新卒時代の思い出と天啓について

過日、前前職、新卒で入った会社の同期が転職するとのことで、送別会に行ってきた。

その会社は出版社で、資格書とかビジネス書を扱っている。もともとマスコミ志望だった俺が、流れに流れて何とか大学を卒業する年の1月に内定をもらって入った会社だ。

ビジネス書なんてそれまで読んだこともなく、当時は大した情熱持てずに、とはいえ残業だけはしたくないから、キビキビ仕事をしていた。

書籍のスケジュールは、企画から刊行までだいたい6ヶ月。この間、原稿をもらい、編集やカバーデザインなどを決めていく。こういう長期スパンの仕事を複数こなしていくから、どこかにガタが出ると全ての進行に影響が出る。案の定、ある書籍の進行で歯車が狂い、その後、無限残業地獄に陥ったので、2年ともたず転職した。

前置きが長くなってしまった。全く仕事に興味がなく、いち早く帰りたいので淡々と日々をこなしたことを書きたかった。

それが故に、同期との関わりも薄かった。「同じ会社の人」というそれだけでなんだか警戒心や心の壁が生まれ、本音で付き合えない。そんな感じ。同期は大卒が自分を含め3人、第二新卒枠が1人、転職が1人、専門卒が1人。大卒の3人で入社式の日の帰りに、新宿三丁目の中華料理屋で飯を食った、そんなくらいしか同期で集まった記憶がない。それほどに関係性が薄かった。

自分がこうだからこそ、向こうも大して親密さなど感じていないんだろう、そう思っていた。が、今はちょっと違う。

俺が退職することになり、送別会のとき、俺が好きな広島東洋カープのタンブラーをわざわざ銀座のアンテナショップまで行って買ってきて、渡してくれた、そのとき、なんだか申し訳ないなと思った。だから、それ以降は何か連絡が来たら、それなりに気を使わずコミュニケーションするようにしている。まあ、それは申し訳なさを改めたことよりも、会社を辞めたからって方の影響がでかそうだが。

今回、転職をしたのは第二新卒として同期入社した男、Kとでもしておこう。

どことなく松重豊の面影を感じるKは非常に真面目カタブツという印象で、かつ若干年上だったこともあり、同期の中でもなかなかとっつきにくい、というか苦手だった。ことあるごとに唐揚げが好きみたいなアピールをしていたのも、気に食わなかった。だいたいみんな、唐揚げ好きだろ。

新卒で入った会社は、いちおう総合職採用なので、営業や編集、webメディア、はたまた校閲や総務人事などさまざまな部署に配属される可能性があった。

まあ特に興味もないジャンルとはいえ、さすがに自分の性格から営業でやっていける気もせず、なんかwebメディアの人たちはワイワイガヤガヤと馬が合わなさそうだったので、自分は書籍編集に配属されたらいいな、と思っていて、配属された。

Kは前職で衛星放送の制作会社かなんかに勤めており、何やら書籍編集をやりたいと意気込んで転職してきたと聞いていた。彼も無事、書籍編集に配属されたのだが、そのとき感涙しており、おいおいこんなところで泣くやつがおるかいと思ったのが懐かしい。

その後、別に絡みもなく、そして自分の送別会の日にタンブラーをくれたのが、このKである。以降はちょこちょこと連絡を取り合い近況報告を交わしていたが、率直なところ、彼が退職する、送別会をやるから来て欲しいという知らせを聞いたときは驚いた。

泰然自若、というほどでもないが置かれた環境で粛々と丁寧に仕事をこなす、そして何より真面目な彼が、まあ給料もそんなに悪くない、かつやりたかった仕事である会社をなぜ辞めるのか。送別会ではそのことを聞こう、それだけは考えていた。

「送別会に行ってきた」から始めて、ようやく送別会の話ができる。その日は消息不明な大卒同期の1人を除き、4人が集まった。

同期でまだ在籍していたのは、Kともう一人の大卒同期だけ。俺の転職を口火に、他のメンバーも続々と転職した。

話を聞くと、彼の転職のきっかけは、ある晩、急に天啓があったかららしい。その天啓をもとに転職サービスなどを調べると、まさに応募条件が自分にぴったりの求人があったんだって。しかもそれが言わずと知れた大手出版社で、そのまま受かっちゃうんだから本当に天啓という他ないだろう。

とはいえ、まあ、色々聞いていくと会社への愚痴もぎょうさんあるようだった。もう一人、会社に残った同期の口からも、愚痴、愚痴、愚痴。こんなに文句があって、よく辞めないなあと思う。

その同期曰く「まあそれなりに給料ももらっているけど、仕事をする意義があまりわからず、充実感がない。何か自分をもっと実現したい、社会に役に立ちたい」みたいなことを言っていた。働くということに対して全く意義を感じず、ただ日銭を稼ぐために時間を切り売りして、それを割り切っている自分からすると、何万遍悟りを開いてもたどり着けない境地だと思う。

こういう、自分の人生の多くの割合を仕事にベットしている人って、割と多数派なんだろうか。その同期は、年齢にしてはそこそこのポストに出世しており、給料と労働時間のバランスもまあまあで、それでも満足しないってすごいと思う。でもそういう人が多数派なんだろうか。だとしたらめんどくせーと思う。働きたい人は働いてもらって結構だが、働きたくない人がもっと楽に過ごせる社会になってほしい。

辞める同期の話をしようと思っていたのに、話がとっ散らかってきた。何が言いたいのかわからない文章になっている。それは良くないことだ、そう思うのをやめることから、自由な社会を作っていけるんじゃないかと思う。だから唐突に、本日はここまで。Kに幸あれ。

(文責:ぺてん師)

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