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うらやましい孤独死【無料公開版】

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うらやましい孤独死【無料公開版(5)】

うらやましい孤独死【無料公開版(5)】

医学的正解の崩壊
夕張の医療現場での体験は本当に毎日が目からウロコだった。 それまで培ってきた医学的正解に基づく病院医療の世界がことごとく打ち砕かれた。 いや、「医学的正解」はそのまま変わらず厳然としてあるのだが、それを現場にどうやって落とし込むのか、そこに「正解がない」ことに、初めて気づかされたのだった。 たとえば、90代でアルコール中毒の男性・萩原さん。肝臓も肺もボロボロで体はもうとっく

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うらやましい孤独死【無料公開版(4)】

うらやましい孤独死【無料公開版(4)】

第2章 破綻都市・夕張でわかったこと。

 夕張に行こうと思った理由のひとつに「自分への負い目」があった。 それまで私は、自分の医療知識を深め、医療技術を磨くことこそが善だと思っていた。 そうすることが患者さんのためになることであり、ひいては国民の幸福に貢献することなのだと信じていた。 しかし、療養病院の大部屋で、ただただ白い天井を見つめたまま寝たきりの高齢者がずらっと並んで胃ろうから栄養を

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うらやましい孤独死【無料公開版(3)】

うらやましい孤独死【無料公開版(3)】



「うらやましい孤独死」の条件〜土喰ミツエさんのケース

鹿児島県の山間部にお住まいの土喰ミツエさん(ご家族からの許可をいただき実名表記)のケースは、まさにその2つを完璧に持っていた好例だ。しかも、2つ目の条件である「死への覚悟」がご本人だけでなく遠方の家族にもあった点は特筆すべきだろう。だからこそミツエさんは高齢独居で最期の瞬間も一人だったにもかかわらず、周囲から「うらやましい」と言われたので

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うらやましい孤独死【無料公開版(2)】

うらやましい孤独死【無料公開版(2)】



やはり「うらやましい孤独死」など存在しないのだろうか?

いや、そんなことはない。私は断言できる。それは実際にこんなおじいちゃんを知っ ているからだ。 彼は、「天涯孤独」だからこそ自分の人生の終わりを自分の意志どおりに全うするこ とができた。

「入院は絶対しない!」─ 90代後半の男性のケース
鹿児島の、とある医療機関で接した 90代後半の男性・田崎さん(仮名/特に断りがない場合、以降の患者

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うらやましい孤独死【無料公開版(1)】

うらやましい孤独死【無料公開版(1)】



まえがき
「うらやましい孤独死」
奇妙なタイトルの本を書いてしまった。 この本を手にとられた方はどんな思いでおられるのだろうか。もしかしたら「孤独の 美学」とか「孤高の生き方」などというポジティブな内容をイメージされているかもし れない。

たしかに、孤独を美化するような風潮も世間にはある。 最初にお詫びしておきたい。本書は決してそのような本ではない。 一言で言ってしまえば、本書でこれか

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