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新聞の未来(4) こうして新聞社を辞めました (1999年版)

新聞は今後どうなるのかーー。
1998-99年に勤め先の職場で回覧していた『新聞の未来』です。月1のペースで10回、書きました。記事は当時のままです(オリジナルは縦書き)。


▼特ダネを発信するタイミング (1999.5)


インターネット上で集客するにはブランドが威力を発揮する。
 
しかしネット先進国の米国でも、新聞社は知名度を有効に生かすことなく「紙の新聞」で出来ることをオンライン用に焼き直しているだけのところが多い。
 
その中で、名門シカゴ・トリビューン紙は、オンライン版専用の取材チームを組むなど新たなネット戦略を持つ新聞社として注目されている。 
 
トリビューンはインターネットを速報メディアと位置付け、専門チームを発足させた。米国の各都市にはニュース専門のラジオ局があり、鮮度の高いニュースを即時放送しているが、同社のウエブサイトはこれと同じ役割を果たす。
 
トリビューンのサイト(www.chicagotribune.com)の「メトロ・デーウオッチ」と呼ばれるセクションは、地元ニュースを随時更新し、「シカゴの最新ニュース源」を目指している。
 
オンライン版の記者は少ない人数でさまざまな仕事をこなすが、朝刊紙であるトリビューン本紙の記者との連携は重要。事件現場の社会部記者から得た情報や引用可能なフレーズを基にオンライン用に記事をリライトすることも多い。 
 
では、特ダネをキャッチした時に、 直ちにオンラインに流すのか、それとも本紙の印刷まで待つのか。 
 
インターネットでスクープを報じれば、他の新聞社にすぐ追い付かれてしまい、本紙の競争に影響が出かねない。特性の違う二つの媒体を持つ新聞社は、この悩ましい問題にどのように対応しているのだろうか。 
 
メディア評論家のスティーブ・アウティング氏によると、トリビューン紙には次のような方針がある。
 
(1) 記者発表や会見の前に内容を知った場合、ためらうことなくメトロに流す。その際「他社に先駆けて報道している」と明記する
(2) 独占的に知り得た内容があり、他のメディアに気付かれる心配がない場合、翌日朝刊の輪転機が回るまでオンラインでの報道は控える
 
メトロの狙いは「シカゴに関するニュースは、このサイトを見れば十分」という内容を持つことらしい。
 
想定される利用者は、仕事時間中にテレビを見たり、ラジオも聴けないビジネスマンが中心という。自分の席で堂々と新聞を広げるのも抵抗があるとしたら「パソコンでニュースを読むのが最適」ということになるのだろうか。 
 
実際、メトロの早番の記者は月曜から金曜まで、早朝六時に出社するが、これはビジネスマンが仕事に就く午前九時までに、その日一番のニュースを届けるためという。 
(了)
 

▼新聞社を去る理由 (1999.6)


「どの新聞社もインターネット計画を実施したい、その必要があると言う。でも具体的な行動は起こさない」
 
「新しい技術に対する新聞社の意思決定のスピードが遅すぎるため、私は日々幻滅していった」 
 
「会議を開けば、情報技術(IT)が新聞に及ぼす影響について議論するが、実効性が伴わない」 
 
米国では、インターネットに即応した新聞社像を示せない新聞社に対して焦りを抱く記者がIT企業に転職するケースが増えている。冒頭のセリフは、新聞社を去った記者たちの発言。最新メディア事情を紹介するウエブサイトmediainfo.comのコラムに紹介されている。 
 
インターネット上で、ニュースを流すのは、新聞社や通信社とは限らない。ヤフーやライコス、インフォシークなどインターネットを専門にする会社がニュースを「売り物」に競い合っている。
 
このため、ITに明るく、取材・編集技術を身につけた人材が、このようなベンチャー企業に「頭脳流出」しているとコラムの執筆者スティーブ・アウティング氏が指摘する。 
 
「新聞社の幹部は、ITの企業に転職するジャーナリストが何を考えているか知るべきだ。新聞社のニューメディア対策が、お粗末であり続けるなら、今後も記者の新聞社離れが続くだろう」 
 
コラムには、二十二年間記者を務めた後、新聞業界を去ったロン・ウルフ氏のケースが紹介されている。
 
ウルフ氏は、最後の職場となったサンノゼマーキュリー紙で、ハイテク関連のニュースをカバーしていたが、経営学を学ぶため一九九四年、大学院の経営学修士(MBA)コースに入学。しかし、九七年に卒業した時には、新聞社に戻らず、ベンチャー企業を起こした。 
 
「大学で企業戦略、組織プレー、起業家精神、技術革新など経営者にとって必要なことを学ぶにつれ、新聞社で働くことに我慢できなくなった」とウルフ氏はいう。 
 
同氏は、新聞業界がインターネットをうまく取り込めない理由を以下の七点に整理した。 
 
(1)新聞業界は、気の遠くなるほど遅いペースでしか変わらない
(2)編集局の原理と一般企業を動かす原理との差が大き過ぎる
(3)ニュース配信の技術革新は、業界外の人がやるという現実(これまで数十年に渡って例外がない)
(4)人材難
(5)「変革を嫌がっているのは一般職員であって自分たちでない」と幹部が開き直っている
(6)研究開発や社員の研修に新聞社が投資しない
(7)記者や職員を細分化した専門スタッフにしてしまい、変革の大波を乗り切る柔軟性を欠いてしまった 
(了)

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