台灣正名運動
僕には、ある妄想があります。
それは、ある日"中華民国"が国の名前を変える。"台湾共和国"、英語にすると"Republic of Taiwan"という名称に国名を変更するのではないか、という妄想です。
中国の一つの中国政策
中華民国は、今は多くの諸外国と国交を持っていません。中華人民共和国の圧力の元、諸外国と国交を結べない状況です。そして、この中国の言い方をアメリカも日本も"尊重"しています。そのため、中国の"一つの中国"政策のもと、中華民国という中国は認められない。その様なロジックになっています。
また、中国は台湾の"独立"を許さないという言い方もしています。これは、中国の国内には多くの独立を求める地域があり、それらと同じ様に台湾の土地も、中国から離れ独立するということを阻止しよう。そのような意図での発言でしょう。
政治実態としては存在している中華民国
一方、中華民国は、上記の独立論に関しては我々は既に中華人民共和国とは別の、異なった政治実態である。すでに独立している、というロジックで、中国の言う独立論については、議論をしない。ことさらに独立を言い立てることはしないというスタンスです。
国際的にも、中華民国は独立した政治実態で、独自の国土と国民を持ち、政府も軍隊も貨幣も有する。独立国とみなして対応している。その様な状態になっていると思います。
二つの中国は並び立たない
中華人民共和国の一つ目のロジック、中国は一つであり、二つの中国が並び立つことは許されないということに関しては、逆にそれならば、国の名前を中華民国ではない、別の名前にすれば良いのではないかという議論が、理論的にはできるはずです。
そもそも、現在の中華民国の統治している国土、領域は、台湾島と金門島、媽祖島、澎湖島等を主としたもので、中国の国土全体ではありません。
そうすると、この領土に相応しい名前に国名を変える。そうすれば、中国の"中国は一つ"という論理には抵触しないはずです。「我々は、中国ではありません。○○です。」
そして、この〇〇に相応しいのは"台湾"であると思うのです。
台湾人のアイデンティティー
僕が、台湾人に時々反問することがあります。
「あなた方は、自分のことを台湾人と言うが、世界中、自らのことを台湾と言っている国家はないじゃないか。あなた方のパスポートには漢字で"中華民国"と書いてある。英語では"Republic of China"と書いてある。台湾ではない。あなた方は、中華民国の国民であって、台湾人ではない。中華民国であれば、中国ではないか。在留カードに中国と書いてあるのは正しい。」
台湾人が自ら言っている"台湾"という概念は、とても多義的な言葉で、それは台湾という島のことかもしれないし、台湾語を話す閩南系漢人という意味の台湾かもしれません。
しかし、ハッキリしていることがあります。それは、今現在、自らのことを台湾と名乗っている国はないということです。
台湾民主国
1895年、一時の徒花のように"台湾民主国"という国が存在したことがありました。これは、清朝統治下にあった台湾の政府と人民が、日本軍による統治に反対して起こした闘争に対して名付けられた国名です。
この国家は、1895年の5月から10月まで存在しました。日本政府は、この運動を単なる民衆の反乱と位置付け、国家としては認めなかったため、日本の書籍で大きく取り上げられることはありません。
しかし、これは台湾の民衆が自らの力をかけて、日本軍に抵抗した運動です。台湾民主国の兵力は、清朝から派遣されていた黒旗軍と共に、多くの民間の義勇兵を含んでいました。その数は黒旗軍に対し、義勇兵は3倍の規模を持っていたそうです。
この国家は、日本軍に対して半年ほどで敗北を喫していますが、この運動は台湾の民衆が自らの土地を守るために止むに止まれず立ち上がった、台湾の名を冠するに相応しい歴史的出来事であったという評価が最近なされています。
少なくとも、台湾の名を冠した国家なり運動なりが過去存在したことは事実です。
曹永和による台湾島の歴史
中華民国の歴史家である曹永和氏は、"台湾島史観"という見方を提示しています。台湾人はこの台湾島に生まれ育った民衆の歴史を学ぶべきで、それは原住民の時代から、明鄭の東寧王国、清朝時代、日本統治時代を経て現在の中華民国に連綿と連なっている。
曹永和はここでキーワードを"台湾島"としており、台湾の歴史とは言っていません。彼の認識でも、台湾という言葉は、執筆の時点では国家主体ではない。あくまでも地域の名称でしかない、ということだったのでしょう。
台湾正名運動
現在では"台湾"というこの名称は、国の名称ではなく、地域の名称として使われているというのが、一般的な定義の様です。ですので、日本から台湾に行ってきますと言うのは、台湾という地域、島に行ってくるという意味であり、台湾という国に行くということにはなりません。
私は台湾人ですという場合には、日本人が日本人ですという場合とは異なり、台湾という場所から来ていますという意味にしかならず、国籍は台湾ではありません。中華民国です。
台湾の人は、日本に来ると私は台湾人ですということがほとんどなので、日本人が日本という場合と同じ様に、台湾という国がある様に錯覚します。しかし、上に書いた様に、この世の中に中華民国という国はあっても、台湾という国はありません。
この台湾という名前の、国外における曖昧な使われ方に疑問を呈し始めたのは、日本にいた台湾人なのだそうです。「今の様々な中華民国の組織における、中国及び中華の名称を台湾に変更すべきだ。」これは、我々は中国ではない、台湾だ。中国人ではない、台湾人だと言った主張になりました。
この活動の中心にいたのは李登輝だったのだそうです。そして、台湾本土化運動の一環として展開していきました。
Wikipediaによる台湾正名運動のスレッド
台湾正名運動の目標
具体的に、この台湾正名運動が何を目指しているかについては、Wikipedia に次の様に説明があります。
ここには、非常に広範な領域で台湾化を進めるという目標が定められています。そして、僕の認識ではこの活動は具体的な政策となって、既に様々な方面で実現しています。
例えば次の様な例があります。
パスポート
現在中華民国のパスポートには、漢字名は中華民国のままですが、英語名はRepublic of China(Taiwan)と括弧書きでTaiwanが加えられています。
台北駐日経済文化代表処のロゴ
"Taiwan"がクローズアップされる様、ロゴがデザインされています。
リトアニア台湾代表処
日本の中華民国の在外公館は"台北経済文化代表処"となっており、台湾の名前は使われていません。しかし、中華民国政府は、より密接な外交関係を持っている国では、在外公館に台湾の名前を使い始めています。
このリトアニアの例は、ソマリランドに続いて二つ目の事例だそうです。
上に紹介したのは、僕の目に留まった比較的目につく案件ですが、Wikipediaの説明には、事細かにこの"台湾"の名前を用いる様になった事例が、広範に紹介されています。興味のある方はご覧になってみてください。
台湾の名の下に
台湾正名運動の説明の中には、「国号(国名)を、現在の「中華民国 (Republic of China) 」から、「台湾共和国 (Republic of Taiwan) 」に変更する。」と究極的な目標が掲げてあります。
これは、僕の妄想していることと同じです。ある日、中華民国は独立した政府として、自国の名称を変更することを宣言する。これは、自立した国家として権利のある行為です。他国が口を挟む問題ではありません。
そして、いったん中華民国が国名を台湾と変えてしまえば、中国の"一つの中国の原則"に拘泥する必要はありません。アメリカも日本も、この新しい国、"台湾共和国"、"Republic of Taiwan"と国交を結ぶことができます。
その様に手続きを踏んだ上で、ようやく二国間或いは多国間の安全保障の問題を協議することができる。アメリカ、日本、台湾を結ぶ安全保障を考える枠組み、これは、"台湾"という名称の国を、国家として認めることから始めないといけません。
そのためには、中華民国自らが自国の名称を、"中華民国"から"台湾共和国"に変えることを宣言しなくてはなりません。そして、このことが新しい日台関係の出発点になるのではないかと考えています。