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【医学論文】早期のソーシャルディスタンスは効果あり/強力なロックダウンは効果なし。ただし日本は…

今日は、医師・医療経済ジャーナリストの森田です。

今回は先日発表されました医学論文(自分の中ではかなり信頼度の高い論文)を紹介したいと思います。

論文はこちらで読めます(ブラウザがChromeだと自動で翻訳してくれますよ)↓↓


ま、内容は論文を読めば分かるのですが、皆さんお忙しいと思いますので、こちらで簡単にざっくりと要約し、ちょっと補足情報まで入れながら解説したいと思います。



■スマホの移動データを解析


この論文、何が凄いかといいますと、みんな大好きiPhoneのモバイル移動データを解析してるところです。

ロックダウンの効果を論じた論文は色々ありますが、ロックダウン政策の「強制力」や「期間」の差が、コロナ感染にどう影響したか、という論文が多いのです。しかし、我々が知りたいのは政策の強さや期間ではなく、その政策の結果「実際の人々の動きがどれくらい減って」、「その動きの減少が死亡率や感染率にどれくらい影響したか」、のはずです。

だって、どんなに強い政策(刑罰や罰金付きのロックダウンなど)が発せられてもそれを守らない国民が多い国もあるでしょうし、日本のように強制力のない「自粛のお願い」レベルでも国民がしっかりそれを守る国もあるでしょうから。ある意味、このスマホの移動データでの解析が、ロックダウンの効果測定としてはもっとも妥当なものだと思います。


しかし、国民個人個人の移動データなんてどうやって入手するのでしょうか?実はApple社はiPhoneを持っている多くの人々の莫大な位置データ・移動データを持っていまして、さらにこれを無料で公開しているのです。こんな風に。


このAppleのサイトで「Japan」と入力するとこんなグラフを見ることが出来ます。


スクリーンショット 2021-01-11 13.22.29


上記は日本人の移動データですが、これが世界各国で見れるわけです。こうしていろいろな国の国民の移動データを入手し、分析したのがこの論文ということです。国ごとの経済事情などの条件をなるべく均一にするため、分析対象は先進諸国(OECD37国)となっています。


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■死亡10人に達した時点と移動減少が始まる時点の比較


上記グラフのように各国国民の移動データを見ると、どの国もこの急激に移動が減る時期があります。2020年春先に世界各国で行われたロックダウンなどの政策が国民の移動を減らしたのですね。で、この論文はその「下落が始まるタイミング」と、「国民のコロナ死亡が10人に達したタイミング」を比較しています。

具体的にはこんなかんじ。

スクリーンショット 2021-01-11 19.20.49


で、この論文のメインの分析は以下の通りとなっております。「国民のコロナ死亡が10人に達した日」を基準日(ゼロ)として、その国の国民の移動減少開始が基準日より何日早かったか、それとも何日遅かったのか、これを横軸に、その結果その国の「人口あたりコロナ死亡率」がどうだったのか、これを縦軸に設定しています。

その結果がこちら。

スクリーンショット 2021-01-11 15.33.34


きれいに右肩上がりの相関関係がみられていますね。つまり、

国民の移動減少開始が早かった国ほど新型コロナの死亡率が低く、移動減少開始が遅かった国ほど死亡率が高い。

ということが、データでしっかりと示されたわけです。


ちなみに、この論文によりますと、逆に

ロックダウンの厳密さもロックダウン期間の長さも新型コロナ死亡率と有意な相関関係はなかった。

と結論づけています。(ちなみに丸の大きさは人口規模を表現していますが、あまり論文の論旨にまり関係ないので無視してください)


つまり、しっかりとデータをとって調べてみたら

早期の国民の移動減少は死亡率を低下させるけど、ロックダウンの期間を長くしても、刑罰や罰則でロックダウンの強制力を強くしても、死亡率を低下させる効果はなかった!

と言うことですね。興味深い結果です。

この分析モデルでは、計算上

「国民の実際の移動減少が7.49日遅れると、死亡者数は2倍になる」

と結論付けられています。



■ただし、日本は例外。


もうお気づきの方もおられるかとは思います。そう日本について。

…かなりの外れ値にいるんですよね。


スクリーンショット 2021-01-11 19.06.13


実は日本国民の移動減少開始は、死亡10人到達日より20日ほども遅いのです。でもそれにもかかわらず、死亡率は全くもって低い。

論文の中でも日本の特殊性はかなり意識されていまして、上記グラフの破線(近似直線)も外れ値である「日本」を除いて計算されていますし、「7.49日遅れると、死亡者数は2倍になる」という結論も「日本を除いて」計算されています。


よく見ると、日本だけでなくアジア/オセアニアの国(上記グラフの中の韓国・ニュージーランド・オーストラリア)は大体下の方に固まってるんですよね。

ということは、アジア/オセアニアの国々に対しては、この「国民の移動減少開始が早かった国ほど新型コロナの死亡率が低く、移動減少開始が遅かった国ほど死亡率が高い。」という結論は適用されないのかもしれません。

ただ、OECDに加盟しているアジア/オセアニアの国は4国しかなく、たった4つのサンプルだけで結論を出すのは拙速です。

ということで論文をよく読むと、OECD加盟以外の多数の国々もしっかり分析されていました。それがこちら。

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このグラフには、タイ・インド・マレーシア・シンガポール・インドネシア・フィリピンなど、OECD加盟以外のアジア各国も載っています。


ということで、このグラフを、

■アジア/オセアニアの国々

■それ以外の国々

で、分けてみました。(力技でそれぞれを白で塗って消しただけです。)


それがこちら。

アジア/オセアニア以外の国々

非アジア国


やはり右肩上がりですね。


アジア/オセアニアの国々

アジア国


ご覧の通り、全然右肩上がりになっていません。ほぼ横一直線、と言っていいでしょう。


つまり、

「国民の移動減少開始が早かった国ほど新型コロナの死亡率が低く、移動減少開始が遅かった国ほど死亡率が高い。」

という結論は、欧米などアジア/オセアニア以外の国々では通用するのかもしれないけど、アジア/オセアニアの国々はまた別で、


「移動減少が早くても遅くてもアジア/オセアニアの国々には関係ない。どちらにしても死亡率は低い」


ということが言えるのかもしれません。ま、後半部分は数学的な分析とかはやってない、あくまで感想レベルの話ではありますが。


どうしてアジア/オセアニア地域だけこうなるのか?


そう。なんでこうなるの? って思いますよね。

これはとても重要な問いです。

山中伸弥先生がおっしゃった「ファクターX」が何かあるのかもしれません。その候補としては、

■アジア・オセアニアにはBCG接種国が多いこと(ただしオーストラリア・ニュージーランドは現在全国民へのBCGを実施していません)

■人種の差(ただし、オーストラリア・ニュージーランドは基本白人系住民が多いですし、欧米在住のアジア系の方々の死亡率はそんなに低くありません)

■交差免疫(既存のコロナウイルスなどがこの地区でかつて流行していて、そのおかげでこの地区の住民には新型コロナウイルスにも免疫がついていた?)

などが挙げられますが、ただ現在のところまだよく分かってはいません。

ま、高度に発達しておおよそのことが分かるようになった現代医学とはいえ、全てがわかるわけではありませんから…この謎はもしかしたらしばらくわからないかもしれませんね。全身麻酔薬の作用機序だって、まだよく分かっていないのです。でも「統計」として効くことが判明しているので全世界で使われているわけです。

実は医学でもっとも重要なものは医学理論でも生理学的機序でもなく結果としての「統計」なのです。ですから、今回の論文のように統計としてでている結果は、理由がわからないから却下!とするにはもったいなくて、素直に受け入れて検討してもいいようにも思います。



なお、この論文は8月までのデータを元に分析が行われているもので、現在進行中の冬の感染爆発のデータは全く入っておりません。そこはご注意ください。(ま、毎日過去最多を更新していてニュースで大騒ぎの日本ですが、やはりアジアと欧米では感染数・死者数ともに桁が2つほど違っていまして…まさしく桁違いそのものです。ので、傾向としては変わっていないとは思いますが…でもちゃんと検証はされていないのでそこは断言は出来ません。)


以上、「【最新の医学論文】早期のソーシャルディスタンスは効果あり/強力なロックダウンは効果なし。ただし日本は…」でした。



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夕張に育ててもらった医師・医療経済ジャーナリスト。元夕張市立診療所院長として財政破綻・病院閉鎖の前後の夕張を研究。医局所属経験無し。医療は貧富の差なく誰にでも公平に提供されるべき「社会的共通資本」である!が信念なので基本的に情報は無償提供します。(サポートは大歓迎!^^)