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論文イントロの書き方 -封じるべき「そもそも論」6選-
論文のイントロダクション(序論・緒言・はじめに)を書くのはなかなかやっかいです。研究の科学的プロセスの中で実証していない「そもそも論」の論理を説得力をもって単純かつ明快に述べなければならないからです。この記事では、イントロの役割についておさらいした上で、イントロを書く上で記載すべき6つのポイントと、それを指針としてイントロを書く方法を紹介します。
※この記事は、著者のブログ「駆け出し研究者のための研究技術入門」の記事のリライト版です。
イントロの役割は先手を打って「そもそも論」を封じること
イントロの大切な役割は、イントロ以降のセクションで効果的でない議論の蒸し返し、つまり「そもそも論」が湧いてこないようにすることです。
研究の手法や結果の詳細を説明しているところで、読者に「そもそも何でこんな手法を採用しているんだっけ」とか「そもそもどんな結果が得られたら嬉しいんだっけ」「そもそもこの実験は誰かがやっているんじゃないの」というそもそも論の意見を持たれてしまうと、手法や結果の説明や議論を集中した状態でちゃんと読んでもらうことが難しくなりますよね。ですから、「そもそも論」の議論はイントロでしっかり終わらせておくべきなのです。
封じるべき「そもそも論」6選
イントロですべての「そもそも論」を封じることは紙面の都合もあって不可能ですので、ある程度あきらめないといけないところもあります。しかし、研究の価値を読者(あるいは査読者)に認めてもらうためには絶対に封じておきたい重要な「そもそも論」が6つあります。それは以下のものです。
主題選択:そもそも扱っている対象(主題)はどのようなものなのか。なぜそれを扱っているのか。
理想:そもそもその主題についてどのような状況が理想なのか。なぜそれが理想なのか。
現状:そもそもいまどの様な状況に留まっているのか。なぜ現状では不十分なのか。
問題の構造:そもそも何が現状打開を妨げる問題になっているのか。なぜそれが解決されていなかったのか。
アイデア:そもそもどのような考え(アプローチ)で現状を打開しようとしているのか。なぜそれで打開できそうなのか。
目的:そもそも今回の原稿中ではどんな課題の達成を目指しているのか。問題をどこまで解決しようとしているのか。
これらの項目の説明は、研究の必要性や重要性、新規性や有効性、また焦点や限界を読者に理解させる上で不可欠です。筆者と読者の間で前提知識が共有されていなければ、理想に共感してもらえません。理想に共感してもらえなければ、現状が不十分だということを納得してもらえません。現状が不十分であることに納得してもらえなければ、問題が問題であるとは認識してもらえません。問題を認識してもらえなければ、アイデアの素晴らしさは伝わりません。アイデアの素晴らしさが伝わらなければ、研究で何かが達成されそうだという期待感を持たせられません。
イントロの目的は、上記6つの「そもそも論」が、それ以降を読み進める読者の頭に湧いてこないようにすることです。イントロでは、後で湧いてくると困る「そもそも妖怪」を退治するのだ、というイメージを持つとよいかもしれません。
悩ましい論文イントロダクションは【そもそも論】で襲いかかってくる妖怪退治だと思えば随分書きやすくなるかもしれません。
— 石原尚 / Android Robotics (@hisashi_is) September 13, 2022
退治し損ねるとイントロ以降でも襲われます。#研究の攻略 pic.twitter.com/ONFpxwPPc7
効果的なイントロの書き方
効果的なイントロとは、上記6つの「そもそも論」に対する端的な答えが明確に書かれているものです。したがって、論文を書く前に、まずはこれらの6項目に対する「端的な答え」をどのようなものにするかをしっかりと考えておくことが有効です。
6項目に対する答えの具体例としては、以下のようなものが挙げられます。
主題選択:素材Aは▲▲という特性を持つ材料である。この特性は希少であるので注目に値する。
理想:素材Aの▲▲特性を最大限に生かすことができれば、××を実現することができる。××の実現は□□の解決に資する。
現状:素材Aの▲▲特性は30%しか活かされていない。少なくとも60%にしないと使い物にならない。
問題の構造:▲▲特性の発揮を阻害している要因が不明であるのが問題。不明なのは、要因を統制した実験が困難だったから。
アイデア:要因統制は、〇〇で可能なはず。〇〇は素材Aに近い別の素材でうまく要因統制をすることができているから。
目的:素材Aについての要因統制が〇〇で可能かどうかを実験的に確かめる。これが可能であれば、▲▲特性発揮の阻害要因を明らかにする研究が今後可能になる。
上記のように6項目に対する端的な答えが用意出来たら、あとは機械的にイントロを書いていくことができます。基本的には段落(パラグラフ)を6つ用意して、それらの先頭行に各項目の答えを書き、各段落のそれ以降は、その答えをより分かりやすく、より納得できるものにするための補足説明(根拠/解説/具体例)を書いていくだけです。
たとえば、「主題選択」の段落では、▲▲特性というものが具体的にはどのようなものなのか、またどのくらい希少なのか、といった解説を付け加えればよいでしょう。「理想」の段落では、なぜ××を実現できると言えるかを根拠と共に論じるのがよいでしょう。
上記のような書き方は、パラグラフライティングと呼ばれます。下の記事も参考にしてみてください。
まとめ
重要なのになかなか書きづらいイントロダクションを、「そもそも論を封じる」という観点を指針として攻略する方法を解説しました。他にも、イントロを書いていくための良い指針はあろうかと思いますが、1つの指針としてお試しいただければ幸いです。
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