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【台湾建築雑観】家賃が安すぎる!

僕は、台湾で日系ディベロッパーの建築コンサルタントの仕事をしていますが、その中で感じていることがあります。それは、台湾では不動産価格に対して家賃が安すぎるということです。

マンションの場合

台湾、特に台北や新北、台中や高雄などの大都市ではマンションの価格は給与水準に比較して非常に高く、一般のサラリーではとても手が出ない金額になっています。例えば、僕の住んでいる台北市中山区中山北路の不動産屋に出ている物件の金額感はこんな感じです。

一般的に小規模な家庭で使う部屋は2LDKであれば25坪、3LDKであれば32坪といったところでしょうか。この程度の広さであれば、台北の中心部では坪単価は150万元/坪から200万元/坪にもなるであろうと考えられます。
25坪×150万元/坪=3,750万元(約1.9億円)
25坪×200万元/坪=5,000万元(約2.5億円)
32坪×150万元/坪=4,800万元(約2.4億円)
32坪×200万元/坪=6,400万元(約3.2億円)

一方、この辺りで同じ面積の部屋を借りるとすると、相場感は20,000元から30,000元程度。内装工事にお金をかけて、外国人向けの高級賃貸物件として、40,000元から50,000元というところでしょうか。

この相場感で、20年間の収入を試算してみます。
20,000元×12月×20年=4,800,000元(約2,400万円)
30,000元×12月×20年=7,200,000元(約3,600万円)
40,000元×12月×20年=9,600,000元(約4,800万円)
50,000元×12月×20年=12,000,000元(約6,000万円)

この様な計算になります。

この様な結果から、建物の金額だけだとしても、部屋を貸すことによって得られる収入は、20年をかけても全く回収できないことが想定できます。日本人向けの内装改修などすれば、その分予算が数百万元単位でかかってくるため、初期投資の金額は更に高騰することになります。
この様な状況のため、不動産投資で買った部屋を貸し出すことによって収入を得ても、投資対リターンの検討をすると全く採算が合いません。

ですので、台湾の投資家はこの様な収支計算をして利益が出るということで不動産を買ってはいません。彼らは、不動産そのものが価値を増すということを信じて、投資をしています。1980年台の日本の様です。日本人はこの様な不動産価値の上昇には限界があることを学び、その様なキャピタル・ゲインを期待する投資はあまりしないようになりました。しかし、台湾は今もってその様な不動産投資環境の中にあります。

不動産投資と家賃収入の関係がこの様なものであることは、前から知っていました。なので、日本人の感覚で、家賃を払うことと部屋を購入することを比較すると、不動産の価格があまりに高すぎて、買うことはリスクが高いと判断することになります。

オフィスの場合

僕がサービスを提供している日本のディベロッパーは、日本では多くのオフィスを建設して運営しています。それなので、台湾でもオフィスの計画はないのですかと聞いたことがあります。その時の返答は同じで、家賃収入だけでは投資に対して収入が少なすぎるので、採算が取れないというものでした。
オフィス事業の採算計画がどうなっているかは、門外漢なので分かりませんが、住宅の不動産価格と家賃収入と同じ様な関係になっているのでしょう。オフィスの家賃収入だけでは全く採算が取れないという結果になり、投資プロジェクトとしては成立しないのでしょう。
このことは、他のプロジェクト、例えばサービスアパート事業や、老人ホーム事業でも同じ様な傾向にあるそうです。ですので、この会社で運営している主力事業は商業施設の運営と、住宅の販売事業になっています。いずれも家賃収入で事業を成立させているわけではありません。

中国の影響で不動産バブルが弾けるのか?

ここ最近台湾の新聞やネットを賑わせている話題があります。それは、大陸中国やその声のかかった東南アジアや南アジアでの大規模プロジェクトが軒並み建設持続困難な状況に陥っており、不動産バブルがまさに弾けている状況の中、台湾の不動産市況は比較的落ち着いている。この状況はこのまま続くのだろうかという話題です。

以前書いた様に、台湾の主要都市での不動産価格は、通常のサラリーマンの給料ではまるで手が届かない金額に高騰してしまっており、僕はそれは中国の資金が台湾に入っているからではないかと考えていました。しかし、ここ数年の中国本土におけるゴーストタウンの乱立、同じ様な東南アジアでの不動産プロジェクトの破綻を見ていると、どうも台湾にはその様な出来事は起こっていないように見えます。
中国の影が見えるのは、中国の投資家をターゲットに進めていたプロジェクトで、目論見通りに中国の購入者が現れず、入居者の全くいない状態のままであるという建物が散見されるといった程度です。ですので、中国や東南アジアで見られる様な、巨大なゴーストタウンが出現するという事態は避けられています。
中国の不動産バブルの影響というのは台湾には同じ様な形では現れていないと見られます。

今後の推移は?

では、台湾のこの不動産高騰の状況はこのまま維持されていくのでしょうか?

一つの見方は、日本で不動産バブルが弾けた時によく言われていた、自己の居住用に使う不動産の価格は、せめて年間収入の5倍程度であろうということ。この基準をもってすると、台湾で大都市圏で購入する不動産の価格は既に大幅にこれを上回ってしまっており、基本的にバブリーな価格になっているのだと考えられます。

もう一つは、ここで述べた様な、家賃収入では不動産価格をとてもではないが賄えないという状況は、やはり市場の状況に対して、不動産の価格が上がりすぎているのだと考えられるということです。基本的にアンバランスな状況にあることは否定できない様に思います。

ですので、これは家賃が安すぎるのではなく、不動産価格が高くなりすぎている。家賃の方が、台湾のマーケットに相応しい価格を反映しており、それと比べると不動産価格が高すぎる。そういう状態なのだと僕は考えています。

しかし、現状この高騰した不動産価格が維持されており、下がるとは見られていません。中華民国政府は不動産価格がこれ以上上がらない様、様々な抑制策を講じており、その効果は疑問ではあるものの、現状不動産バブルには至っていない。そういう状況です。

しかし、一方でこの様に不動産市況が高値安定しているのは、一般市民にとっては幸せなことなのでしょうか?僕は日本の不動産バブルの真っ只中に成人し、社会人としてバブルの崩壊を経験した世代です。そういう時間経過の中では、社会人になりたての頃は、雲の上の話で購入など全くの夢であったマンションが、バブル崩壊後に比較的リーズナブルな価格になったのを見ています。そして、自分の手の届く金額でマンションを買うことができました。購入者としては、良い時期に買い物ができたと考えています。
その様な視点から見ると、台湾の不動産価格の高騰という問題は、何らかの形で正されなければならないのではないか。その様に考えています。

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