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猫が飼いたい

猫が飼いたい。

この思いを持ち続けてから、一体何年になるだろう。

高校まで暮らした実家には猫がいた。わが家はなぜか野良猫がよく来る家で、庭先には色んな猫たちがひんぱんに顔を出し、「シロ」とか「アオ」と名前をつけてかわいがっていた。

ある日、中学生だった私はその中の1匹を家に入れて飼いネコに昇格させた。最初は猫を家に上げることに難色を示していた親も、なんとなく認めてしまい、以来わが家は猫を飼う家になった。

高校卒業を機に実家を出て以来、猫とは無縁の生活。それからはや幾年月…。ときどき猫を飼いたいという思いが湧き上がっても、会社勤めの一人暮らしで、家にはほとんどいない生活。猫をひとりでマンションの室内にずっと閉じ込めておくのがかわいそうだし、自由に外泊したり旅行したりができなくなってしまうのも嫌だし。と、なんだかんだ無理だと理由をつけて、飼いたいという思いを打ち消してきた。

もちろん、世の中には室内飼いをしている人たちがたくさんいることは知っている。今住んでいるマンションにも小型犬を室内飼いをしている人がいるから、マンションの規則としても問題ないはず。

でも生き物を飼うことの責任の重さを考えると、どうしても踏みとどまってしまうのだった。なにしろ私はサボテンを枯らす女だし、ポトスの鉢植えも面倒をみきれず、蔓ボーボーの伸び放題でジャングル化させてしまった。そんな自分には阿寒湖のマリモが精一杯なんじゃないかと…。

しかし。この頃「飼ってみたら?」と、心の中で小さな声がささやくのである。

それは平日朝の目覚まし時計みたいに、耳元で鳴り続ける。もう聞こえないふりをするわけにもいかず、私はその音を止めるか、起きるか、とにかく何らかの行動を選ばなければならなかった。

というわけで、先日、保護猫カフェに行ってみた。人生ではじめての猫カフェ。どんなところだろう、とドキドキしながら、禁断の扉を開けると、そこは…

ジャーン! あら、猫まみれ。でも昼間だから、大半の猫は寝ている。寝ている猫をかまってはいけないというルールがあるので、起きている猫に目を向ける。「触れてもいいですか?」とあいさつする意味で、鼻先に手を近づけてみる。興味なさそうに無視する猫には手を出さず、クンクンと匂いをかいでくれる猫に、そっと触れてみた。やわらかい。

その部屋には私の他にもう一人。その人は猫カフェの常連さんらしく、おもちゃで猫と遊んだり、積極的に話しかけたり、スキンシップを取ったりしていた。猫にも色んな性格があって、活発に動き回るのが好きな猫もいれば、じっとしているのが好きな猫もいる。人間も同じで、見ていると、その人は猫と触れ合って遊ぶのが好きなタイプのようだった。それでいうと、私は静かに猫をなでていたいタイプ。そういうことが分かっただけでも、まず来てみてよかったと思った。

スタッフの人に撫でられるのが好きな猫を教えてもらった。その猫は保護されて1週間ほどしかたっていないらしく、まだ緊張しているのだという。私が撫でると、少しだけ身を固くして、このニンゲンは安全だろうかと探っている様子。そのうちに大丈夫だと判断したらしく、イスから下りて私の膝の上に乗ってきた。やった~! もふもふの毛足の長い白黒猫。私が話しかけると、じっと目をみつめかえしてきた。そうか、話しかけられると嬉しいのだね。ニンゲンと同じだね。

膝の上に乗せた猫の重さ。手のひらの下で感じる呼吸。毛足が長いから、カイロみたいにあったかい。いのちを膝の上に乗せているという感覚が肌を通して伝わってきて、心がキュッ引き締まる。

カフェは時間制なので、頃合いを見て猫を膝から下ろし、バイバイを言ってイスの上に戻した。毛足の長い白黒猫ちゃんは、イスから半ばずり落ちた体勢で振り向き、私をじーっと見つめて見送ってくれた。

さて、これからどうしよう。…と思いつつ、キャットタワーやら、脱走防止柵やらをスマホで検索する私なのだった。

昨日の夕陽。ずっと左の建物の陰に隠れて見えなかった太陽が、コニャニャチワ!と顔をのぞかせる。冬至を超えて、春分へ、これから太陽はどんどん右の方に帰ってくるはず。

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