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猫の分離不安と向き合う

梅雨入り前の、薄曇りの午後。ひさしぶりにnoteを開いて、テキストを入力してみる。

私が猫のたまちゃんと暮らし始めて3カ月になろうとしている。さきほど、自分が以前に書いた記事を読み返してみて、ああ、あの頃は毎日こんな感じだったよなあ…と懐かしく思う。お転婆娘も最近ではめっきり大人しくなって、今は窓辺でスヤスヤと眠っている。

この前までは、私の行くところにはトイレでもお風呂でも、どこにでもついて回って、それがあまりにしつこいのが悩みだった。ちょっとでも私の姿が見えないと大声で鳴き叫び、私に身体をくっつけていないと安心できない。私の膝の上で身体を密着して安心している様子はかわいいけど、どうも赤ちゃん返りのような雰囲気で、はたして猫にも赤ちゃん返りってあるのだろうか? と思い、例によって検索エンジンに「猫 赤ちゃん返り」と入れて検索すると、あったあった、たくさんあった。やっぱりそういうことで悩んでいる人多いんだ。

実際に赤ちゃん返りしたかどうかはわからないけど、どこにでもついて回ったり、飼い主の姿が見えないと泣きさけぶような状態を「分離不安」というらしい。完全室内飼いの猫によくある症状で、先月私が悩まされたソファでの粗相も、分離不安により引き起こされることがあるらしい。

そう聞いて、私は悩んでしまった。シェルター時代の生育環境も要因ではあっただろうけれど、うちに来てから私はこの子を構いすぎただろうか。過剰に甘やかしてしまっただろうか。行動療法として、大声で鳴きさけんでいるときに、心を鬼にしてしばらく無視をして、鳴いても構ってもらえないと学習させるという方法もあるらしいけど…。

ある日の深夜。リビングで鳴きさけぶたまちゃんの声が寝室まで聞こえてきて目が覚めた。ここで心を鬼にして無視する…ということも頭をよぎったけれど、私にはできなかった。眠い目をこすりながら寝室を出て、鳴いているたまちゃんのところへ行った。

心を鬼にする代わりに、頭をからっぽにして、自分の目の前にいる生き物にただ寄り添ってみることにした。私にぴったりと身を寄せてくるたまちゃんは、身を固くして、すこし震えていた。手を通じて伝わってくるのは、「さみしい」「こわい」という気持ち。たとえ猫であっても、今感じているこの感情に蓋をするようなことがあってはいけない。この部屋が安全な場所で、一人でいても大丈夫だということが感じられるまで、いくらでも甘えさせてあげようと思った。鳴かなくなるのは、鳴いても無駄だと学習したからではなくて、鳴く必要がないんだと理解したからのほうがいいと思った。

目の前で起きていることを、「分離不安」とか「赤ちゃん返り」と解釈することもできるけど、あえてそういう定義を保留して、ただ目の前で起きていることに耳を傾けてみよう。私がそう思ったのは、私の生業のアレクサンダーテクニークの師で、敬愛するトミー・トンプソンから学んだことである。

この間、オンラインでボストンにいるトミーのグループレッスンを受ける機会があった。トミーのレッスンはいつも哲学的で、いつも人の存在の深いところに触れてくる。レッスンにはみんなそれぞれのテーマを持ち寄って参加していて、その日の私のテーマは、自ずと猫との関係性についてになった。自分が猫の問題行動に悩まされていて、ずっとネット検索をしていることなどをトミーに話した。そんな話をしたのは、猫の行動を変えたいわけではなく、猫の「問題行動」に対して、自分がどのように反応するかについて、興味があったからだった。

この日のオンラインレッスンの最中、たまちゃんはずっと私の膝の上にいて、頭を私の腕にぴったりとくっつけていた。全員で行った瞑想的なワークで、手を自分の胸に当てるという動作をした。その動作をする瞬間、私は不安を感じた。ここで私が手を離したら、たまちゃんがかわいそうだな…。

そこで私はハッとした。「分離不安」なのは、私じゃないか。

「問題の答えはインターネットの中ではなく、自分の中にありそうだね」とトミーは言った。

私の悩みは「定義を保留」したことで、問題という形の鋳型にはめられることなく、小さな心の動きや出来事に分解された。それがそのまま自分の中をふわふわと漂っている。何かそれですごく解決したわけではないけれど、ギュッと握りしめていたものが、ふわりと手を離れたような感じがした。

それからひと月が過ぎ、たまちゃんの「分離不安」はいつの間にかなくなった。今も深夜に起こされることはたまにあるけど、私の姿が見えなくなっても、以前ほどは大騒ぎしなくなった。私の姿が見えなくなっても、必ず帰ってくることが分かって、待っていられるようになったと思う。

この頃、たまちゃんはとても賢いということが分かってきた。私が集中しているときは大人しくしていて、甘えていいタイミングを見計らっている。それが本当にぴったりの間合いで、驚いてしまう。この前も私のオンライン研修中にじっと押し入れの中で待機していて、終わってパソコンの電源を切るやいなや押し入れからタン、と飛び出して、シュタッと私の膝の上に飛び乗ったかと思うと、ぐるんと丸くなった。タン、シュタッ、ぐるん。この間、わずか3秒。ういやつじゃ…。

そのとき、私の脳内にたまちゃんの歌が降りてきたので、ここに披露します。

♪うち~のニャンコはいいニャンコ~(えらいぞー、えらいぞー)
♪Zoom会議を邪魔しない~(えらいぞー、えらいぞー)

勘のいい方はもうお分かりですね。フニクリフニクラ、もしくは鬼のパンツのメロディーでどうぞ。ちなみに、歌はここまで。続きはまだ降りてきていません、あしからず(^^)

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最後に、トミーのアレクサンダーテクニークにご興味がある方、トミーの書いた本をご紹介します。アレクサンダーテクニークは知らなくても、マインドフルネスに興味のある方なら、興味を持って読んでいただけると思います。おすすめです。

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久しぶりの夕暮れ写真。日没後の静かな時間。

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