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アメリカとかイギリスっていうことばはむずかしい

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だってね、そもそもどこのことだか正確にはわかりませんからね、「アメリカ」とか「イギリス」って。洋楽ファンとしては実に頻繁に、頻繁すぎるほど、目にする名詞で、いちおうアメリカはアメリカ合衆国(USA)のこと、イギリスはグレート・ブリテン&北アイルランド連合王国(UK)のことだと、わかってはいますけどね。

それでもやっぱりおかしいぞという気持ちを拭いきれません。歴史が古いほうから言いますと「イギリス」。これに相当する英語って存在しないんで、その意味でも妙ですが、もともとイギリスとはイングランドのポルトガル語読みであるエングレスが日本に入ってきてなまったものだとのこと。ポルトガル語なら、戦国〜安土桃山時代あたりに入ってきたんでしょうか。

っていうことは、語源的にみればイギリスとはイングランドのことであって、UKのことじゃないんだってことになってしまいますが、そうはいってもいまやUKの意味でイギリスってみんな言っていますからねえ。でもそこにぼくはなんらかの疑問みたいなものを持つわけです。

歴史的経緯からすれば、イングランドがウェールズ、スコットランド、北アイルランド(最初はアイルランド全体)を併合して、それでUKが成立したわけですけど、だから、イングランド=UKじゃないわけですから、現在も。それなのにイングランドを指すことばであったイギリスをUKの意で使うのはやや間違っているんじゃないですか。

いまでもばあいによってはそれら四ヵ国はそれぞれ独立国扱いであって(サッカーやラグビーの世界など)、スコットランドもウェールズも北アイルランドも、イングランドの属国なんかじゃありません。別個のカントリーであって、ゆるやかに連合しているだけなんですから。

音楽ファンとしてはいっそう事情がややこしいっていうか、ウェールズのことはよくわからないですけど、スコットランドや北アイルランドは魅力的なシンガーやミュージシャンをたくさん輩出しているじゃないですか。だから心情的にはよりいっそうスコットランドと北アイルランドに肩入れするっていうか、そこのみんなを「イギリス人」と呼ぶなよなと思っちゃいます。

ことほどさようにイギリス、イギリス人という言いかたは雑で乱暴で、無意味でもあるんですけど、「アメリカ」だってちょっとワケわかんないですよ。イギリスと違ってアメリカのばあいは America っていうことばが英語にありますけども、このことばは元来、南北アメリカ大陸を指す地理的名称だったのであって、だから「アメリカ」とだけ言ったらあれら大陸全体のことだと解釈しないといけないのに、なぜかUSAのことしか意味しないですからね。

これは当のUSA人もそうで、自国のことをアメリカと呼び自国人のことをアメリカンと平気で言って疑問を感じていないあたりに、アメリカ合衆国人の傲慢さを強く感じるわけです。そんな際、メキシコ人、ブラジル人、アルゼンチン人、キューバ人、ニカラグア人などなどはどう感じるだろうか?とその心中を察するにおだやかな気分ではいられれません。

そういう事情があるので、しかしながらぼくもふだんUSAのことにしか言及していないことが文脈上明白なばあいには「アメリカ」と言っちゃっていますけど、ちょっぴり胸がチクリとするのはたしかなことです。ましてや中南米のことを視野に入れた文脈で話をするときには、かならずアメリカ合衆国と呼んできています、長くて面倒でも、それがことばに対する誠意だと思いますから。

これまた大衆音楽の世界では事情がややこしいっていうか、中南米音楽(ラテン・ミュージック)のほうもかなりおもしろいし豊穣でもあるっていう、そういうことがありますから、それゆえやっぱりいっそうラテン・アメリカ地域(そう、アメリカ、なんですよ)に肩入れし、北米合衆国のことをアメリカとしか呼ばないのは実にケシカランと思っちゃうわけですよね。

イギリスが雑で乱暴なことばであると同時に、USAのことをアメリカと呼んで疑わないのも無神経でガサツなやりかたなんですよね。とはいえひとことで言えて便利だし、通例にもなっているしで、ぼくもふだん使うことは多いです。でも、きょう書いたような視点はいつも忘れずに持っておきたいなと。

(written 2021.2.5)

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