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記憶の旅日記7 ベルリン

今ドイツに住んで17年になる。もうすぐ人生の半分この国過ごしたことになる。一番最初にベルリンに来たときは21歳で一人旅をしていた時だった。

7月で21歳になったばかりで、オックスフォードの語学学校が夏休みになり、秋から始まるサリーの美術大学に入るまで時間があった。アルバイトをして過ごすかも考えたが、宿のお金をバスパスに当てて2ヶ月旅をしてみることを思いついた。当時学生で2ヶ月間バスをヨーロッパで乗り放題という格安チケットがあり、オックスフォードのチケットセンターでそのバスパスを買った。学生寮を出る準備をして、街で地図とヨーロッパの分厚いガイドブックを買った。最後の週にパーティーを開いてくれたのだが、そこにいた仲良くしてくれた、もう名前も忘れてしまったけれど、女の子に傷つける言葉をパーティーで言ってしまい、最後の日に全然話してくれなかったのをいまだに後悔している。

赤いバックパックに荷物を全部入れて、部屋の鍵を閉めてオックスフォードからバスでロンドンに行き、ヴィクトリア・ステーションのバスターミナルに着いた。ヨーロッパを時計回りに回ろうと決めていたぐらいで行き先を決めていなかった。時刻表の次に行くバスを見たらベルリンだったので、そのチケットを買ってそのバスに乗った。ロンドンから数時間バスに揺られて、ロンドンの街を抜けて田舎の道をひたすら走り、バスが止まった。暗い倉庫みたいな中にバスがゆっくり入って行き停車した。しばらくするとゴーという音が鳴り響いてきて、その倉庫が丸ごと大きな電車だということがわかり、その電車がイギリスとヨーロッパのドーバー海峡の下を渡っていることに気がついた。そこを抜けるとフランスだった。車線の方向が変わり標識の言葉が変わった。バスの中では地図を見たり、スケッチをしたり、外を眺めたりTOEFLの勉強をしたり音楽を聞いていた。英語を勉強するために、ビートルズやボブ・マーリー、ベックなどをCDで聴いていた。

確かベルリンにはすごく朝早く着いたと思う。バス停の近くのコインロッカーにバックパックを預けて、必要なものだけ持って街に出た。ドイツ軍のアーミージャケットを着ていたけれど、7月のベルリンの朝は震えるように寒かった。街はとても近代的な建物と、ボロボロのままの建物が一緒に並んでいて、それまで見ていたイギリスの風景とはまた違ってとても新鮮だった。イギリスは積み重ねられた年月が、荘厳な石造の建物と街並みで作られている。ベルリンはその点一度歴史が壊されてそこからの「途中」だった。その完成されていない街並みが、これから何か起こりそうな予感がしてすごく好きだなと思った。その日はたくさん街を散歩した。お金がなかったので、大きいコーラのボトルと、トルコの大きな円板状のパンを買って、それでとりあえずお腹はいっぱいにすることができた。

7月は日が長く夜まで明るかったが段々と日が暮れてきた。宿代を全てバスチケットに使ってしまい宿に泊まるお金がなかったので野宿することにしていた。街の真ん中にあるティーアガルテンという大きな公園に行った。公園の中はもう真っ暗だった。寒かったので枝を拾って焚き火をしようと思い、木を集めて火をつけたが湿ってつかなかった。今思うとあそこで焚き火なんかしたら消防車が来ていたところだと思う。凍えるぐらいに寒かったので諦めて歩くことにした。静かな公園の茂みの暗い道で突然ガサガサという音がした。びっくりしたらネズミだった。ネズミか、と思ってホッとしたら、空から大きな鷹が飛んできて、目の前でそのネズミを捕まえて飛び去って行った。都会の真ん中の静かな暗がりで、自然の脅威を感じていた。

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