俳句とエッセー⑭『 海 山 村 Ⅱ - あ れ や こ れ』 津 田 緋 沙 子
あ れ や こ れ
若 竹 の 箸 の 香 れ り 山 の 飯
渓 谷 を 七 曲 り 来 る 鮎 の 川
古 里 の 川 に 父 と 子 鮎 を 釣 る
笹 芭 の 鮎 届 き た る 解 禁 日
金 魚 み な 名 前 で 呼 ば る 小 学 校
金 魚 屋 の 主 バ ッ ハ を 聴 く 青 年
空 蝉 や 子 の 残 し た る あ れ や こ れ
鮎 の 川
鮎釣り名人の顔が冴えない。鮎の棲む境川に川鵜が増えて、稚
魚を放流しても彼らに食べられてしまうというのである。川鵜が
見られるようになったのはここ数年らしい。川がどんどん変わっ
ていくよと言うロぶりからは川鵜のことだけではないと解る。
鮎釣り名人は、漁協から「あまり釣ってくれるな」と頼まれた
という逸話の持ち主である。少年時代は流れに石を積み、鮎を追
い込んで手で掴み取ったものだとか。古自転車の部品でのぞき眼
鏡を作ったり、取った鮎は笹竹に通すのが慣だったとか。そんな
話は何度聞いても楽しい。美しい川が目に浮かぶ。
境川は多良岳を源流とし、 町の中心を流れる川である。水量が
豊かで昔も今も水は澄み、初夏には蟹が乱舞する。しかし鮎は稚
魚の放流で生命をつないでいるのが現状だ。川が帰る海を失った
からである。鮎は、産卵された稚魚が海に下ってプランクトンを、
餌に育ち、春に遡上するから生息できなくなるのは当然と言える。
「上流をダムで切られ、下流は堤防で閉め切られ、 これで川と
言えるのかな」という言葉は実に重い。
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