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カテドラルで聴く年末の風物詩 メサイア アメリカ・オーケストラ漫遊(12) Toledo, OH

 アメリカでは多くのオーケストラが11月から年末にかけてヘンデルのオラトリオ「メサイア」の演奏会を開催する。ちょうど日本で「第九」が演奏されるのと同じ感覚だ。
 数あるメサイアのコンサートの中でも、面白そうだと思ったのがこのコンサート。自宅から1時間ほどの街トリードで開催されたコンサート、会場はRosary Cathedral、この地域の司教座聖堂である大きなカトリック教会だ。
 100年以上の歴史のある石造の教会、100年前にゴシック様式なのだから、ヨーロッパからしたら時代錯誤も甚だしいということになるのだろうが、そういう歴史的建造物がアメリカにはないのだから仕方がない。そういう教会が自分の街にあったら有難いし誇らしいことだろう。 

2023年12月3日 トリード交響楽団

12/3/2023, Sun, 4:00 pm, @ Rosary Cathedral, Toledo, OH
Toledo Symphony
Arain Trudel, conductor
Richard Schnipke, Chamber Choir Director
Pascale Beaudin, soprano
Meridian Prall, mezzo-soprano
Brian Skoog, tenor
Geoffrey Schellenberg, baritone


  • HANDEL's MESSIAH

 教会の大聖堂が会場ということで、座席は教会の長椅子で自由席。会場に着いたのが少し遅めだったので前方はだいぶ埋まっており、中央の座席を確保。オーケストラは祭壇の手前に配置され、そのさらに手前にコーラスが並ぶという配置。客席と同じ高さなので、コーラス、オーケストラはほとんど見えない。オーケストラは20人程度、コーラスは24人程度で、会場を考慮しての編成なのだと思われた。
 会場でもらえるプログラムには歌詞が書かれていたものの、印刷して持参した歌詞の対訳が大変役立った。初めて生で聴く「メサイア」のため、ストーリーを追うのに大変助かった。参考にしたのはこの訳だ。

 英語だから(ドイツ語とかラテン語と比べて)わかりやすいのは間違いないが、とはいえ、ヘンデルの時代の古い英語が使われており、さらには聖書用語が多いから難しい。英語の歌詞がわかっていても、聴いているだけでは歌詞を追えなかった。オラトリオにそこまで馴染みがなかったこともあり、単語の切れ目はわからない、単語の途中の母音で延々と伸ばす、同じ歌詞を何回も何回も繰り返す、といったこと自体が新しく感じた。本当に歌詞対訳は助かった。ただ、ある程度のキリスト教の理解でないと、日本語訳を見ても何を言っているかわからないということになるのだろう。
 演奏が始まると、合奏のボリューム、コーラス、ソロとのバランスはちょうど良く、教会の高い天井に響く音楽が美しく、本当に飽きることなく聴き入っていた。全曲を演奏すると2時間半という長大な曲なのでコンサートでやるときは途中何曲かカットして2時間程度に収めるのが一般的なようだ。3部構成の第2部の終わりに、多分誰でも知っている「Hallelujah(ハレルヤ)」がある。この曲のときだけ聴衆が立ち上がるという、暗黙のルールがあるらしい。それが一番の驚きだった。日本でもそうしているなのだろうか。
 今回は初めて「メサイア」を聴いたが、この長大な曲をアメリカ中どこに行っても聴けるというのは、アメリカのクラシック音楽の底力を見た思いだ。日本で年末の風物詩としてやるにはいささか宗教的すぎるきらいがあるし、日本で「第九」が定着したのはコーラスのある大曲で宗教的すぎないためではないか。メサイアは単純に長いし、歌手、コーラスの負担も大きいのだろう。さらにこの音響空間で聴けるというのはなかなかない機会だった。次回聴くことがあれば、それまでに歌詞、曲について勉強してから行きたいと感じた。

聖堂後方

 

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