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俳句とエッセー⑨『 海 山 村 Ⅱ - 五人と一匹 』 津田緋沙子


   五 人 と 一 匹


鼓  打  つ  ご  と  く  叩  き  て  西  瓜  売  る

撫  子  や  稜  石  積  み  て  鳥  の  墓

風  に  揺  る  る  長  吉  長  兵  衛  へ ち  ま  棚

草  の  花  子  に  従  は  ず  鄙  暮  し 

無  言  て  ふ  万  の  声  あ  り  草  の  花

分  校  は  五  人  と  一  匹  草  の  花

天  高  し  神  棚  に  あ  る  宝  く  じ


   西  瓜  愛


 今年も西瓜の苗を五本植えた。師匠の教え通りに、何か埋める
のかという位大きな穴を掘り、鶏糞をたっぷり入れて土を被せる。
その上にしっかり苗を植え、祈りの手刀を切ってビ ニールの囲い
をつける。 この手順も三年目にしてスムーズになった。
 西瓜の生命力は忽然と目に見え出す。 ビ ニールの囲いの内では
のんびり伸びるが、囲いの上に蔓がひらひらするようになるとそ
の時である。ビ ニールを外してやると、喜びに溢れるようにぐん
ぐん伸び始めるのだ。ある時西瓜は夜も伸びているに違いないと
気になって夜の畑に行ってみたら、伸びていますともと言わんば
かりに蔓をぴんと張り、西瓜は夜目にも緑だった。
 西瓜の思い出は私には「家族」 である。若い父母や姉弟たちと
の昭和の暮し。 この年になっても鮮明なその思い出が毎年私に西
瓜を植えさせる。そして誰彼に食べさせて自分が喜びたいのであ
る 。
 さてこれから私は鳴を見張らなければならない。暑さの中、厚
い西瓜愛を抱いて熱い草をむしっている私である。  (了)


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西瓜ならぬ玉ねぎです。


早春の里


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