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やっぱりジャジーなマット・ローリングズの新作がとっても沁みる

(6 min read)

Matt Rollings / Matt Rollings Mosaic

萩原健太さんのブログで知りました。

鍵盤奏者マット・ローリングズ。セッション・ミュージシャンとして、ジャンルを超え各方面でひっぱりだこの人気者ですね。1990年のジャズ・アルバム以来という30年ぶりの自己名義作品『マット・ローリングズ・モザイク』(2020)は、一曲ごとに参加歌手を替えながらさまざまな著名曲のカヴァーでモザイクした、いわばアメリカン・ソングブックみたいなアルバム。マットって自身名義のソロ作品というのはあまりつくらないひとなんでしょうか。

ともかく最新作『マット・ローリングズ・モザイク』がこりゃまた沁みる内容の音楽で、しかも大のぼく好み。その最大の理由は、やっぱりこれもオールド・ジャズふうに展開した感触の作品だからですね。健太さんはぐっとアメリカーナ寄りの作品とお書きですが、個人的にはジャズ風味を強く感じます。

それになんたって1曲目「テイク・ミー・トゥ・ザ・マルディ・グラ」(ポール・サイモン)が、完璧なアバネーラにアレンジされているのがかなりポイント高し。あれっ、こんな曲だっけ?と驚いて、ポールのオリジナルを聴きなおしてみたけど、ちっともカリビアン/キューバンじゃないんですもん。

だからマットが今回わざわざキューバン・アバネーラに仕立てあげたというわけで、ぼくは大のアバネーラ好きだから、もうこのアレンジとリズムだけで心地よさに満たされていきます。このオープニングはほんとうにうれしかったですね。ホーン・アンサンブルだってニュー・オーリンズ・ジャズふうで、そりゃマルディ・グラだからそうなります。カリブ文化とは切っても切れない縁のクリオール文化首都ですからね、ニュー・オーリンズって。

アルバム全体でもニュー・オーリンズふうの古典的なジャジーさを強く香らせるできばえで、同地のジャズには抜きがたくカリビアン・ミュージック要素が混じり込んでいることを、マットのピアノ・プレイのタッチに随所でしっかり感じます。

ピアノ(だけじゃなく多重録音でオルガンやシンセサイザー も弾いている様子)のタッチがどうこうといっても、このアルバム、基本、どの曲もゲスト参加の歌手をフィーチャーしていて、ピアノでもなんでも楽器ソロはまったくなし。伴奏のピアノ演奏だってこれみよがしにオブリガートを入れることもなく、ただひたすら淡々とマットは地味に弾いている堅実さ。

だからこそかえって職人気質が気高く思えるっていう内容に仕上がっているんですよね。そのほかのミュージシャンもベースとドラムスだけのトリオ編成っていうのが基本で、そこに曲によってはちょこっと弦楽器や管楽器などがゲスト参加して装飾しているだけ。

なかにはアイリッシュ・ソングを思わせるものもあったり(3「ステイ」、7「ウェン・ユー・ラヴド・ミー・スティル」、10「スランバー・マイ・ダーリン」)、それはたしかにアメリカーナですけれども、ほかにはたとえばライヴ・ラヴェットが歌う2曲目「アクセンチュエイト・ザ・ポジティヴ」はオールド・ジャズ・スタンダードですし、ブラインド・ボーイズ・オヴ・アラバーマ参加の4「ウェイド・イン・ザ・ウォーター」だって、ゴスペルというよりジャジーな香味のほうが強いアレンジになっています。

クライマックスであろう、ライル・ラヴェット、ランブリン・ジャック・エリオット、ウィリー・ネルスンの三人が参加して歌っている8曲目「ザット・オールド・ラッキー・サン」なんかも完璧オールド・スタイルのジャズ・ソングに仕上がっていて、ビートも2/4拍子、マットのピアノなんかストライド・スタイルだもんねえ。ニンマリ。

ウィリーの子ルーカス・ネルスンを迎えての9曲目「アイル・カム・ナキン」でも、こんなふうに地味&滋味深くルーカスも歌えるのかと驚くほどの落ち着いたできばえ。支えるマットのピアノ・サウンドがしっかりしているからではありますが、それにしてもねえ、アレンジ次第で化けるもんです。ジャジーですけど、でもたしかにちょっぴりアメリカーナっぽいかも。

アメリカーナっぽさよりもジャジーな味を個人的に強く感じるのは、このアルバム、ギターリストがまったくといっていいほど参加していない、ピアノ・トリオ中心のサウンドで構成されているからかもしれません。そのなかにカリビアンだとかアイリッシュだとか、もともとアメリカン・ミュージックのルーツになったような音楽要素も混ぜ込んで味わい深く聴かせるマット・ローリングズ。自身のプロデュース・ワークも光っています。

(written 2020.9.21)

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