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【イトログ_006】 きっかけ(6)

※この記事は2016.01.05に書かれたものです


自分が産地で選んで購入したコーヒー豆。

初めてお店の焙煎機に入れるときに、なぜだかとても緊張したのをよく覚えている。

僕の目の前で、あんなにも精力的に仕事をしていた農家さんたちが作ったコーヒー豆は、最終的に僕たち焙煎人に託され、最終的な受け取り人となる消費者の元へと渡っていく。

日常では出会いようもないほどの距離が離れた生産者と消費者が、自分を通してつながることに喜びを感じながらも、その責任の重さを改めて感じていた。

僕に託された、ということは、僕の仕事ひとつで素晴らしくも最悪にも変化させることができ、それがひいては生産者たちの仕事として消費者に評価されていく。

責任は重い。けれども、こんなにも自分の仕事にプライドを持つことができることが簡単に見つかるだろうか。

心地よいプレッシャーの中で、僕は自分の仕事に改めてプライドを感じることができた。

今はなにもかもが便利になって、産地のことも調べればある程度は簡単にわかってしまう。
(本当はわかったつもりなのかもしれないけれど)

ただ、空と葉との美しいコントラストを湛えたコーヒー農園の風景や、コーヒーの果実が発酵した独特の臭い、そこで働く人たちの息遣い、作り手の性格、見たこともない食べ物、インターネットでは決して得られない『体験』がそこにはある。

もっと言えば、一度限りの訪問では見えなかったことが、毎年新しい体験として自分自身の中に積み上がっていく。

そしてその体験こそが僕たちの原動力であり、良い仕事への意欲となり、最終的にお客様の満足度へと結びついていく。

そのお客様の満足度の高さが、僕らを通じて生産者たちの評価になることがとても嬉しい。

毎年変わっていくコーヒーの味と、変わらない農家さんたちとの友情を楽しみながら、僕らも生産者の一部を担う存在としてもっと高め合っていかなければならない。

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