっついているし、リイマジンドじゃない新録だって似たようなトラック・メイク手法がとられていることは聴けばわかります。

リイマジンド・トラックでとりあげられているのは、ダイナ・ワシントンの「パーディド」「ワット・ア・ディファランス(・ア・デイ・メイクス)」とか、サラ・ヴォーンの「ディトゥーア・アヘッド」とか、マリーナ・ショウの「ウーマン・オヴ・ザ・ゲトー」とか、ベティ・カーターの「ジャズ(エイント・ナシング・バット・ソウル)」とか、先人黒人女性歌手ばかり。

新録曲も、けっこう有名な、たとえば1曲目「ガッド・ブレス・ザ・チャイルド」(ビリー・ホリデイ)や、4「オール・アフリカ」(マックス・ローチ、アビイ・リンカーン)や、9「ゴー・アウェイ・リトル・ガール」(キャロル・キング&ジェリー・ゴフィン、マリーナ・ショウ)などのブラック・ソングで占められているんです。

ここに今作におけるメラニーの目論見があったことは容易に見てとれます。アルバム・タイトルやジャケット・デザイン(だけでぼくは聴いてみようと思った)でも端的に表現されているように、いまのこのコロナ禍時代に、アメリカで、黒人の、それも女性として生きるという意義を問いなおした、いわばBLMミュージック・アルバムとも言える内容なんです。

そんなテーマを表現するためにこそジャズ・ソウルなサウンドは活用されていて、時代の先鋭なヒップ・ホップ、コンテンポラリーR&B、ネオ・ソウルな音楽構築手法をジャズとクロスさせ、従来音源の4ビート・ナンバーも一部そのまま使いながらリミックスして、そこからシームレスで新感覚ビートに接合しています。

いまやあたりまえの手法になったこういう音のつくりかたですが、メラニーの今作では、ジャズの世界でいままで黒人女性が成し遂げてきたことの再評価にフォーカスしリスペクトを示すという、ブラック・コミュニティに強く根ざして発信しているというあたりに最大の特徴と聴きどころがあって、リミクサーとしてのメラニーの手腕にも注目が集まりそうです。

(written 2021.11.26)

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