中華民国の国歌と国旗歌
パリオリンピックの男子バドミントンダブルスで、台湾の李洋・王斉麟組が金メダルを獲得しました。国家斉唱の際歌われたのは、中華民国国歌ではなく、中華民国国旗歌でした。
中華民国の国歌
僕が、30年前に台湾に留学に来て中国語の勉強に勤しんでいたとき、映画館に映画を見に行くと、映画の始まる前に起立させられ、国歌の斉唱が義務付けられていました。そういう時代でした。
ですので、中華民国の国歌の歌詞は、何度も字幕を見て歌っていたのでよく覚えています。歌詞は次のようなものです。
この国歌の概略の意味を訳してみます。
「三民主義は、我が党の信じる理想です。これを以て中華民国を建国し、世界平和を目指します。
皆さんは、人民の模範となって、日夜理想の実現に励んでいきましょう。
勤勉にそして勇敢に、理想を信じてこれに忠実に生きていきましょう。
心と徳を一つにして、志を貫きましょう。」
そう、この国歌は孫文の率いる国民党が、三民主義を掲げて中華民国を建国するという歌なのです。この国歌を歌うということは、三民主義を理想とし、国民党と共に戦おうという意思を、言葉にしている様なものです。
現在の台湾が、だんだんと国民党の一党独裁から民主的な政権に変わり、台湾島に住む住民のための政府となろうとしている時に、個人的にはこの国歌の歌詞はとても相応しくないように思います。何しろ、国民党が三民主義を奉じて革命を起こし、中華民国を建国しようという歌なのです。
この国歌に対し同じような印象を持っている台湾人は、少なからずいるでしょう。
中華民国の国旗歌
今回、金メダルを獲得したことにより、オリンピックの競技会場で歌われた歌は、中華民国の国歌ではなく、国旗歌でした。僕はこの国旗歌は初めて聞きました。
台湾の人はこの国旗歌が歌われたことに対してもとても感動したと報道されていますので、台湾人にとってはよく知られている歌なのでしょう。
この中華民国の国旗歌の歌詞も訳してみます。
「雄大な自然、豊富な資源、古代から繁栄し、東アジアの覇者でした。
自暴自棄にならず、立ち止まらず、我が民族の栄光を讃え、世界平和を目指しましょう。
新しい国を起こすのは簡単ではありません。先達の偉業を思い起こしましょう。
短期的な成功にとらわれず、過去の成果を引き継いでいきましょう。
心と徳を一つにして、最後までやり遂げましょう。青天白日旗の元に。」
この歌は、正面きって三民主義とか我が党とか歌ってはいないので、それほど国民党の歌という感じはしません。青天白日旗は国民党のものではなく、中華民国の国旗です。
しかし、前段に歌われている自然であるとか、"炎黃"とあるヴァキャブラリーは、中国の大地と歴史を彷彿とさせます。日本人がサラッと読んでもそのニュアンスははっきり分からないのですが、中国語の意味を一つ一つ正確に把握していくと、この歌はやはり中国の自然と歴史を踏まえた、中華民国を讃える歌なのですね。台湾人にとっては、この歌詞からは何の台湾らしさも感じられないそうです。
日本人の感覚で、オリンピックで金メダルをとったのに、自分の国の国歌を歌えなくて可哀想と思うかもしれませんが、実のところ多くの台湾人は、この国歌にも国旗歌に対しても、とてもアンビバレンツな感情を持っているようです。