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【名著】『創造の方法学』から学ぶ分析思考

大学で社会学を学ぶならば、入門書の1つとなる本📚社会学入門的な授業で教科書に取り上げられているそうだ。そうではあるが、ビジネスにおけるロジカルシンキングの本としても、非常に有用であるということに気づいたので、書評を書いてみることにした。

初版は1979年ですが、2021年においても有用な内容になっていて、もはや普遍的な知的創造の技術のロングセラーここにありという感じ!

1.全体のサマリ

西欧文化の輸入に頼り、「いかに知るか」ではなく、「何を知るか」だけが重んじられてきた日本では、問題解決のための論理はいつも背後に退けられてきた。本書は、「なぜ」という問いかけから始まり、仮説を経験的事実の裏づけで、いかに検証していくかの道筋を提示していく。
(Amazonの冒頭より引用)



2.面白いと思った箇所

①因果関係

因果関係が成立するために必要な条件は、次の3つ。なお、独立変数とは原因、従属変数とは結果と読み替えると分かりやすい。

⑴独立変数の変化が、従属変数の変化に先行する(時間的な序列)
⑵独立変数の値が変化すれば、従属変数の値も変化すること(共変関係)
⑶問題になっている独立変数を除いた、従属変数に影響を与える他のすべての変数に重大な変化がない

1つずつ整理すると、⑴は原因が先に来てその後に結果が表れるという事。⑵は、原因と結果の変化につながりがあること。⑶は原因となっている事象の他の現象がその因果関係に影響していないこと。

特に⑵と⑶は注意が必要であろう。⑵はいわゆる「相関関係」ではなく、「因果」が生じていることを強調していると思われる。よくある勘違いで、因果と相関を混同するケースがあるが、その点に触れているのだろう。また、⑶については具体例を出した方が分かりやすい。たとえば、スーパーカーの100キロ到達時間を測定する場合、独立変数は運転動作・従属変数は到達時間となる。しかし、車のセットアップ・路面状況・天候といった様々な独立変数が存在するのも事実である。このような独立変数を「統制」することで、再現性の高い測定結果を求めることが大切ということ。

②定量分析

因果関係にある事象の背景には、実は「より深い原因」があったというケースは日常生活でもよくある。仕事でいえば、チームの成果が出ないのは、メンバーの行動量の少なさだと思っていたところ、ボトルネックはそもそも計画の立て方が分からない・効率的な行動パターンを取得できていないといった具合である。

このような多面的・複雑な因果関係をあぶりだすための方法として、「多変量解析」という手法がある。ザックリまとめれば、従属変数と独立変数という1:1の関係ではなく、そこに第三の変数を「統制変数」として導入するというもの。統制変数が加わることで、1:1の関係に揺らぎを与えるのである。その結果、従来の二変量間での関係が確かなものなのか、または偽りの関係なのかを暴くことができる。

統制変数の役割について、ディスカッションするときに敢えて批判役を演じる「悪魔の代弁者(Devil's Advocate)」と似ているという印象を持った。この場合の批判役とは、ただの抵抗勢力ではなく、ある主張の妥当性を明らかにするために、あえて批判や反論を主張する、その「役割」を意識的に担う存在という位置づけである。物事を多面的にとらえるためには、あえて反対の意見を取り入れて、検討を行うことこそが、その判断の正当性が担保できる合理的な方法ということ。

③フィールドワーク

体験を理論的な枠組みへ昇華するためには、いわゆる帰納法的なアプローチが求められるが、その具体的なノウハウを体得する機会はなかなか無い。

この本の中では、文化人類学や哲学における構造主義的なアプローチによって、経験からの学びを体系化したエピソードが書かれている。読み物としても面白し、その文書を要約して載せることは難しいので、詳しいことは本の中に譲るとする。

やや脱線するが、近代哲学やガチな社会学理論は、端的にまとめようとすると全体像が描けなくなるという傾向があるように最近感じている。おそらく、様々な理論が有機的につながり、複雑な知の体系を構成しているからなのだろう。

3.まとめ

最終章において大学教育の根本機能というセクションがあり、そこにこの本の意義的なことが書かれているので、それを抜粋しておきたい。

たとえば、半世紀前(注:この本の出版は1979年)までは、エジソンやライト兄弟のような、理論を知らぬ町の発明家が、歴史的に重要な発明・発見を行うことが可能であった。しかし、現代においては、高度な理論を駆使することなしには、重要な発明・発見を行うことは、もはや不可能なのである。その上、加速度的に発展する現代の学問の世界においては、既成の理論や事実についての固定的な知識は、たちまち時代遅れになってしまう。そうだからこそ、「何を知るか」ではなく、「いかにして知るか」という、基本的方法の学習が大学教育の中心的機能とならなければならないのである。

これは、ビジネスの世界でも同じだと思う。会計・ファイナスまたは会社法・金商法、さらにはITや人材マネジメントまで、いわゆる「ヒト・モノ・カネ・情報」という経営リソースに対する知識は、増大する一方である。サッカーに例えれば、オフサイドを知らずにフォワードがつとまらないように、ビジネスにおいても基本的なルールを知らなければ会社の経営は成り立たない。

さらに、単に知識があるだけではなく、それを活用して成果出せることまでが求められるわけだから、理論と実践のPDCAを回し続けることの大切さは言うまでもない。ここに、「いかにして知るか」という問題の本質があるような気がする。

内容はアカデミックな色合いが強いですが、ビジネスの現場にも有効な良書である。

以上、精読ありがとうございます(^▽^)/

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