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サブスク時代のCDの立ち位置
今回もしょうもない与太話です。
本格的なサブスク時代に突入してから10年が経過しました。CDは売れ行きを落とす一方で、サブスクはすっかり定着した感があります。
僕は同人活動でCDの制作と頒布をする傍ら、並行してサブスク配信を行なっています。その分、CDという存在に向き合う機会も多いと自認しています。そういう僕が「CDというメディアをどういう風に眺めているのか」、という個人の感想と想いを書いていきたいと思います。
CDって、もういらない子なのですかね?
世の中は利便性が最優先にされています。CDが普及したのも、レコードにはない取り扱いの楽さとカジュアルにハイファイな音の恩恵に預かれるといった点が、CD黎明期の'80年代の音楽ファンに支持されたのかもしれません。
'90年代はCDの時代とも言えるくらいCDが売れました。日本では「J-POP」という言葉が生まれ、ミリオンヒットを飛ばすCDがたくさんリリースされました。
その雲行きが怪しくなったのは、'00年代に普及した音楽データの圧縮技術(MP3など)とDAP(iPodなど)の登場です。ついでAppleのiTunes Music Storeなど音楽データのダウンロード販売が始まったことで、CDを介さないリスニング環境が整えられる方向に世の中は進んできました。CDの売り上げ減はこの辺りから始まったと世間では言われています。
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現在多くの音楽リスナーはCDを直接再生することなく、音楽を楽しんでいます。CDの売り上げ減やネットの高速化に伴い、データの提供手段としての光学ドライブがパソコンに付属しなくなったのも決定打になったようです。そもそも最近は、パソコンすら持っていない人の方が多いくらいですしね。
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「音楽を購入する」といった体験が減ったため、どうしても音楽を物理的に手元に置いておきたい人がCDを購入するのみに留まっています。
「ファングッズ」としてのCD
今の商業音楽のCDは、音源以外の要素がいっぱい
そんな中でCD(特に商業音楽のCD)は、少しずつ立ち位置を変えてきました。最初の変化はボックス等の販売でしょうか。
特典付きでライブ版やベスト盤、歴代のアルバムをリマスターしたCDをまとめたボックスなどが販売されました。ある程度の高い値段(5桁)でも売れたのは、発売当時とは異なる音源を聴き比べたり、もしくはアーティストのヒストリカルな情報を求めて手にいれるグッズとしての価値が、ファンにとってはあったのかもしれません。
次に出てきたのが、アルバムやシングルに特典をつけたもの。例えばライブの優先申込権利やアイドルの握手会の応募券などをつけたものだったりします。また、MVやライブ映像をDVDに収めた2枚組として販売しているものもあります。
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前者は従来ファンクラブ等を通じて会員限定で行っていたものを、CDの購入という体験を通して多くの人たちに対して行うもの。後者はCDに課せられた販売価格の縛りを回避する対策(CDではない商品として売る)の可能性も想定されます(制度の正確な情報は把握しておりませんので、悪しからず)。
前者は批判を浴びる要素もありました。同じタイトルで特典別に複数のCDを発売することもあったため「ファンに、必要ないものを買わせている」と言った批判が主だったでしょうか。「CDは、収録されている音楽にしか価値がない」と思っている人にとっては、確かに許せない要素かもしれません。
その後、CDはグッズ化やDVD同梱がごく当たり前のように行われるようになりました。
現在の日本で販売されるタイトルでは、多くのアーティストが「初回特典版」「通常盤」「DVD付属版」などを用意するに至っています。ただ、全てを同時に発売することもないようで、実際は「初回特典版」がある程度捌けない限り「通常盤」が製造されない(もしくは流通に回らない)といった事例もあるように見えます。
また、シングルやアルバム単体でのボックス化も見かけるようになりました。
ネットアーティストやK-Popのタイトルなどでは、写真集やチェキ、ステッカーやアクリルキーホルダーなどをボックスに詰めたパッケージを複数用意する例を見かけます。CDは箱の中で、申し訳程度についている感じです。通常のCDのようにジュエルケースに収めるのではなく、紙ジャケットに封入したり、モノによっては厚紙の台紙にCDを取り付けているケースも見かけます。
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また極端な例では、アルバムにCDが付属せずグッズのみ内包しているものもあります。CDの代わりに、サブスクやダウンロードへの案内が載せられているといったものですね。これは同人などに多いダウンロードカードの考え方を応用したものでしょうか。
グッズCD、購入者からすると?
一方で、購入者からしたらこの流れはどう映るのか。これは、立場によりけりなのかもしれません。
こうした流れを、「グッズ商品」としてや、「アーティストとファンのコミュニケーション手段を提供するツール」として捉えた場合、音源だけに留まらない提供はCDの形をとっているとはいえ「推しの時代ならではの商品」と解釈できるかもしれません。
一方で、先に挙げた「CDは、収録されている音楽にしか価値がない」と考える人にとっては、これは十把一絡に邪悪な意図のように見えるはずです。ただそれでも、こうした斜に構え・ましてCDの売り上げを支えるために彼ら彼女らのCDを買う行動もない人(非購入者)たちにとっては、CDを売るためのどのような発想も、永遠に糾弾すべき邪悪な意図にしか見えないのかな、というのが僕の認識ですね。
それにしてもCDって復権しないんですかね
アメリカではLPの売り上げが既にCDの売り上げを抜いているそうです。有名メタルバンドであるMETALLICAは、自分たちのレコードを製造するために工場を買ったと聞いています。レコードは完全に復権しました。
CD普及の鍵となった便利さに対するアンチテーゼの部分もあるのかもしれません。効率化に急かされている世の中で、ゆったりと無駄な時間をかける余裕がレコードの取り扱いには求められます。そうした時間を大切にする人たちに、レコードは支えられています。
CDは今のところ全てが中途半端です。前述したような「グッズアイテムとしての道」を模索しているようにも見えますが、推しブームはいずれ去りますし、そういった方向性で売るのも限度があるかもしれません。
そうなるとCDの復権はあり得ないのでしょうか。いくつか可能性を考えてみます。
例えばそれは、高級オーディオのより低価格化が後押しするしれません。無論、ネットワークオーディオのようにCDを用いないものもあります。ただ、CDもしっかりとした再生装置であれば、かなりの音質で再生できるのは長年の蓄積で証明されています。もしもより素敵なリスニング体験を提供する商品が低価格で提供されるようになれば、ネットワークオーディオのように複雑ではなく、かつレコードにはないハイファイさを求める人たちには一定の需要があるかもしれません。
また、ポータブルCDプレイヤーの新商品の話題も再び見かけるようになりました。こちらはBluetoothなどに対応の上、スタイリッシュなデザインと操作性の良さをコンセプトにしたものが多いように見えます。スマートスピーカーのような手軽な音楽体験手段を求める層も存在するので、近い層でCDを手軽に楽しめる手段として認知されるといいですね、といった感じです。
以上、取り留めもない与太話でした。CD好きの皆様に、より良い未来がありますように!
執筆者プロフィール
メタル&ロック系ボカロ曲制作者。人の内なる成長や希望を、メタルやロックをベースとした音楽で表現することを目指しています。
2013年活動開始、みるくかふぇ名義で約80曲を発表している。