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移民施設で出会った印象深い人々について


食事付き、無料の宿泊施設

移民支援のボランティアに行った話の続き。

支援団体パトロナスには、野獣列車への食料支援だけでなく、もう一つ重要な役割がある。それは「宿泊場所の提供」だ。
パトロナスの施設には合計25人ほどが宿泊できるスペースがあり、メキシコから北を目指す移民たちがここへ一時の休息を求めてやってくる。パトロナスでは彼らに無料で朝昼晩の食事を提供し、希望すれば長期間ここにいることもできる。
僕がいた一週間の間にも7人の移民がここに滞在し、彼らとゆっくり話をすることができた。

移民用の宿泊施設
宿泊施設に併設されたキリスト教のチャペル
人数が多いときはここにも泊まることができる
洗濯スペース

移民の変化 表情が柔らかに

移民たちが最初にパトロナスの門をたたくとき、みんな独特のオーラをまとっている。口数は少なく、表情はこわばり、緊張感をまとい、目がギラギラしている。それだけ周囲に警戒しながらここまで歩いて来たのだろう。

それがこの宿泊施設で数日過ごすうちに、緊張感がなくなり、次第にしゃべる量が増え、笑顔が増え、柔らかなオーラに変化する。出発する朝、みなHPを回復したような笑顔でこの施設を後にする。パトロナスが持つ魔法のような力だ。

食事をする移民の方々 奥はパトロナス代表のノルマさん
食事を作るパトロナスのおばちゃんたち

道中で意気投合した中米移民3人組

僕が話を聞くことができた移民たちの境遇についてメモがわりに書いておきたいと思う。

ある日、中米からの移民3人組が到着した。彼らはメキシコにたどり着くまでの道中で知り合い、一緒に北を目指すことにしたという。

そのなかの一人、ホンジュラス出身の30代の男性は、一度アメリカで働いていたものの、不法滞在が見つかりホンジュラスに強制送還されたらしい。今回は正式な書類を持っているので問題なく入国できると語っていたが、実際にはどうかわからない。

ニカラグア出身の40代の男性は、メキシコ北東部のモンテレイか、西部のミチョアカン州・ハリスコ州あたりで仕事を探したいと話していた。彼によるとメキシコ西部には正式な滞在許可を必要としない農業関係の仕事がたくさんあるらしい。彼のようにアメリカを目指さずメキシコに根付く移民も多いという。

マラリア検査を拒む男性

この3人組が到着した翌日、ベラクルス州の保健局の人たちがパトロナスにやってきた。新しい移民が宿泊する場合、こうしてマラリアの検査をすることが義務になっているという。中米からメキシコにマラリアを持ち込ませないようにするためだと保健局の人たちは教えてくれた。

保健局によるマラリア検査

たが、移民のうちの一人が検査を受けたくないと主張し、結局最後まで拒み続けた。彼の境遇を想像するに、せっかく母国からここまではるばるたどり着いたのに、この検査で病気が見つかって足止めされたり国に戻されたりしてはたまらない、という気持ちだったのだろう。
彼ら中米移民3人組は3日間滞在したあと、北に向けて出発した。

パトロナスを出発する移民たち

夢破れホンジュラスに帰る青年

ある夜、かなり疲れた様子の青年が一人で宿にやってきた。僕はボランティアとして彼に食事とコーヒーを用意した。他のメキシコ人ボランティアと一緒に彼から基本的な情報の聞き取りをした。

23歳の彼は地元の治安悪化が原因で、妻と親戚とともにアメリカを目指すことにした。その後の経過は詳しくわからないが、結局アメリカには入国できず、妻と親戚はホンジュラスに先に帰ってしまったという。彼だけは残ってアメリカ入国の希望を捨てなかったが、結局願いは叶わず、今はホンジュラスの家族の元に戻る途中だそうだ。

彼は一晩パトロナスに宿泊しただけで翌朝、南に向けて出発した。

長年住み込みで働くボランティアたち

パトロナスは非常に居心地の良い空間だ。清潔な宿とおいしい食事が無料で提供される。「移民」と一括りにされるのではなく、「マリオ」「エドガル」などそれぞれ個人の名前で呼ばれ、人間性と誇りを取り戻す。上の短期滞在の移民たち以外にも、すでに1ヶ月ほど宿泊している移民もいた。

メキシコ人のボランティアの人たち

居心地の良さはボランティアたちにも表れている。僕が滞在していた間、メキシコ人のボランティアが4人働いていた。
1人は大学を卒業してからもう10年も住み込みで働いている青年。
1人は弁護士として働いていたが退職し、2年前からここで働いている女性。
他にも、移民を研究する社会学者のカップルも来ていて、普段はメキシコシティーに住んでいるが7年前から定期的にボランティアとしてここに通っているという。彼らの人柄はとても親切で接しやすく、パトロナスの空間が醸し出す雰囲気の良さにつながっていると感じた。

パトロナスの代表ノルマさん(右から3人目)、20年以上働いているフリアさん(同2人目)、ボランティアの人たち


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