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学生時代のヨーロッパ旅行(その十九、イタリア)

バックパックを丸ごと盗まれ、列車の出発まで5分。この後どうするか、すぐに結論を出さなくてはなりませんでした。

そのままイタリアに

落ち込む間もなく、列車の中で対策をいくつかシミュレーションしてみました。

1. 駅で盗難届を出し、バルセロナで荷物が出てくるのを待つ。このようにしても、バックパックが出てくるかどうかあまり確実ではない様に思われました。時間もどれだけかかるか分かりません。幸いに、貴重品は全て手元のリュックサックにあります。どうしても取り戻さなくてはならないものはないと判断しました。
2. このまま、南フランスに入る。これは可能ですが、全くの手ぶらで、ヨーロッパでも有名な高級リゾート地に行くのがとてもふさわしくない様に思われました。
3. フランスの後に訪ねる予定だった友達を頼って、直接イタリアに入る。そこで、最低限必要な日用品を買って旅行を続ける。イタリアの方がフランスよりは物価が安いので、旅の道具を揃えるにはこの方が適当でしょう。

少し考えて、3番目の方策を取ることにしました。イタリアには沢山の友達がいましたが、最初に訪ねる予定にしていたのは、Lago Maggiore(マッジョーレ湖)の近くに住んでいたGianniのところでした。Tiptreeでも最も親しくしていた彼のところにお邪魔して、荷物の準備をして出直そうと考えました。

Gianniの家で

このマッジョーレ湖というのは、今もって日本であまり聞くことのないイタリアの地名です。スイスとの国境にあり、湖は2カ国にまたがっています。ですので、山のとても高いところにあり、非常に景観の良い場所です。実際にイタリアでは避暑地として有名なところだと聞きました。Wikipediaにはイタリアで2番目に面積の広い湖とあります。Gianniはこの湖の岸辺にある小さな村に住んでいました。

僕がこの様な旅行をして彼のところに遊びに行くことは、イギリスにいた時に既に話をしてありました。しかし、上記の様な事情でイタリアに入ったので、彼の家に連絡したのは、地元の駅に着いてからでした。
電話をすると、幸いなことにGianniがいました。直前までユーゴスラビアのガールフレンドのところに行っていたのが、ちょうど少し前に帰ってきたとのことでした。なんとラッキーなことでしょう。そして駅に出迎えに来てくれて、彼の家に連れて行ってくれました。
僕がバルセロナで荷物を盗まれて、ここで着るものを何着かと、それを入れるバッグを買いたいと考えていると伝えると、彼はそれはひどいと同情してくれて、ズボンとシャツを2揃え、カーディガンを1つ、それにそれが入るくらいの大きさの手さげカバンを用意してくれました。そして、それを持っていけと言ってくれました。
僕は、全くそんなことは期待していなかったので、とても驚きましたが、この好意を素直にありがたく受け取りました。下着はその後街で買いましたが、この装備でこの後まだ2ヶ月続く旅行を続ける方ができました。

僕の南ヨーロッパでの印象は、このような経験で、荷物を盗まれた負の印象を帳消しにして、逆にプラスになってしまいました。治安の悪い、油断のならない国であることと、この様な友達にとても親切な、人情味に厚い人達というのは、同じ国民性の裏と表なのだろうという印象を持ちました。
日本の国でこの様な列車の中で荷物を盗まれるということはないでしょうが、逆にこの様な親切を受けることもない様に思います。この時のGianniの恩は今でも忘れられません。

Lago Maggiore

Gianniの家では4泊ほどしました。その間、マッジョーレ湖にある、彼の叔父さんの家に遊びに行きました。叔父さんはこの湖で漁師をやっているということでした。そして、湖の中にある島に小さな小屋を持っているというので、そこまで遊びに行こうというのです。行く手段は手漕ぎボートでした。

2人で、長さ3mほどのボートに乗って、交代でオールを漕ぎながら目的地の島を目指しました。30分ほどせっせと漕ぎながら島に着くと、小屋には叔父さんが待っていました。そして、そこで湖の新鮮な魚を使った料理と、簡単なパスタをご馳走してくれました。それは、鮎の様な小さな白身魚でしたが、オリーブオイルと塩で味付けしただけのシンプルな魚料理が、とても美味しかったのを覚えています。やはり、漁師は魚の美味しい食べ方をよく知っていますね。

商人の叔父さんの話

Gianniは、夜な夜な僕を友達のところに連れて行ってくれました。そして、このマッジョーレ湖の畔での生活はとても退屈だと話していました。観光で来るには、景色も素晴らしく、空気も綺麗でとてものどかな場所ですが、都市的な娯楽には欠けているのでしょう。早くここから出たいという話をしていました。
このGianniとは今でもFBで繋がっているのですが、旅好きな性格はそのままで、モルディブの海で潜水のインストラクターをしながら、しばらく過ごしていました。

もう一つGianniのこの家で、僕の一生を変えてしまうことになる出来事がありました。それは、たまたまイタリアに戻っていたGianniの叔父さんから、中国の話しを聞いたことです。このおじさんは貿易商人で、世界中あちこちで自分達の商品を売っているとのことでした。そして、たくさんの国々のマーケットの中でも、特に中国が有望だと話しをしてくれました。日本人なら何故中国に目を向けないのだ?こんな大きな市場が日本の近くにあるのにと言うのです。

その時は、僕はヨーロッパを旅行中で中国には全く関心がなく、何か突拍子もない話しを聞いたという印象でした。しかし、この言葉がきっかけになって、僕は大学卒業後、中国語の勉強を始め、台湾への語学留学をし、台湾人の配偶者を得ることになりました。
この時にそんな話しをしてくれたこの人生の先輩には、とても感謝しています。

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