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12月、暴力の連鎖について考える

この1週間のうちに、暴力の連鎖について考えさせられる映画を立て続けに3本見た。決して意図的にそのテーマを選んで見たわけではなかったんだけど、この偶然には何か意味があるようにも思えて、不思議な思いがする。

1本目が『ガンディー』。少し前にBSプレミアムで放映されていたのを録画しておいたもの。「インド独立の父」と呼ばれるガンディーのことは、とても有名な人なので存在は知っているけれど、実は表面的なことしか知らない。ネルソン・マンデラ大統領と並んで、深く知りたい人物だった。

映画はガンディーの暗殺という衝撃的なシーンから始まり、次に時代をさかのぼり、若き日からの足跡をたどっていく。ガンディーが活躍した時代は、大英帝国をはじめとするヨーロッパの大国が植民地支配をしていた時代。それは今から100年も前のことだけど、映画で描かれるインドでの人種差別や女性差別、貧困、宗教対立、暴力の応酬は、まさしく2020年の今の時代を見ているようだった。

ガンディーと言えば「非暴力、不服従」。その思想の有名さとはうらはらに、私の理解はとても表面的なものだった。印象的なシーンがある。インドの人々が自らの人権を掲げて列をなす。数人が一歩前へ出る。殴られて、倒れる。それを見ていた次の数人がまた一歩前へ出て、また殴られ、倒れる。殴られるのが分かっていても、一歩前へ出る。それが延々と繰り返される。やがて殴る側の表情に変化が生まれる。自分がしていることの愚かさに気づいたとき、変化せざるを得なくなっていく。何という革命だろう。

ガンディーが暗殺されたのは、インド独立後の1947年。彼がもう少し生きていたら、世界は違ったものになっていただろうか…。でもそうは思えない。世界を変えるのは一人の偉大な指導者ではなく、一人ひとりの変容だと思うから。ガンディーをもう一度思い出すことが、今こそ必要なのだと思った。

2本目が、アマゾンプライムで見た『風に立つライオン』。さだまさしの同名の歌を元にした映画で、ケニアで国際医療活動にあたった実在の日本人医師を描いた物語だ。最近、ドラマの『JIN~仁~』にハマっていたので、主演の大沢たかおつながりで見たのだった。

映画ではゲリラ戦で負傷した少年たちが、大沢たかお演じる日本人医師に、段々と心を開いていく様子が描かれる。でも傷が癒えた後、また戦闘に戻り命を落とす少年たちもいる。孤児の彼らには帰る家もないし、生まれた時から暴力しか知らない。9人の命を奪った自分に将来はないと悲観する少年に、「医者になって10人の命を救えばいい」と諭す日本人医師。その姿にガンディーの姿を重ねた。どんなときでも自分には選択肢があるのだと気づくと、そこに生きる希望が見えてくる。

3本目が『プリズン・サークル』。罪を犯した受刑者が、対話をベースにした回復プログラムにより自分の罪や心と向き合い、変容を遂げていく姿を記録したドキュメンタリー映画だ。気になっていたのに見そびれていたところ、先日最終日だと聞いて急いで見に行った。

犯罪者、と聞くと自分とは違う世界の人間のように思えてしまうけど、回復プログラムに取り組む人たちはみな、どこにでもいそうな普通の青年たちだった。対話を通して浮かび上がってくるのが、彼ら自身が加害者である以前に被害者であり、本来必要なケアを受けられずに生きてきた人たちだということだ。

私たちは事件が起きた時、加害者の側から世界を見ることはほとんどない。だからとても知りたかった。なぜ盗むのか。なぜ暴力を振るうのか。少なくとも私は、映画を通して、正直な心のうちを聞かせてもらえてよかったと思う。それがどんなものであっても。

個人的なことになるけど、映画を見ながら思い出していたのは、私が子供の頃に学校で受けていたいじめのことだった。なぜ彼らは私にあんなに執拗にいじめを繰り返したのか。なぜ私は一方的にあんな目にあわなければならなかったのか、ずっと理由を知りたいと思っていた。本当の理由を。大人になって、いじめられたのは自分のせいじゃないと理解できるようになった今でも、その暴力や攻撃性の源がどこにあるのか分からないまま生きるのは、地雷原を歩くようで苦しかった。

だから私は映画の中で受刑者たちの声が聞けて嬉しかった。おそらく、執拗に私をいじめた彼らも、世代を超えて引き継がれてきた暴力性の被害者であったのだろうと想像した。暴力の構図が見えてきたことで、恐怖が共感へと変わっていった。彼らも苦しかったのだ。私と彼らは別々の世界に住んでいるのではない。いつしか私も彼らと一緒に、円形に並べられたイスに座っているような気持になった。

どうかみんなが苦しみを語る場がもっと増えてほしい。そして他者の苦しみを聞く場がもっと増えてほしい。苦しみをなかったことにするのではなく、発せられた言葉や声に温かく耳が傾けられることで、それが淡雪のように解けていきますように。

みんなが一緒に生きていけますように。

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