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自作解説①:仮想都市の警察官~実像のない東京と、感情のない少女~

自分の作品に登場する背景知識などを語って、備忘録にすると同時に、他の人の創作の何かしらヒントになればという思いでこのシリーズを始めます。
はじめは長編1作目「現世【うつしよ】の鎮魂歌」であったり、長編3作目「妖獣怪奇譚~争われしアヤカシの血~」であったりの解説にしようと思ったのですが、なにぶん昔に完結させた作品で、しかもこの手の解説は過去に何度かやっている作品たちでもありますので、このシリーズからは除外しました。

○仮想都市とは?
物語の根幹をなすのが、「仮想都市」という概念。正確にはこの呼称はタイトルにしか登場せず、作中では「虚構世界」という表現になります。では虚構世界とは何ぞやというと、「虚数を具現化した世界」。作中でもその思想について、ヒロイン本人の口から語られています。
「i^2 = -1」
「i^4 = 1」
2乗して負の数になるような実数は存在しません。そこで2乗して-1になる数が定義され、複素数という概念の根幹をなしています。それが虚数単位:i。imaginaryの頭文字iですね。
通常の現実世界と虚構世界には明確な区別があり、不用意に境界を超えると身体に深刻な負荷がかかるようになっています。より危険なのは現実世界→虚構世界の移動であり、基本的には自己の存在を保てなくなり消滅します。これを防ぐため、虚構世界と化した東京に出入りできる手段は新幹線一つに絞られ、虚構世界に立ち入った段階で自動的に人間のコピーが作成され、東京駅地下の巨大空間に整然と保管されます。すなわち、虚構世界の中では行動する本体と地下で眠るコピーを合わせて初めて一人の人間になる、というシステム。結局虚構世界それ自体、恒久的に維持するには限界があり、作中では瓦解するのですが。本体とコピーで2つ用意しても「-1」、すなわちまだ現実世界の人間そのものには取って代われないという皮肉にもなっています。
ちなみに地下に保存されているコピーの方は、動けないというわけではなく、動かしていないだけ。本体が破損するのはもちろんのこと、コピー側に何らかの異常事態が起こっても、存在丸ごと消えてしまいます。それを防ぐために、片方は安全な場所に保存されているというわけです。
では本体とコピー3体を用意すれば、「i^4 = 1」となって現実世界にも等しくなるのでしょうか?答えはおそらくNOです。東京都心部の昼間人口は800万人。我々の世界と同じように、東京都外からも通勤通学で都心部に出入りする人間がいるとして、少なくとも800万×3=2400万体の人間の身体を保存する場所がいったいどこにあるのか……?ただしこの問題が解決できれば、虚構世界で暮らすというのも、現実味を帯びてくるかもしれません。

〇「創生」と「壊生」とは?
本作のヒロイン・凛紗(りさ)は、政府の人間と名乗って主人公とともに暮らし始めます。主人公と手をつなぐことにより、彼の「データ量」を受け取り、自由に物体を構築して敵と戦う。ある時は武器であったり、またある時は巨大ロボットだったり、形成するものは様々です。
のちに凛紗の持つこの力は、「創生(そうせい)」と名付けられていることが明らかになります。また、敵の一人が有していた能力で、対をなすのが「壊生(かいせい)」。この二つの能力のモチーフは、言わずもがな「創造と破壊」です。
「創生」は自分あるいは他人のデータ量という、質量の「ない」ものから、具現化した物体を生み出す力。まさしく、無から有を生み出す神にも等しい力。対して「壊生」は、異空間と一時的、部分的に接続することでその空間を破壊し、きっかけを生み出してから具現化した物体を生み出す力。概念こそ対をなしているものの、その優劣を比べれば明らかに「創生」に分があります。
ただし、力の源となる「データ量」が、虚構世界において体力に類似する概念であることは作中でも説明がありましたが、現実世界ではどうなるのか?
実はこの答えは、本作の中では出ません。本作は虚構世界の中での話であって、現実世界が登場するのはほんの一部のシーンのみだからです。いろいろあって凛紗も現実世界の人間になったのち、その答えは次作「絶望捜査官」の外伝で明らかになります。
「絶望捜査官」の世界では、絶望という概念が人々から滲み出して瘴気として蔓延しており、人によってはそれを視認することもできる。そんな暗い世界観です。そこで凛紗は、自身の能力を再解釈し、データ量以外のものも力の源とすることに成功したのです。データ量それ自体は、虚構世界の中での単なる通貨や、構成単位であったに過ぎず、世界が変われば当然変わるもの、というふうに解釈を拡張したわけです。結果、虚構世界にいた頃と同等かそれ以上の威力を振るう能力となり、「絶望捜査官」の世界に大きく貢献することになりました。
以前に別の記事で触れましたが、のちに彼女は並行世界を渡り歩き、この宇宙に数多と存在する並行世界に関する理論を打ち立てます。どの作品の世界に渡っても、圧倒的な天才として実績を残すその様は、時として書き手の私を救ってくれました。つまり、凛紗を自分と同じ「世界やこの物語についておおよそ全てのことを知っている人間」にし、それを比較的すぐに気づいたと設定することで、簡単に「作者を軽々と超える天才」を作り出せるのです。度々物書き界隈では、「作者を超える頭のいい人間は作れない」ということが話題になりますが、これは一つの解であるようにも思います。もちろん作者自身が頭がいい人間であればそれで解決かもしれませんが、キャラクター造形が楽であるのに越したことはありません。

というわけで、私の長編5作目「仮想都市の警察官〜実像のない東京と、感情のない少女〜」の根幹をなす謎について、解説をしてみました。
こういった作品の根幹をなす概念が登場する場合は、私も分かりにくいことを前提になるべく説明するよう心がけています(もちろん一気に語りすぎると冗長になるので、分散させてはいますが)。ですので、「仮想都市の警察官」に続く「絶望捜査官」や「天使管理官」では、このnote記事で語るほどのことはないと考えています。次に語ることがあるとすれば、おそらく18作目「反転世界の救世主〜繰り返す時間の中で、未来をつなぐ旅〜」になるでしょう。1話2000字程度という縛りを設けたうえ、R18作品でもあることから、解釈が難しいものになったという自覚があります。またいつか、この作品について何かしら語れればと思っています。
それでは、また別の記事でお会いしましょう。


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