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台湾の神様に助けられた話(その一)

台湾でコンサルタントの仕事を始めて四年経ちました。その間に何度か、これは偶然にしては出来過ぎていると感じた出来事がありました。これは、もう、僕は台湾の神様に守られているのだろうと主観的に考えています。
その出来事のうちの一つを今日は紹介します。

地中連続壁工法を、どうする?

以前、このNoteで台湾の地中連続壁工法のことを紹介しました。この工法はヨーロッパで開発され、それを日本でも研究したものですが、日本では地下の構造躯体工事としては採用されなくなってしまい、その一方台湾ではもろもろの事情でスタンダードな工事手法として今でも盛んに用いられていると説明しました。
そのような事情の工法ですので、僕は日本の建築設計では設計したことも、見たこともありませんでしたし、そもそも地下の仮設工事というのは工事の施工業者の責任範囲で処理するようなものですので、建築士がどうのこうの言う問題でもありません。
ですので、4年前に台湾に派遣されて真っ先に直面するこの工事について、僕は知識は全く皆無、東京の本社に聞いても関連情報は全く得られないという状況でした。

台湾の友人が紹介してくれた土木技術者

台湾に来た当初、現地での交友関係を拡げようと"台湾さんぽ"というFBのグループに参加していました。このグループに投稿したことからチャットを始め、友人になった人間が何人かいるのですが、その一人にNさんがいます。彼女は日本の大学に留学、その後東京で就職し今は台湾に戻っているという人でした。

そんな彼女が、突然日本の友人を紹介すると言ってきたのです。なんでもその友人は土木技術者で中国語を彼女のところで勉強していたのだけど、近々日本に帰ることになったので、思いついて紹介してみたいと考えたと、そんな趣旨でした。まあ、そんなこともあるかなと会ってみることにしました。
翌日に台北駅近くのレストランで3人で合うことにしました。この土木技術者はTさんと言い、Nさんのもとで中国語の勉強をして、三ヶ月間経ったのだけれども、休職して台湾に来ているので、もう仕事に戻らないといけないということでした。仕事は沖縄の土木技術の関係で、米軍の敷地のもろもろの工事を担当しているのだそうです。年も僕と同じで、建設工事従事者ということで、Nさんそっちのけで、中国語の勉強の話や台湾での仕事の話をしていました。彼は若いころ台湾の仕事を担当したことがあり、それが理由で中国語を勉強しようと考えたのだそうです。

彼は、地中連続壁工法の専門家だった!

そんな風に話している中で、NさんがTさんがある台湾の工事現場の様子を見て是非中を見学したいと言い出し困ったという話をしだしました。なんの工事かと詳しく話を聞いてみると、それは地中連続壁工法のことでした。Tさんはその工法を若い時によく担当していて、懐かしさの余り現場の様子を見たいと考えてNさんにお願いしたのだけど、それは叶わなかったということでした。
彼によると、この工法は彼がまだ若いころ、30年ほども前にはたくさんの現場で採用されて実施されていたのだけれども、日本ではだんだんと他の工法に置き換えられてしまい廃れてしまったのだそうです。それで、この工事を今でもやっている台湾の工事現場が気になって、そんなお願いをしたということでした。

これは僕にとっては、まるで天の恵みの様なものでした。身近に誰も地中連続壁工法のことを知らない中で、自分で勉強して対応するしかないと考えていた時に、想像もしない形でこの工事に経験を持つ日本の技術者と知り合うことができたのです。
彼は,その翌々日日本に帰るというタイミングでした。それで、その日はFBのMessengerの連絡先を交換し別れました。

彼が日本に帰ってから、チャットベースでいろいろなことを教えてもらいました。日本における土木建築協会で地中連続壁工法の専門書を入手できること、台湾の営造会社から提出される施工要領書についての疑問についてなど。30年前の日本の工法と、現在の台湾のそれでは、様々な面で考え方が異なり、それを台湾ベースで行ってよいものかなどということについても相談をしました。工事が始まるとその様子を写真で見てもらい、彼の経験によって意見をもらいました。

こういうことがあり、僕は台湾で初めて臨む地中連側壁工法に、期せずして有力なアドバイザーを得ることができました。彼は日本に帰ってしまい、仕事が忙しくなったので、その際に僕が担当していた工事現場に見学してもらうことはできず、その後コロナが発生し日台の行き来が難しくなっていまったので、暫く台湾で会うことはできていません。一度沖縄に行った際に再会し、彼の懇意の居酒屋で食事をしたことはありました。その後も連絡を続けています。

これは偶然か?

台湾で、地中連続壁工法の専門家に会う。30年前から以降、日本では廃れてしまった工法のことを知っている技術者にです。そんなことは普通に考ても願っても叶わないことでしょう。これは、日本であってさえも難しいでしょう。そのような人物を探して、紹介してもらい会うというなら可能性はあるかもしれません。それが、まったくの偶然で出会ったのです。

まず、僕は台湾のNさんに感謝しています。彼女のちょっとした閃きで僕はこの有力なアドバイザーを得ることができました。そのことは言葉でも伝えていますが、彼女は自分のやったことが僕にとってそれほど助けになるとは思ってもみなかったようです。

このNさんは、この他にも僕に奇跡をもたらしてくれています。きっと彼女は台湾の神様の化身に違いないと、僕は考えています。


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